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Avey Tare's Slasher Flicks

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Avey Tare's Slasher Flicks

Enter The Slasher House

Domino / ホステス

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橋元優歩   May 20,2014 UP

 パンダ・ベアとエイヴィ・テア。アニマル・コレクティヴを動かすふたつの心臓は、この10年のインディ・シーンにも力づよく血を送り込んできた。フリーフォーク……と暫定的に呼ばれた、アニコレ初期のアシッディでサイケデリックな音楽性は、2005年の『フィールズ』において底知れないエクスペリメンタリズムと祝祭的な高揚感とを爆発させ、向こう10年の音をささえる礎となった。まさにそれは、やがて過剰すぎる情報集積空間へと姿を変えていく、2000年代的な想像力の始原の海だったのだろう……と、いまでこそ思う。あの澱のように不透明な、それでいてきらきらと輝くノイズの群れは、その後かたちさまざまに命を得るはずのたくさんの微生物やゴミをふくんだ、養分そのものだったのだと。
 当時はただギャング・ギャング・ダンスらと並んで、批評としてのトライバリズムやブルックリンの無邪気な実験精神を象徴するようにも見えたが、たとえば彼らの〈ポウ・トラックス〉がアリエル・ピンクを輩出していたり、チルウェイヴの源流をパンダ・ベアに見ることができたり、あるいは彼ら以降のインディ・ロックの耳が、穏やかなアンビエントへと転向したエメラルズを見つけていったりすることを考えても、その功績の大きさは時間が経つほど鮮明になっていくように感じられる。

 とはいえ、いつまでも当初のエネルギーやクリエイティヴィティが直線的にのびるということはありえない。『フィールズ』を頂点として、彼らもまたゆるやかに放物線を描いて下降していく。その間のどのアルバムも相対的には素晴らしく、個人的にも好きなのだが、キャリアの充実はむしろそれぞれのソロ作品において追及されていくようになったと言うことができるだろう。パンダ・ベアは『パーソン・ピッチ』や『トンボイ』を生み、前述のように2000年代のサイケデリック・ミュージックをチルアウトさせ、ヒプナゴジックでドリーミーな方向へと振った。エイヴィ・テアは妻クリア・ブレッカンとともに『プルヘア・ラブアイ(Pullhair Rubeye)』、ソロで『ダウン・ゼア』をリリースし、天然色のノイズと無国籍的なムードでハイ・テンションなサイケデリックを放ちつづけた。そう考えるとやはりふたつが重なってのアニコレだが、黄金比率で彼らがシンクロしていると感じられるアルバムはしばらくなく、どちらかが引くか、もしくはイニシアティヴをとるかして制作されているという印象を受ける。その点からすれば、アニコレの前作『センティピード・ヘルツ』(2012年)はエイヴィ・テアのアルバムだった。しかし筆者からすれば、チルアウトやヒプナゴジック(夢見心地)というタームのなかに時代と切り結ぶ批評性がふくまれていたことに対し、東洋のけばけばしい獅子の面をかぶって爆走するエイヴィ・テアのノイズやサイケデリアは、ダン・ディーコンらとともにいつしか古びた2000年代の面影を象徴するように思われたことは否定できない。

 そこから最初のアルバム・リリースとなるのが本作『エンター・ザ・スラッシャー・ハウス』である。そして、これがバンド編成で制作された作品であるということは看過できないポイントだ。ダーティ・プロジェクターズのエンジェル・デラドゥーリアン、ポニーテイルなどでドラムを任されるジェレミー・ハイマンを迎え、彼らは「エイヴィ・テアズ・スラッシャー・フリックス」と名乗っている。エイヴィ・テアにとってアニマル・コレクティヴ以外に必要なバンドとはなんなのだろう。そう思って聴く冒頭の“ア・センダー”があまりにアニコレで一瞬椅子からずり落ちる(エレクトロニックで、整ったプロダクションを持っているところは2010年前後の作品の感触、『メリウェザー・ポスト・パヴィリオン』から逆向きに『フィールズ』へ遡行していくような錯覚を覚える)……。
 しかし、それは冒頭の1曲だけ。“デュプレックス・トリップ”のダビーな音響は耳新しく、“ブラインド・ベイブ”のハードコア的なリズム構築などは、まさにポニーテイルの面目躍如といった新しい表情を加えている。“リトル・ファング”は、アリエル・ピンクが近作で接近しているようなソフト・ロック調。“ザット・イット・ウォント・グロウ”はファン・アイランドのようなハイエナジーでエモーショナルなパンク・バンドを思わせる。“ジ・アウトロウ”のプログレ展開、“モダン・デイズ・E”のアッパーでファンキーなビート、過度なエフェクトは排されていて、クリーンにギターが聴こえてきたりするところも非常に新鮮だ。本当にこれはエイヴィ・テアの音なのだろうか。彼にはまだこんなにも豊かに、振るべき袖がたくしこまれていたのか。

 問いを戻そう。エイヴィ・テアにとってアニマル・コレクティヴ以外に必要なバンドとはなんなのだろうか。2000年代インディ・ロック・カタログとまではいかずとも、ここまで1曲ごとに性質を変えて作り込んだ曲を並べられれば、自身のエゴを解体し、それによってひとつの限界を突き崩し、より遠くまでいきたいという思いがあるのではないか、そのためのよきサポートを必要としていたのではないかと推測したくなる。エイヴィ・テアの新作ときいて暗に想定していたような予定調和はここにはまるでなく、むしろ彼にとってのひとつの転換点が企図されているように感じられる。アー写やタイトルのB級ホラー趣味こそ相変わらずだけれども、どれほど意識的なものかはわからないが、とても前向きな一歩が踏み出されていて、メンバーの仕事もそれをサポートして余りあるものだ。この新たな関係のなかで、エイヴィ・テアは新たなエゴを手にしたのだというたしかな手触りがある。
 それでも1曲めは“デュプレックス・トリップ”なのだなあと思うと少し切なくもある。このバンドが、彼にとってのアニマル・コレクティヴのやり直しだったりしてほしくはないという思いは良い方向に裏切られたが、ラス前にパンダ・ベアのロングトーンを思わせる“ストレンジ・カラーズ”が聴こえてきたときにも少しひりっとするものがあった。新しいエイヴィ・テアは、いつか新しいアニマル・コレクティヴにつながってほしい。次のパンダ・ベアのソロにも同様のことを期待する。彼らには未来においてもういちど、歴史を緊張させるような鋭さを持つはずだから。

橋元優歩