Home > Reviews > Album Reviews > Terri Lyne Carrington And Christie Dashiell- We Insist 2025!
マックス・ローチの『We Insist!:Freedom Now Suite』(61年)は最高だ。コールマン・ホーキンスの雄々しいテナー・サックス。ブッカー・リトルの力強いトランペット。アビー・リンカーンの説得力溢れるヴォーカル。そして、ローチの紡ぐ強靭なグルーヴ。それだけで、なんの説明も要らないほどである。だが、同作がアフリカン・アメリカンの自由と権利を求めた闘いの所産だと知ると、少し聞こえ方が変わるかもしれない。公民権運動のスローガンとして制作され、奴隷解放宣言100周年を記念して発表された同作は、強烈なメッセージのこもったプロテスト・アルバムなのである。同時代の作品に較べても、切実さが違うのだ。
そして、このアルバムに敬意を払って作られたのが、グラミー賞を4度受賞したドラマー/プロデューサーのテリ・リン・キャリントンと、グラミー賞ノミネート経験のあるヴォーカリストのクイリスティ・ダシールによる『We Insist 2025!』だ。オリジナルが偉大すぎるが故に重圧も相当だったのではないかと推測するが、仕上がりは文句なし。ジャズ、ブルース、ソウル、ゴスペル、ファンクなどを折衷した闇鍋的なグルーヴが脈打っている。なんだ、こちらも最高じゃないか。
キャリントンとダシールはいずれも女性ミュージシャン。圧倒的な男社会だったジャズ・シーンの風向きが変わりつつあるのを反映してか、ゲスト陣も、ベーシストのミシェル・ンデゲオチェロ、ハープ奏者のブランディー・ヤンガー、フルート奏者のニコール・ミッチェルなど女性が多い。61年の『We Instst!』でローチらがアフリカン・アメリカンの誇りを歌い上げたように、本作ではジャズ界隈でマイノリティである女性ミュージシャンならではの矜持が表出している。
フェラ・クティのお株を奪うようなアフロ・ビートの“Driva‘man”、キャリントンのリムショットが響き渡るスロー・ファンク“Freedom Day,Pt.1”、凄みの効いた朗読に圧倒される“Triptych: Resolve/Resist/Reimagine”、アビー・リンカーンへのリスペクトが浮き彫りになる“Dear Abbey”など、ふつふつと湧きあがってくる熱情が、風通しの良いネオ・ソウル的なサウンドで中和され、聴きやすくなっているのも特徴だ。本作が生みだされた背景や文脈を知らずとも楽しめるところも肝要だろう。
影の主役は10曲中7曲に参加しているトランペッターのミレーナ・カサド。スペイン人の母とドミニカ共和国出身の父の間に生まれ、バークリー音楽大学で学んだ彼女は、つい先日、デビュー作『リフレクション・オブ・アナザー・セルフ』をリリースしたばかり。彼女はロイ・ハーグローヴの衣鉢を継ぐような――つまり、RHファクター的とも言える――ネオ・ソウル以降のサウンドを披露した。そのプレイにもぜひとも注目してほしい。それにしても、ブルーノートからデビューしたブランドン・ウッディーにせよ、黒田卓也にせよ、2018年に49歳で急逝したハーグローヴに敬意を示すトランペッターは数多い。この系譜も剋目に値するだろう。
土佐有明