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2013年のMOBOアワーズのベストR&Bアクト、ベスト・フィーメイル・アクトにノミネートされたリアン・ラ・ハヴァス。両部門ともローラ・マヴーラとジェシー・ウェアも候補に上り、最終的にはマヴーラがふたつの栄冠を獲得したのだが、この年のイギリスの女性シンガー・ソングライターがいかに充実していたかを示す顔ぶれだ。リアン・ラ・ハヴァスについては、前年発表の『イズ・ユア・ラヴ・ビッグ・イナフ?(Is Your Love Big Enough?)』がiTunesベスト・オブ2012のアルバム・オブ・ザ・イヤーに輝き、その後のツアーやフェスなどでの活躍が評価されてのノミネートだったが、2014年はプリンスなどとの共演が話題を集めるものの、プライベートでは休暇を取るなど充電期間にあてることが多かった。バケーションは母親とともにジャマイカで過ごし(リアンはジャマイカ人とギリシャ人のハーフである)、英気を養うとともに自分の中にあるルーツに改めて向き合った。そして制作したのが『ブラッド(Blood)』である。
前作はリオナ・ルイスやパロマ・フェイス、最近はアンドレヤ・トリアーナも手掛けるアクアラングことマット・ヘイルズのプロデュースだったが、今回は彼に加えジャマイカのレゲエ~ダンスホール系のプロデューサーのスティーヴン・マクレガー、ドクター・ドレの相棒でアリシア・キーズやインディア・アリーなどを手掛けたマーク・バトソン、アデルを手掛けたことで有名なポール・エプワース、そしてジェイミー・リデルにディスクロージャーのハワード・ローレンスなど多彩な面々が制作や作曲を担当する。とは言っても散漫さはなく、あくまでリアンの持味のアコースティック・ソウルを前面に打ち出し、『イズ・ユア・ラヴ・ビッグ・イナフ?』の路線を引き継ぐアルバムだ。次第にドラマチックな盛り上がりを見せる“アンストッパブル(Unstoppable)”は、さすがエプワース仕事とでもいう楽曲で、リアンの表現力もエリカ・バドゥに匹敵するものだ。リデルとの共作“グリーン・アンド・ゴールド(Green And Gold)”はUK版ローリン・ヒルとでもいう佇まいで、フォークとR&Bの見事な融合が見られる。バトソンが手掛ける“ネヴァー・ゲット・イナフ(Never Get Enough)”や“グロウ(Grow)”ではフォーク・ロック調の荒々しさも見せれば、ローレンスとの共作“ワンダフル”はじめ、“ゴースト”や“グッド・グッバイ”は比較的リアンの素に近い作品で、切なく叙情的なギターの弾き語りを聴くことができる。“トーキョー(Tokyo)”は2013年の初来日公演時の思い出から生まれた曲だ。
『ブラッド』とあからさまにルーツを意識したアルバム・タイトルでいくと、マクレガーとのジャマイカ録音“ミッドナイト”がそうしたアイランド・グルーヴを感じさせる。アルバム全体としては短絡的なレゲエ・ナンバーなどはやっていないものの、シャーデーの『ストロンガー・ザン・プライド(Stronger Than Pride)』あたりを彷彿とさせるムードが漂い、「故郷」への旅がアーティストとして彼女をひとまわり成長させたのではないだろうか。
小川充