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interview with !!! (Nic Offer)

interview with !!! (Nic Offer)

踊れない時代にダンス・パンク・バンドが出した答え

──チック・チック・チック(ニック・オファー)、インタヴュー

質問・序文:小林拓音    通訳:原口美穂 Photo by Tim Saccenti   Apr 28,2022 UP

 言うまでもなく、パンデミックは世界じゅうのミュージシャンに甚大な被害をもたらした。部屋に閉じこめられた多くの人びとは内省へと向かい、それと関係があるのかないのか、アンビエント作品のリリース量も増えた。あれから2年。欧米ではライヴもパーティもほぼ普通に開催されるようになっている。20年間つねにダンスを追求しつづけてきたNYのパンク・バンド、!!! (チック・チック・チック)の面々はこの期間、どんなふうに過ごしていたのだろう。
 新作を再生すると、アコースティック・ギターが感傷的なコードを響かせている。なじみのある声が控えめに「普通の人びと、普通の人びと」と繰り返している。エネルギッシュなライヴ・パフォーマンスで知られる彼らが、まさか弾き語りに活路を見出す日が来ようとは。まったくコロナ恐るべし……

 嘘だ。2曲めからアルバムはフルスロットルで走り出す。ちょっとしたジョークなのだろう。R.E.M. のカヴァー(というよりはリリックの拝借と言ったほうが近いが)からデンボウ(*)にインスパイアされた曲まで、相変わらずヴァラエティに富んだ内容である。軸になっているのはやはりダンス。!!! がそれを手放すなんてありえない。
 むろん変わったところもある。ドラムマシンの存在感。通算9枚めのスタジオ・アルバムは、かつてなく打ち込みの度合いが高まっている。集まってセッションするのが困難なら、機械を活用するまで。ダンス・パンク・バンドが踊れない時代に突きつけた回答、それが新作『ブルーなままに(Let It Be Blue)』だ。パンデミックの「暗い」思い出を否定することなく、ポジティヴに前へと進んでいこう──ビートルズの曲に引っかけたこのタイトルにはきっと、そんな想いが込められているにちがいない。
 幸いなことに、日本でもだいぶライヴやパーティが復活してきている。先日《LOCAL GREEN FESTIVAL’22》への出演がアナウンスされた !!! だが、ここへ来て単独東京公演も決定した(詳細は下記)。リモートで制作されマシン・リズムに身を委ねた楽曲たちが生のステージでどのように暴れまわるのか、いまから楽しみでしかたない。

* シャバ・ランクスの(反ゲイ感情を含む)問題曲に由来し、その後ドミニカで独自に進化を遂げた、レゲトンの発展形。

普通でいたくないんだけど、普通でいたくないと思うのは他の皆が思っている普通のこと。それって感情の戦いだからね(笑)。ユニークであること、ユニークでありたいと思うことは普通のことなんじゃないかな。雪の結晶と同じさ。ひとつひとつが違って当たり前。それが普通のことなんだ。

つい最近スペインでツアーをされたのですよね。いまだパンデミックは継続中かと思いますが、オーディエンスの状況やパフォーマンスの手ごたえはどうでしたか?

ニック・オファー(以下、NO):すごく良かったよ。久々のコンサートだったから特別感があったし、手ごたえもすごく良かった。パフォーマンスを永遠に続けていたいような感覚だったね。まあ、メンバーのひとりでもコロナにかかったらショウをキャンセルしなきゃっていうプレッシャーはあったけど、その他はいつものライヴと同じように楽しかったし、雰囲気も同じだった。3日だったから、違いを感じる時間もなかったっていうのもあるかもしれない。アメリカに戻って長いツアーをやったらどんな感じなのかな? っていうのはいま俺も気になっているところなんだ。

住まいはいまもニューヨークですか?

