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Emeralds

Emeralds

Does It Look Like I’m Here?

Editions Mego

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野田 努   Jul 28,2010 UP
E王

 三田格が監修した『裏アンビエント・ミュージック 1960-2010』のなかで、2009年の重要作として大きく取り上げているのがこのエメラルズで、彼は2ページを使って5枚の関連アルバムを紹介している。本のなかで三田格は出たばかりの本作について「クラウトロックへの転身が完全なものとなった」と書いているのだけれど、実際の話、僕はこの作品を聴いてエメラルズを買った。「クラウトロックへの転身」によって彼らはこうして新しいリスナーと出会ったわけである。

 オハイオ州クリーヴランドを拠点とするエメラルズは、マーク・マクガイアー(ギター:三田格が ele-kingで書いているように最近〈ウィアード・フォレスト〉からソロ作品を出している)、スティーヴ・ハウシリト(エレクトロニクス)、ジョン・エリオット(エレクトロニクス)の3人からなるグループで、20代前半という若さながらすでにその筋では名が知れている。親切な"裏アンビエント"の監修者は僕にエメラルズのバックカタログを貸してくれたのでひと通り聴いてみたのだけれど、なるほどたしかにどの作品も面白い。2008年の『ソラー・ブリッジ』は『メタル・マシン・ミュージック』の系譜に位置するフィードバック・ノイズによるアンビエントの傑作で、前作『エメラルズ』にアンビエントのハード・リスナーを納得させるであろう特別な輝きがあるのもわかる。それをノイズと呼ぼうがアンビエントと呼ぼうがドローンと呼ぼうが、音楽作品としての充分な魅力があり、エメラルズはすでにある一定水準を超えているのである。

 また、エメラルズは、グルーパー、ポカホーンティッド、オネオトリックス・ポイント・ネヴァーなどなど野心的な連中と同様に、カセットテープとCDRによる作品を実にこまめに発表している。USアンダーグラウンドにおける"テープ・シーン"を代表するグループでもあるのだ。"テープ・シーン"とは超限定のカセットテープと超限定のCDRによる作品発表、あるいはまた(デトロイトのブラック・アンダーグラウンドと同様に)ヴァイナルの復権を唱えるものであり、どうやらデジタル・シーンへの批判的な態度を表明する時代精神のひとつとしても注目されているらしい。

 個々の作品性については『裏アンビエント・ミュージック』を読んでもらうとして......、で、『ダズ・イット・ルック・ライク~』はたしかにクラウトロックにおける"コズミック・ミュージック"と呼ばれたものと近しい。初期のタンジェリン・ドリーム、『ラルフ&フローリアン』、『ツァッカーツァイト』、エレクトロニクスを使いはじめたマニュエル・ゲッチング......。アナログ・シンセサイザーの睡眠的な反復とマクガイアーによるゲッチングを彷彿させるギター演奏は確信犯としてそれをやっているのではないだろうかと思わせる。

 『ダズ・イット・ルック・ライク~』は、『エメラルズ』と同様に多くのリスナーがアプローチしやすい作品でもある。それぞれの楽曲にはそれぞれのアイデアがあり、『エメラルズ』と比べて曲のヴァリエーションもある。ただし......、圧倒的な恍惚感ということで言えばたしかに『エメラルズ』で、『ダズ・イット・ルック・ライク~』には少々重苦しさが入り込んでいる曲もある。そこは好みが分かれるところかもしれないが、バンドはドローンやアンビエントといったカテゴリーの殻を破って、より広いところに行きたいのではないかと思われる。このアルバムを成虫前の「繭のような作品だ」と評していた人がいたけれど、そうした期待を寄せるだけのポテンシャルは『裏アンビエント・ミュージック』のおかげで充分にうかがい知ることができた。
 ちなみに『裏アンビエント・ミュージック』は、音楽快楽主義において目から鱗のカタログである。とりあえずは、この本を読んで自分なりのリストを作成し、中古盤店を探してみるかい(値が上がらないうちに)。

野田 努