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interview with Kassa Overall

interview with Kassa Overall

ジャズ×ラップの万華鏡

──カッサ・オーヴァーオール、インタヴュー

質問・序文:小川充    通訳:原口美穂 Photo by Patrick OBrien Smith   Jun 02,2023 UP

 一口に新世代のジャズ・ミュージシャンに括られる中でも、一際ユニークでほかにない個性を持つひとりがジャズ・ドラマーのカッサ・オーヴァーオールである。ジャズとヒップホップやエレクトロニック・ミュージックをミックスするミュージシャンはいまでは少なくないが、そうした中でもカッサのようにフリー・ジャズなど前衛的な手法を用いる者は異端で、言ってみればポップ・ミュージックと実験音楽を並列させてしまう稀有な存在でもある。そして、自身でラップもおこなうなど言葉に対しても鋭い感性を持つアーティストでもあり、自身の内面を赤裸々に綴る歌詞も彼の音楽を形作る重要な要素である。

 2019年にリリースされた『ゴー・ゲット・アイス・クリーム・アンド・リッスン・トゥ・ジャズ』でカッサ・オーヴァーオールの名前は知られるようになり、ジャズの未来を切り開く新しいアーティストとして一躍注目を集める。ただ新しいだけではなく、女流ピアニストでコンテンポラリー・ジャズの世界に大きな足跡を残した故ジェリ・アレンのバンドで活動するなど、ジャズの伝統的な技法や表現も理解した上で、それらと新しい技法を融合するなど、常々実験と冒険を繰り返しているアーティストだ。『ゴー・ゲット・アイス・クリーム・アンド・リッスン・トゥ・ジャズ』には故ロイ・ハーグローヴはじめ、アート・リンゼイ、カーメン・ランディなどベテランや実力者が多数参加しており、それら面々とのセッションからもカッサが伝統と新しさを融合することができるミュージシャンであることが伺える。

 2020年には『アイ・シンク・アイム・グッド』をリリースし、そこでは1960年代の黒人解放運動で勃興したブラックパンサー党に属し、社会活動家にして作家として活動してきたアンジェラ・デイヴィスがヴォイス・メッセージを贈っている。社会の抱える問題や不条理などにも向き合うカッサの内面を深掘りしたアルバムでもあり、同時に自身の病気や過去のトラウマなどにも対峙した、よりディープな内容の作品だった。その後、パンデミックなどで世界が激変し、当然彼の周りでも変化があったと想像される。そして、ようやく世界が以前の姿を取り戻しつつある2023年、カッサのニュー・アルバムの『アニマルズ』が完成した。カッサにとってコロナ禍を経てのアルバムであり、その間に長年活動してきたニューヨークから、故郷であるシアトルへと住まいも変わった。そうした中で作られた『アニマルズ』には、一体どのような思いやメッセージが込められているのだろうか。

僕の目標がアルバムごとに少しずつ、じわじわと自由に、そしてポップになっていくことなんだ。そのふたつって矛盾してるだろ? ポップ・ソング、つまりはよりキャッチーな曲を書けるようになりながら、よりアヴァンギャルドで、自由になりたいんだ。

■2020年に『アイ・シンク・アイム・グッド』のリリースで来日したとき以来、2度目のインタヴューとなります。そのときはコロナのパンデミックが始まる直前で、その後世界各国でロックダウンがはじまり、ミュージシャンもツアーやライヴができなくなりました。あなたにとっても、パンデミックは大きな影響を及ぼしましたか?

カッサ・オーヴァーオール(以下KO):アルバムはうまくいったんだけど、リリースしたすぐあとに全てが閉鎖されてしまったんだ。だから、あのアルバムから本来得られるはずだったものが実現しなかった気がした。せっかくリリースまでたどり着いたのに、全てが降り出しに戻った気がしてさ。だからとにかく、やり直さなきゃと思った。で、パンデミックのときにミックステープの『シェイズ・オブ・フル』を作りはじめたんだ。あとはいろいろ練習をしたり、とにかく全てを自分ひとりでやっていた。それまでは、曲作りのときは他のミュージシャンと同じ部屋に入って作業していたけど、パンデミックのときは初めてネットでトラックを送り合ったんだ。パンデミックは落ち着いたけど、いまでもまだ少しその手法を活用してる。だから、それは影響のひとつだと思うね。

