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Caribou

Caribou

Swim

City Slang/Hostess

Amazon Apple Music

野田 努 May 07,2010 UP
E王

 カリブーとは、簡単に言えば、フォー・テットとともに聴かれてきた人である。2001年にマニトバ名義で〈リーフ〉から発表したデビュー・アルバム『スタート・ブレイキング・マイ・ハート』によって脚光を浴びた彼は、柔らかな抒情派エレクトロニカ路線をそのまま進むのかとおもいきや、セカンド・アルバムではソフト・ロック調のメロディを注入し、そしてカリブーと名前を変えてから発表した2005年の3枚目では、もしジャンル分けをするなら迷わずロックの棚に並べられるであろう作品を出している(ありがちと言えばありがちな、クラウトロック風味のロックだったが)。まあ、IDMスタイルからロックへ......これはこの10年におけるひとつの流れで、カナダ人のダン・スナイスもそのひとりというわけだ。ちなみに彼は数学博士である、見た目もふくめて。

 彼はそして、〈シティ・スラング〉に移籍して2007年に『アンドーラ』を発表しているが、さすがにこれには参った。マニトバ時代から、彼の音楽には救いようのない楽天性があったとはいえ、まさかこの人がMGMTみたいなカラフルなサンシャイン・ポップスをやるとは、ショッキングでさえあった(......というほどではないか)。そしてマニトバ名義から数えて5枚目となる新作『スウィム』はダンス・ミュージックときた。最初は警戒した。この人と僕のあいだに接点はない、そう思っていた。が......、聴いているうちに緊張はほぐれ、感動が押し寄せてくる。それは驚くべきことに、まるでアーサー・ラッセルが歌っているようなダンス・ミュージックなのだ。そう、70年代のニューヨークを生きた偉大なるディスコの実験主義者、アーサー・ラッセルだ。彼の直接的な影響を感じる作品というのを僕は初めて聴いたかもしれない。アルバムのタイトルは"スウィム"――そう、おそらくは"レッツ・ゴー・スウィミング"(ラッセルの代表曲)からの引用だろう。

 リキッド・ダンス・ミュージック――カリブーは自分のダンス・サウンドをこのように定義しているが、たしかにこれは揺れるような音に特徴を持つ。音は左右のスピーカーを時差を持って往復する。ドップラー効果めいた揺らぎが目眩を与える(これをちまたでは"ドップラー・エフェクト・ダブ"と呼ぶ)。そして......まさにラッセルのダンス・ミュージックがそうであるように、実にしっかりとしたベースがあり、そして、そう、深いエコーのかかった"歌"がゆらゆらと揺れている。もしいまラッセルが生きていてミニマル・テクノに興味を覚えたら、こんなアルバムを作っていたかもしれない(ラッセルは70年代、スティーヴ・ライヒやフィリップ・グラスら、オリジナル・ミニマリストたちのグループにいた)。

 カリブーは主に、セオ・パリッシュ、リカルド・ヴィラロボス、カール・クレイグ、ジェームズ・ホールデンらに影響を受けたと告白しているが、多くの人からアーサー・ラッセルとの類似点について指摘されていることも明かしている。「それを言われて嬉しかったんだ。なぜなら僕は彼の声が大好きだし」、カリブーは『ピッチフォーク』の取材でこう答えている。「この2年で、彼は僕のヒーローとなったんだから」

 「泳ぎなさい」というタイトルは嘘じゃない。リスナーはこの数学博士の作った音の波を泳げるだろう。ユーモラスな"オデッサ"やドップラー・エフェクト・ダビーな"カイリー"も良いが、マニトバ時代のドリーミーなIDMサウンドをセオ・パリッシュがハウス・リミックスしたような"ボウルズ"の深いトリップがさらに良い(曲中ではアリス・コルトレーン的なハープの音が響く)。ディスコのベースがうなり、かたやメランコリックなシンセが波のように押し寄せる"ハンニバル"も忘れがたい。

 アルバムの最後の曲にも美しい憂鬱の感覚がある。歌は空中を舞って、衝突して落下するように消える......ダンス・ミュージック特有の強烈なはかなさが漂う。もういちど、この独創的なカナダ人の音楽に耳を傾けてみようと思う。

野田 努