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Oneohtrix Point Never

Oneohtrix Point Never

Returnal

Editions Mego

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三田 格   Jul 08,2010 UP
E王

 このところエディションズ・メゴが急進的なイメージを強めている。昨年のシンディトークに続いてエメラルズまでリクルートさせ、フェン・オバーグの新作に続いてOPNまで移籍させた。思えばKTLをリリースした辺りからそれは はじまっていたのかもしれない。いっしょにレーベルをはじめたラモン・バウアーが音楽業界から去ってしまい、〈エディションズ・メゴ〉とレーベル名を改め、ひとりで再出発だとピーター・レーバーグは教えてくれたけれど、過去のバック・カタログがデラックス・エディションで再発される機会が多く、それに気をとられて過去を見ているレーベルのような気までしていたというのに。

 OPNは昨09年末、ファースト・アルバムにあたる『ビトレイド・イン・ジ・アクタゴン』(07年)と2作目の『ゾーンズ・ウイズアウト・ピープル』(09年)、3作目の『ラシアン・マインド』(09年)に7曲を加えたコンピレイション2CD『リフツ』をリリースし(マスタリングはジェイムズ・プロトキン)、いっきに認知度を高めたプロデューサーである。全体的にはアンビエント・テイストなのに、シンセ-ポップやノイズなどエレクトロニック・ミュージックのさまざまなフォームが詰め込まれた『リフツ』は全27曲というヴォリウムもあって、なかなか全体像には迫れず、どこがポイントなのかをすぐには絞りきれないアルバムだった。しかし、これはもう、これからは初期音源集という位置づけになっていくに違いない。通算では4作目となる『リターナル』はこれを凝縮させ、OPNのいいところが見事にリプレゼンテイションされた内容になっていたからである。

 オープニングがまず◎。10年前のピタを思わせるシャープなノイズ・ワークで幕を開け、エイフェックス・ツインの不在を印象付ける。中原昌也もこれはライバル視していいかも。そのまま何事もなかったようにアンビエント・ドローンになだれ込み、メリハリの付け方がいままでとはまったく違うことに驚かされる。簡単にいえば構成力がアップし、ムダがなくなっている。ドローンもどんどん表情を変え、ポップな曲調=タイトル曲へのスライドも実にスムーズ。後半はまたそれらを全体にひっくり返したような感情表現へと導き、手法だけではないヴァリエイションにも人を誘い込む。素晴らしい。

 〈メゴ〉のようなレーベルを実験音楽としてしか捉えられない人には難しいかもしれないけれど(それはむしろ実験音楽を知らないといった方がいいんだけど)、ここで展開されているノイズはとてもポップだし、ドローンを媒介にしてアンビエントとノイズが等価になってしまった事態をOPNは非常に上手く作品に反映させているといえる。これだけ柔軟に音のテクスチャーと向き合える感性はやはり新しいといわざるを得ない。あまり使いたくない紋切りだけど、このような柔軟さこそ若い人に聴いて欲しい。

 スリーヴ・デザインはサン O)))の......というか、KTLのスティーヴン・オモリー。

三田 格