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野田 努 Nov 15,2009 UP

 はははは、最高。1曲目の"Backwell"、思わず笑ってしまう、これはまったく......カンだ! 2曲目の"Pill"もカン。アルバムにヤッキ・リベツァイトが参加しているんじゃないか、と疑ってしまうほどだ。クラウトロックのポスト・パンク的解釈といえばPILが有名だが、3曲目の"Ham Green"や10曲目の"The Cornubia"はまさにそれ。4曲目の"I Know"はカンの"マザー・スカイ"そのもの......そしてこうしたクラウトロック・スタイルが見事に格好いいから始末が悪い。ザ・ホラーズのプロデュースもそうだったし、ポーティスヘッドの『サード』にもその影響を取り入れていたけど、ジェフ・バーロウによるソロ・プロジェクト、ビーク>は彼のクラウトロック趣味が爆発している。
 この3人組のバンドの他のメンバーは、ベーシストのビリー・フラー(Team Brick)、マルチ演奏家のマット・ウィリアムス(Fuzz Against Funk)。僕は彼らについてまったく知識がないけれど、とてもセンス良く、このミニマル・ロックの重要なパートとなっている。7分以上にもおよぶ"Battery Point"はアルバムのなかでもずば抜けて美しい曲で、厄介なほどドラマチックな曲でもある。ポーティスヘッドの面影を感じることもできるが、それもほんのわずか。次の曲"Iron Acton"になると、こんどはカンのベースラインにノイ!のモータリック・サウンドのお目見えとくる。電子ノイズが流れ、クラウス・ディンガーばりのドラムが疾走する。ザ・ホラーズの"Sea Within A Sea"で試みたことの焼き直しだが、こちらのほうが言葉はより不明瞭で、ぼんやりとしていて、大人っぽいと言えば大人っぽく......しかし、"Barrow Gurney"なんかは初期のクラスター(エレクトロニック・ドローン・ノイズ)だし......いったいバーロウという人は......。
 彼がポーティスヘッドの『サード』でやろうとしたことは、マッシヴ・アタックが『メザニーン』でやろうとしたこととある意味似ている。そこ意地悪いほど、時代の恐怖が描かれているのだ。最後から2番目の"Dundry Hill"や最後の曲"Flax Bourton"のドローンめいたダーク・アンビエントを聴いていると、昨年、『SNOOZER』でやらせてもらったバーロウに取材を思い出す。
 彼は反戦活動など個人的な政治活動を通して、むしろ孤独を感じているようだった。「僕が言いたいのは、『政府を粉々になるまでぶち壊してしまえ』ってこと。できればそうして、またはじめたほうがいい。現代社会ではもう何もかも、ちょっと手遅れなのかもしれない、もう行き過ぎてしまったのかもしれない、と思う。僕らは本当に慣らされてしまってる」――これがバーロウという人なのだろう。そういう意味で、ビーク>の異様な暗さとクラウトロックのアイデアを借りた疾走感との奇妙なバランスは、僕にはなかなか興味深いものに思える。とはいえ、僕のようにカンのカタログをすべて揃えているリスナーを困惑させるのは、冗談じゃないかと思えるほど、ベースとドラムがベタであるということ。繰り返すが、それがしかも見事に決まっているのである。
 そして、彼はそのときの取材でこうも言った。「もしブリストルから非商業的で、反逆的で、エクストリームなものが出てきたとしたら、僕は基本的に100%支持する。たとえ好きじゃなくても支持するね」、はい、ビーク>がまさにそれです。

野田 努