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Terrace Martin

Hip HopJazz

Terrace Martin

Velvet Portraits

Ropeadope / Agate

Tower HMV Amazon

小川充   Apr 06,2016 UP

 第58回グラミー賞受賞式のハイライトとなったケンドリック・ラマーのステージ。最初にケンドリックやバンド・メンバーたちは監獄の囚人に扮したが、ケンドリックとともにテナー・サックスを吹くテラス・マーティンの存在感も光っていた。5冠に輝いた『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』でもテラスはキー・パーソンのひとりで、ケンドリックにとってデビュー・アルバムの『グッド・キッド、マッド・シティ』からテラスは音楽的参謀の位置にある。

 ミュージシャン、ラッパー、プロデューサーという複数の顔を持つテラスだが、そもそも2000年代半ばからパフ・ダディ、スヌープ・ドッグらの作品や活動に関わり、とくにスヌープのプロデューサーとして知る人ぞ知る存在だった。ヒップホップ界での成功により注目を集めるが、もともとはジャズ・サックスが出発点で(父親はジャズ・ドラマーで、母親はゴスペル・シンガー)、コルトレーン、チャーリー・パーカー、ジャッキー・マクリーン、グローヴァー・ワシントン・ジュニアなどの影響を受けてきた。奨学金をもらってカリフォルニア芸術大学へ進学後、プロのジャズ・ミュージシャンとなるが、子どもの頃からドクター・ドレやスヌープをはじめとした西海岸のヒップホップやR&Bは身近にある存在で、自然とそうした分野での演奏も増えていく。こうした経歴は東海岸を代表するジャズ・ピアニストのロバート・グラスパーと同じ流れで、いまのUSのジャズ・ミュージシャンらしい。西海岸でジャズとヒップホップ/R&Bを繋ぐ存在がテラスなのだ。実際彼らは高校時代にサマー・キャンプで出会い、ロバート・グラスパー・エクスペリメントの『ブラック・レディオ2』にもテラスはスヌープといっしょに参加している。

 2013年に発表したソロ・アルバム『3コードフォールド』は、そんなテラスの集大成的な作品で、グラスパー、ケンドリック、スヌープ、レイラ・ハサウェイ、ウィズ・カリファ、ミュージック・ソウルチャイルドらが参加した。グラスパーの『ブラック・レディオ』に対するヒップホップ/R&Bサイドからのアンサー・アルバムにあたるような内容で、『ブラック・レディオ』から『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』への流れを結ぶ作品でもある。なお、この中ではマイケル・ジャクソンの“アイ・キャント・ヘルプ・イット”をカヴァーしているが、原曲のプロデューサーだったクインシー・ジョーンズまでが共同制作を買ってでるなど、新旧のアーティストから高い評価と信頼を集めている。クインシーやスティーヴィー・ワンダーなどからの影響を、しっかりといまに受け継ぐミュージシャン/プロデューサーでもあるのだ。

 『3コードフォールド』から3年ぶりとなるテラスのニュー・アルバム『ヴェルヴェット・ポートレイツ』は、グラスパーやレイラ・ハサウェイなど前作から続く面々に加え、カマシ・ワシントン、サンダーキャットというLAジャズ・シーンのキー・パーソンも参加する。ほかにジャズ系のミュージシャンでは、ディアンジェロのツアー・メンバーで、グレゴリー・ポーターのニュー・アルバムにも参加したキーヨン・ハロルドも演奏している。全体的には前作に比べてヒップホップ/R&B度は薄れ、そのぶんジャズ方向へ傾き、同時にディアンジェロ的な70年代ソウル~ファンク・リバイバルの流れを汲んだアルバムとなっている。“ヴァルデス・オフ・クレンショー”はダニー・ハサウェイの“ヴァルデス・イン・ザ・カントリー”からの引用で(ダニーの娘のレイラが本アルバムに参加するのも感慨深い)、「プッシュ」はカーティス・メイフィールドの『スーパーフライ』の“プッシャーマン”を意識したように聴こえる。“トライブ・コールド・ウェスト”はATCQからインスパイアされた曲だそうだが(皮肉にも、先に急逝したファイフ・ドーグへの鎮魂歌となってしまった)、曲自体はキーヨンのトランペットをフィーチャーし、ファンクやアフリカンの要素を取り入れた現代版エレクトリック・マイルスとでもいうようなもの。“シンク・オブ・ユー”ではカマシのサックスとともに女性シンガーのローズ・ゴールドをフィーチャーし、ジャズとソウルの最良の接点を見せてくれる。

 なお、現在テラスはフライング・ロータスやサンダーキャットとともにハービー・ハンコックの新作を制作中とのことで、そちらへの期待も否が応でも高まる。

小川充