■長年活動してきたニューヨークを離れ、故郷であるシアトルに戻ったのもパンデミックと関係があるのですか? これまでもシアトルとニューヨークをたびたび行き来してきたとは思いますが。

KO:ブルックリンのアパートに住んでたんだけど、休暇でシアトルにいたときにパンデミックでニューヨーク州が閉鎖されてしまってさ。あの期間はニューヨークにいる意味を感じなかったんだよね。ライヴも全然ないし、部屋で仕事をしているだけだったから。シアトルには芝生もあるし、水もあったし、木もあったし、山もあった。そう、つまりもっと自然があるから、あの時期の時間を過ごすのはシアトルのほうがよかったんだ。

■いまでもニューヨークにはよく行くんですか?

KO:行くよ。ときどき行って、一ヶ月くらいステイするっていうのを続けてる。だから、シアトルとニューヨークどっちにもいる感じ。ツアーがたくさん決まってるし、いまは住む場所はあまり関係ないんだよね。家族もスペースもあるから、いまはとりあえずシアトルをベースにしてるだけ。

■ニュー・アルバムの『アニマルズ』は〈Warp〉からのリリースとなります。〈Warp〉からリリースするようになった経緯について教えてください。

KO:前回のアルバムを出したあと、〈Warp〉の制作部から「ダニー・ブラウンのアルバムのためにビートを作れないか」ってオファーをもらったんだよ。で、ダニーのためにいくつかビートを作ったんだけど、その制作のスタッフが僕の音楽をかなり気に入ってくれて、そこから連絡を取り合うようになり、パンデミックの間もずっと話してたんだ。そして良かったのは、その会話の内容がビジネスよりも音楽の話だったこと。それが、契約するのに良いレーベルだっていうお告げだと思ったんだ。

■『アニマルズ』はシアトルの自宅の地下室に作ったスタジオで制作されました。家という概念が『アニマルズ』には投影されていて、その表れが “メイク・マイ・ウェイ・バック・ホーム” という曲かと思います。この曲はどのようなアイデアから生まれたのですか?

KO:トラックを作りはじめたときは、アイデアなんて全然なかったよ(笑)。でも振り返ってみると、僕の場合は新しいサウンドのテクニックをいろいろと実験している中で最高の曲ができ上がることが多い。この曲はアルペジエーターを使って実験している中で生まれたんだ。コンピューターにコードをアルペジオにするアルペジエーターっていうプログラムやプラグインがあるんだけど、それを使って実験してるときにあのコード進行を思いついた。で、それを気に入って、その周りにドラムを乗せ、コーラスを書いた。そこまではすぐだったんだ。でも、そのあとあのラップを書くのに3年かかってさ(笑)。

■なかなか納得いくものができなかったんですか?

KO:そう、十分に満足できるものが書けなかったんだよね。あの曲のためにはたぶん4つか5つラップを書いたと思う。

僕の全てのアルバムは全部集めてひとつの作品なんだ。それぞれのアルバムが、ひとつの大きな物語を語るための要素。だから、同じものは二度と作りたくないんだよね。

■“メイク・マイ・ウェイ・バック・ホーム” ではシンガー・ソングライターのニック・ハキムと共演しています。彼は私個人もとても好きなミュージシャンなのですが、ニューヨークのジャズ/アーティスト集団のオニキス・コレクティヴで活動していたときに知り合ったそうですね。彼との出会いはいかがでしたか?

KO:彼に初めて会ったのは、オニキス・コレクティヴがロウアー・イーストサイドでプレイしているときだった。僕はオニキスでドラムを叩き、ニックは歌っていたんだ。それが初めて出会ったときの記憶。もう何年も前のことだから、僕が勘違いしていなければだけど。あれはたしかラッパーのウィキのミュージック・ビデオのリリース・パーティーじゃなかったかな。ウィキは僕のアルバムにも参加してくれてる。たぶんオニキスはあのときウィキのパーティーのために演奏してたんだと思う。

■ニックの第一印象はどうでしたか?

