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Zonal

DroneDubHip HopIndustrialNoise

Zonal

Wrecked

Relapse / Daymare

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小林拓音 Dec 26,2019 UP
E王

 たしかに、ひとが生きていくうえで癒しは必要だ。穏やかで落ち着いたソウルに身を委ねたいときもある。ニューエイジに引きこまれそうになることもある。もうブームは過ぎ去ったようだけれど、シティ・ポップ・リヴァイヴァルだっておなじ穴のむじなだろう。それらすべてに共通しているのは、安心と、安全である。それらはなによりもまず国家と資本にとって都合のいいもので、ひとたび「や、みんなが安心・安全を欲してるんで」という民意が創出されれば、それを旗印にさまざまなとりしまりが可能になる。だれも反対しない、むしろみんなが望んでいる、どこを向いても安心だらけ。

 ここに、けっしてそんな潮流には与しない、タフなヴェテラン2人組がいる。ひとりは、JKフレッシュことジャスティン・K・ブロードリック。彼はインダストリアル・メタル・バンド、ゴッドフレッシュの創始者として知られるが、他方でたとえば近年はスピーディ・Jの〈Electric Deluxe〉から立て続けにアルバムを発表していることからもわかるように、テクノの探求者でもある。もうひとりは、ザ・バグ名義やキング・ミダス・サウンドで知られるケヴィン・マーティン。彼もまた今年はローレンス・イングリッシュの〈Room40〉から本名でアンビエント・アルバム『Sirens』をリリースしたり、ベリアルとコラボしたりと、いまだに意欲的な姿勢を崩していない。このふたりが組んだプロジェクトがゾウナルである……というのは若い人向けの説明で、ようするにテクノ・アニマルである。
 テクノ・アニマルは90年代に強烈なノイズ・インダストリアル・ヒップホップを実践していた野心的なグループで、かの GOTH-TRAD の大きな影響源のひとつでもある(JKフレッシュは今年 GOTH-TRAD とのスプリット盤もリリース)。ジャスティンとケヴィンのふたりは、そのまえにゴッドやアイスといったプロジェクトでも手を組んでいるが、今回のゾウナルもじつは、2000年の時点ですでに、テクノ・アニマルに次ぐプロジェクトとして構想されていたらしい。それがようやく2019年になって実を結んだというわけだけど、じゃあなぜ彼らはいま、ふたたび手をとりあうことにしたのだろう?

 このゾウナルのファースト・アルバム『Wrecked(難破、崩壊)』では、ほぼ全篇をとおして重厚な低音が響きわたり、ディストーションが空間を覆いつくしている。インダストリアルであり、ダブであり、ドローンでもあるが、たとえば “System Error” にもっともよくあらわれているように、ビートはヒップホップのそれである。そのリズムに乗ってウェイトレスなシンセとディストーションが互いに互いを際立たせる表題曲や、よりダブ要素を強調した “Debris”、ドローンを前面に打ちだした “S.O.S.” など、どの曲も危険でまったく安心できない。ビートレスな最終曲 “Stargazer” も、ロマンティックなタイトルとは裏腹に、まるでこの世の終わりのような荒廃感を漂わせている。まさに、悪夢のような出来事が絶え間なく発生しつづける、現代のサウンドトラックと呼ぶべきアルバムだ。

 もっとも注目すべきは、前半6曲にムーア・マザーが参加している点だろう。ようするにゾウナルのふたりはアート・アンサンブル・オブ・シカゴ同様、2019年の主役が誰なのかを教えてくれているわけだけれど、彼女のことばは漆黒の音塊と渾然一体となり、容赦なくわたしたちにハードな現実を突きつけてくる。「わたしがこんなに怒っているのに、いまだに、いまだに、いまだに、わたしたちは思考停止状態」と繰り返される “In A Cage” (このリリックはスマッシング・パンプキンズの “Bullet With Butterfly Wings” から着想を得ているのではないかとの指摘もある)で彼女は、「貴様は暴力をもたらした、そうすることで沈黙までもたらした/貴様は神が消え去る手助けをした、宙に血を残して」と声を荒らげる。「バビロンの物語/選ばれし者、失墜する者/みんな忘れてしまった/システムは腐っている」とラップされる “System Error” も痛烈だが、とびきりクリティカルなのは「最初から/女は男に劣っていた/台所の死刑囚」という “Catalyst” の一節だろう。『家事労働に賃金を』で知られるイタリアのオートノミスト、マリアローザ・ダラ・コスタを想起させるメッセージだけれど、このようにムーア・マザーは臆することなくつぎつぎと、人種や性にのしかかるポリティカルな問題、すなわち現代の奴隷制にたいする怒りを巧みに詩へと昇華していく。そんな彼女の勇姿をまえにすると、「あー今日も疲れた、癒されよう」なんて気分にはなかなかなれない。

 反時代的にいこうぜ──ようするにそういうことだと思う。たしかに安らぎは必要である。でも、怒ることだってたいせつだ。ゾウナルのヘヴィかつダークなサウンドも、ムーア・マザーの「耳に痛い」リリックも、極力ノイジーであろうと努めている。彼らの音楽は、たとえば ASMR の隆盛が象徴しているような、フェティッシュとしてノイズが消費されてしまう昨今の状況において、ノイズ本来の意味をとりもどそうともがいているように聞こえる。すなわち、ひずんでいること、耳に痛いこと、安心できないこと。つまりは不和をもたらすこと。みんなが癒しをもとめることで喜ぶのは、ほかのだれでもない、やつらなのだから。

小林拓音