NO:そうだよ。

NYはどういう状況なのでしょう? マスクをしている以外は以前のNYに戻りつつあるというような記事も見かけましたが……

NO:ニューヨークって感染者の数も多かったし、アメリカのなかではコロナを気にかけてるほうだとは思うけど、正直いまはもうコロナはあまり影響していないと思う。スーパーとかに行くと、けっこう皆マスクをしていたりするけど、それ以外は前のニューヨークと変わらないね。クラブにいったらワクチンの接種証明のカードを見せないといけないとか、以前と違うのはそれくらい。

前作もヴァラエティに富んでいましたが、今回もだいぶヴァラエティに富んだアルバムに仕上がっています。パトリック・フォードによるトラック、ドラムマシンも印象的です。こういう打ち込み寄りのアルバムに仕上がったのは、ここ2年のパンデミックと関係がありますか? たとえばエレクトロの “Panama Canal” は、ラファエル・コーヘンとマリオ・アンドレオーニのファイル共有から生まれた曲だそうですね。

NO:!!! はエレクトロニックな要素を年々増してきているけど、今回はそれがMAXになっている。やっぱりそれは、バンドとして集まることができなかったから。俺たちはエレクトロニック・ミュージックが好きだし、それは常に !!! のサウンドの要素としては存在していたけど、今回はさらにそれを強化せざるをえなかったんだ。だから逆に、次のアルバムはもっとアコースティックになるかもね。今回は、リモートでエイブルトン・セッションをやりながら曲をつくっていったんだけど、“Panama Canal” もそのひとつ。誰かがまずサウンドを作って、それにまた違うメンバーが自分の音を乗せていく、というのが主な流れだったんだ。

R.E.M. の時代は、皆もっと無知だった。だから、情報を与えられると皆がそれを信じざるをえなかったと思う。でもいまは、皆ある程度知識がある。いまは、陰謀論をつきつけられても、俺たちはそれを信じるか信じないかの選択肢を持ってるんじゃないかな。

今年は “Me And Giuliani Down By The School Yard (A True Story)” から19年、来年で20周年です。最近就任したエリック・アダムス市長はどんな印象の人物ですか? 銃の暴力からの脱却やホームレス問題の解決などを掲げているそうですが。最近は、仮想通貨で給料を受け取るというニュースも話題になりましたね。

NO:俺はあんまりそういう話題はフォロウしてないんだよね(笑)。ジュリアーニよりはマシなんじゃないかな。もちろんエリック・アダムスも大衆が嫌がることをしてはいるんだろうけど。でも、彼なりにニューヨークという街をより多くのビジネスや観光業で潤わせようとはしてると思う。それが俺が望むことかと聞かれたらそうではないけど、彼は彼のやり方でやってるんじゃないかな。完璧ではなくても、ジュリアーニよりマシなのは確か(笑)。ジュリアーニより良くなるのはぜんぜん難しいことじゃないしね(笑)。

“Me And Giuliani” が出た当時は、アメリカやイギリスがイラクに戦争を仕かけていました。いまはロシアがウクライナを侵略中です。今回バイデンはあまり積極的には介入していないように見えます。彼は、米国民からの支持は高いのでしょうか?

NO:俺はあまり政治のことを理解していないから、この質問に答えるのに適してはいないと思う。ニューヨークでは絶対に見ないのに、アメリカの真ん中なんかに行くと、トランプ支持の垂れ幕が掲げてあったりしてさ。俺もびっくりするんだ。それくらい、アメリカ全体がなにを考えているのかはわからない。バイデンの文句を言っているひとたちもいるけど、彼が完全になにかをやらかしたとも思わないし、エリック・アダムスと同じく、彼は完璧ではないけどトランプよりはマシなんじゃないかな。

初めて1曲目を聴いたとき、アコースティックな曲でびっくりしました。まるで違うバンドになったかのような印象を受けました。リスナーにどっきりを仕かけるような意図があったのでしょうか?

NO:そうそう。このアルバムにはサプライズがあるぞってことを知らせるため。あと、気に入らなかったらスキップしやすいとも思ったし(笑)。

同曲は、タイトルどおり「普通の人びと」がテーマの曲ですが、逆にあなたにとって「普通ではない人たち」とはどのような人びとですか?

