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P Money

Grime

P Money

Live + Direct

Rinse

Tower Amazon iTunes

米澤慎太朗   Feb 01,2017 UP

「俺はここにいる」というメッセージ

 10年以上のキャリアでmixtapeやEP作品をハイペースで発表し続けているロンドンのMCピー・マニー(P Money)が、15曲収録のデビュー・フル・アルバム『Live + Direct』を〈Rinse〉からリリースした。これまで、ダブステップやドラムンベースのトラックで名前をご存じの方もいるかもしれないが、彼はキャリアの中で一貫してグライム・サウンドでラップしてきた。今作もトレンドであるトラップの影響を受けたグライム・チューンの上でマイクを握った曲が多く、USヒップホップから入った人でも聴きやすい。

 さて、オープニングトラックのIntroを聴いたとき、このアルバムが単なるヒット曲の寄せ集めではなく、ひとつの作品であることを確信した。シーケンスが重なり合っていく4分のトラックの上で、不在の父に対する報われることのない期待、義理の弟、彼のグライム・クルーとなるOGzとの出会い、トラブル、母への愛をラップする。そして、なぜアルバムを出すのか? という創作の原動力につながる、複雑な感情が表れている。

I had hate for my creator
Only used to see him in the paper
Mum tried to get me to stop stressing
Looking at the front door, wondering and guessing
Now there ain't a thing that could make me forgive him
Once upon a time my dad asked me how old I was on my birthday
Man I thought he was kidding

俺はお父さんを嫌ってた
彼は紙の上でしか見たことがなかった
ママは俺が父にこだわらないようにさせた
家の玄関を見て、考え、想像した
今でも彼を許すようなことはない
いつか、お父さんは誕生日に俺が何歳になったか聞いた
俺はからかわれてるかと思った
(“Intro”)

 15歳の時、濡れ衣で裁判所に呼び出されたP Moneyはそんな父に頼ろうとする。

I called my dad, sent him texts, left him voicemails
But the guy wouldn't pick up
And there's me thinking he would've fixed up
Then randomly out of the blue I got a text from him
Saying "it's gonna be alright, good luck"
Oh my days, what the fuck

お父さんに電話した、テキストを送ってボイスメールを残した
あの男は電話を取ろうとしなかった
俺はお父さんがこの問題を解決できたと思ったんだ。
そして、出し抜けにこんなメッセージが届いた
“きっと良くなるさ、グッドラック”
なんてこった !
(“Intro”)

 TR.02“Panasonic”では、Street Fighterのサンプルとともに、イギリスのグライムにおける自身の存在をボーストし、Stormzyを迎えたTR.04“Keepin' It Real”では、音楽に対する姿勢とフェイクとリアルの境目についてこだわる。OGzを率いて自身が運転するバンで周る彼が言うなら、それはとてもリアルな表現である。

 Terror Danjahの歌フックとP Moneyのスキルが冴える(複雑な)恋愛ソングTR.06“Contagious”、信頼に足る「Man」であるかをへらへら近寄ってくるクソ野郎に問うた“Don't Holla At Me”を挟み、TR.11“Gunfingers”へつながる。

 Skepta、Wiley、JMEをゲストに迎えたこの曲からは、アルバム・ジャケットでBorn & Bred フェスティヴァルのステージから、学生が集まる小さなクラブまで全てのショーをロックするP Moneyの姿が目に浮かんだ。そして、ラスト・ソングの“10/10”へ向かっていく。音が注意深く選ばれたSir Spyroのシリアスな雰囲気漂うトラックの上で、彼はイギリスのManchester、Bristol、Leedsなど各都市でショーを完全にロックする。フードを深くかぶった彼のライヴ映像が入るMVも素晴らしい。

 ラップは声なきものに声を与えると言われる。そして、P Moneyは「俺はここにいる」というメッセージを繰り返し発している。それは紙の上でしか知らない父に向けて、パーティでたまたま遊びに来たお客さんに向けて、ビックフェスのショーを観にくるファンに向けて、生で直接伝え続けることだ。ダブステップからグライムへとトレンドが移り変わっても、彼のラップはUKにあり続けるという宣言でもある。

米澤慎太朗