KO:第一印象は、音楽に対してすごく熱心な人だなと思った。そして彼は、そのとき同じ日に別のショーがあって、サウンド・チェックに参加したあとほかのショーで歌って、そのあとこっちに戻ってきてまた歌ってた(笑)。僕もいつも音楽でバタバタしてるから、この人とは仲良くなれそうだと思ったね(笑)。

■ニック・ハキムもそうですが、『アニマルズ』はこれまで以上に多彩なゲスト・ミュージシャンとのコラボがおこなわれています。ジャズ方面を見ると、前作にも参加したシオ・クローカー、ヴィジェイ・アイヤー、ビッグ・ユキ、サリヴァン・フォートナーなどのほか、サックス奏者のトモキ・サンダースやアンソニー・ウェア、ピアニストのマイク・キングといった面々がバンド・メンバーとなっています。中でもトモキ・サンダースはファラオ・サンダースの息子としても知られるのですが、どのように出会ったのですか?

KO:トモキ・サンダースと初めて会ったのは、「スモールズ」っていうニューヨークにあるジャズ・クラブ。ミュージシャンたちがジャム・セッションをやるために集まるバーなんだ。そこで彼を見かけるようになってさ。当時、彼がすごくブリムの大きな帽子をかぶってたのを覚えてる。で、たしか最初はシオ・クローカーが彼のことを紹介してくれたんじゃないかな。それでトモキと連絡をとるようになって、日本に行ったときに僕のショーに彼を呼んだんだ。

■彼の第一印象は?

KO:彼って、ほかのミュージシャンに対してすごく謙虚なんだ。「会えて光栄です」みたいなさ(笑)。ほかのミュージシャンをすごくリスペクトしてるのが伝わってくるんだよね。

■彼が参加した “スティル・エイント・ファインド・ミー” など、フリー・ジャズ的なアプローチも感じられるわけですが、実際に何らかの影響があったのでしょうか?

KO:トモキはすごく自由なエナジーと溢れるような情熱をあの曲にもたらしてくれたと思う。たしかに、フリー・ジャズ的なアプローチは感じられるかもしれないね。というか、僕の目標がアルバムごとに少しずつ、じわじわと自由に、そしてポップになっていくことなんだ。そのふたつって矛盾してるだろ? ポップ・ソング、つまりはよりキャッチーな曲を書けるようになりながら、よりアヴァンギャルドで、自由になりたいんだ。僕はキャッチーさとクレイジーさを同時に手に入れる方法を探求しているんだよ。

■かなり難しそうに聞こえますが(笑)。

KO:その通り(笑)。だからこそ、たくさん実験する必要があるんだ。いつもうまくいくとは限らないけど、ときにはうまくいくこともある。これだ!と心をつかむものが、その過程で生まれるんだよ。それを見つけ出すことが僕の目標のひとつなんだ。

■初めからそこまで大きなヴィジョンを持って活動しているんですね。

KO:それはたぶん、僕がほかのアーティストのアルバムの歴史とディスコグラフィの大ファンだからだと思う。僕にとっては、僕の全てのアルバムは全部集めてひとつの作品なんだ。それぞれのアルバムが、ひとつの大きな物語を語るための要素。だから、同じものは二度と作りたくないんだよね。過去に戻るような作品は作りたくないし、前に進み続けたいんだ。ファンやリスナーの人たちが全てのアルバムを聴いたときに、「なるほど、こういうことだったのか」と気付けるような作品を作りたい。

質問・序文:小川充(2023年6月02日)

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Profile

小川充 小川充/Mitsuru Ogawa
輸入レコード・ショップのバイヤーを経た後、ジャズとクラブ・ミュージックを中心とした音楽ライターとして雑誌のコラムやインタヴュー記事、CDのライナーノート などを執筆。著書に『JAZZ NEXT STANDARD』、同シリーズの『スピリチュアル・ジャズ』『ハード・バップ&モード』『フュージョン/クロスオーヴァー』、『クラブ・ミュージック名盤400』(以上、リットー・ミュージック社刊)がある。『ESSENTIAL BLUE – Modern Luxury』(Blue Note)、『Shapes Japan: Sun』(Tru Thoughts / Beat)、『King of JP Jazz』(Wax Poetics / King)、『Jazz Next Beat / Transition』(Ultra Vybe)などコンピの監修、USENの『I-35 CLUB JAZZ』チャンネルの選曲も手掛ける。2015年5月には1980年代から現代にいたるまでのクラブ・ジャズの軌跡を追った総カタログ、『CLUB JAZZ definitive 1984 - 2015』をele-king booksから刊行。

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