NO:なにを普通とみなすかがまさにこの曲のテーマなんだ。自分自身でいることへの葛藤とかね。でも、誰だって普通なんだ。みんなそれぞれ違うし、それは当たり前のこと=普通なんだ。皆、最初は似たような希望や夢を持っていて、成長するにつれそれにそれぞれのフィルターがかかってくる。自分自身でありたい、ユニークでいたいという思いは皆が共通して持っている普通の思いだし、イコール、それは他と違う、つまり普通ではないということ。この曲は、その「もがき」について歌っているんだ。普通でいたくないんだけど、普通でいたくないと思うのは他の皆が思っている普通のこと。それって感情の戦いだからね(笑)。そういうわけで、なにが「普通でない」のかは逆にわからない。基本、皆普通だと俺は思ってるからさ。ユニークであること、ユニークでありたいと思うことは普通のことなんじゃないかな。雪の結晶と同じさ。ひとつひとつが違って当たり前。それが普通のことなんだ。

いまUSもしくはNYで「普通の人びと」が最も気にしていること、心配していることはなんでしょう?

NO:難しい質問だな(笑)。たぶん、みんなまた自由を手にして普通の生活を取り戻したいと思ってるんじゃないかと思う。パンデミックでいろいろ学んだし、シンプルなことのありがたさ、すばらしさに気づかされた。だから、皆それを恋しがり、ふたたび手にしたいと思ってるんじゃないかな。皆で集まったりとか、一緒に出かけるとかさ。当たり前だと思っていたけど、それがどんなに特別なことかを知った。俺にとっては、人前でパフォーマンスすることもそのひとつ。以前の普通の生活に戻りたい、それが皆がいちばん気にかけていることだと思う。気候変動とかも心配だけど、パンデミックがまた戻ってくるんじゃないかっていうのがいちばん心配だよね(笑)。

4曲目 “Un Puente” は歌詞も一部スペイン語ですし、サウンドもこれまでになかったタイプの曲と感じ、!!! の新機軸かなと思ったのですが、ご自身たちではどう思っていますか?

NO:この曲は、こないだスペインで演奏したときオーディエンスの皆が一緒に歌ってくれたんだ。あの時間はすばらしかった。俺たちはいつだって新しい領域に足を踏み入れようとしているし、もちろんこの曲もそれを試みた作品のひとつ。この曲が特に影響されているのはドミニカ共和国のデンボウという音楽で、なかでもエル・アルファというアーティストが大きなインスピレイションなんだ。俺たちはポップ・ミュージックが好きなんだけど、ビートルズもプリンスも、ティンバランドもアウトキャストも、ポップの流れのなかである境界線を超え、音が奇妙になる時期があった。ドミニカのポップ・ミュージックは、いまその時期に突入していて、それが俺たちにとってはすごく魅力的だったんだよ。聴いていてすごく楽しかったから、取り入れてみることにしたんだ。

“Man On The Moon” はシングルで先に出ていた曲ですね。ちょうど30年前にリリースされた R.E.M. のこの曲は、なにごとも疑ってかかるひとや、もしくはなにが真実なのかわからないということがテーマの歌かと思うのですが、これをカヴァーしたのは昨今の陰謀論の流行を踏まえてですよね?

NO:正直、なんでカヴァーしたのかは自分たちにもわからない(笑)。そのトラックをつくっていたときに、たまたま思いついて。つくっていたトラックに “Man On The Moon” の歌詞を適当にのせてたんだけど、それがすごくしっくりきて、この曲にこれ以上の歌詞は書けないなと思ったからそのまま使うことにしたんだ(笑)。逆にその歌詞にあわせてベストなサウンドをつくりたくもなったし、やっていてすごく楽しかった。だから理由は陰謀論が流行っているからではないけど、カヴァーをつくっていたとき、20年前にこの曲の歌詞を聴いたときとは時代がぜんぜん違うんだなとは感じたね。昔といまでは陰謀論の捉え方や、なにを信じてなにを信じないかも違っているから。

質問・序文:小林拓音(2022年4月28日)

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