Home > Interviews > interview with Cornelius - 新作『Ripple Waves』を語る
『Mellow Waves』は、決してトレンディなサウンドというわけではないし、シーンを調査して作ったというよりは独自のアプローチを持っていて、日本のポップスとしては珍しく、言うなればここ数年のジェイムス・ブレイクからザ・XX、フランク・オーシャンらをはじめとするメランコリーな潮流にリンクするアルバムだった。歌の主題はバラ色の生活でもなければ太陽でもなく、雨や夜と共鳴する内省的なものばかりで、しかし音のほうは新鮮だった。時代感覚に優れているし、たとえばエイフェックス・ツインや坂本龍一と同じステージに出ていっても違和感のない日本のロック・ミュージシャンは、小山田圭吾のほかに誰がいるのだろう。控え目に言ってもこれはすごいことだし、日本のことに若い音楽の多くが政治と同じように内向きになっている現状を考えれば、どんなに歳をとっても尖っていて、土着性に対してもドライでいられるコーネリアスは、いまでも希有な存在だと言える。
この度リリースされる『Ripple Waves』は、『Mellow Waves』と同じ時期に発表されたアルバム未収録曲とリミックス・ヴァージョンをひとつにまとめた編集盤で、いわば企画盤。当然ながら小山田圭吾はこの場で、彼らしい悪戯っぽさと音楽との戯れとを見せ、楽しみの部分を膨らませている。つまりちょっとうれしくなるCDだ。言うまでもなくうれしくなることは、良いことだ。たとえちょっとでも。
だいたい1枚のアルバムにおいて、ドレイクのカヴァーとフェルト(※80年代前半のチェリー・レッドを代表するバンドのひとつで、暗く切なく叙情的なギター・サウンドとヴォーカルを特徴とする)のリミックスを並列させるという大胆な発想は、面白い。細分化され、ともすれば趣味の差異化を競い合うだけになったシーンを見透かすようで、あるいはまた、“夢の奥で”のようなコーネリアスからのヴェイパーウェイヴへの回答と呼べるような曲もあるが、これもアルバムの一部としてハマっている。
フェルトは別格(というか特別枠)として、リミキサーのラインアップからは彼なりの“いま”が見える。UKジャズを代表するレーベルのひとつ、〈22a〉で活躍するレジナルド・オマス・メイモードIV、NYのインディ・ロック・バンド、ビーチ・フォシルス、メルボルンのソウル/ファンク・バンド、ハイエイタス・カイヨーテ、先述したフェルトのローレンス、そして細野晴臣と坂本龍一という巨匠ふたり。なかでも坂本龍一によるアンビエント・ミックスは、『Mellow Waves』というプロジェクトの最後を飾るのに相応しく、これがまた……、まったく素晴らしい切なさと美しさを携えている。
こうした企画盤の多くはコア・ファンを対象にしたものなのだろうけれど、『Ripple Waves』はそれだけで片付けてしまうにはもったいない、『Mellow Waves』とは別の輝きをもっているわけです。ひょっとして、三田格に言わせれば食品まつりがいないじゃないかとなるのだろうけれど、まあいいじゃないですか、それでもここにはコーネリアスと一緒にドレイクとヴェイパーウェイヴと坂本龍一とフェルトがいる。こんなイカれた企画盤はそうそうあるもんじゃない。E王(推薦盤)でしょう。
『Mellow Waves』はひとつ自分で全部世界観を作っているものなんですけど、これはそこから派生していったものなので、半分は自分であり、それぞれのアーティストの作品だから。というかほぼリミックスというよりも彼らの作品に近いような感じになっている。
■『Mellow Waves』をリリースして、日本全国ツアーからはじまって、アメリカとヨーロッパに行って。ずっとライヴで忙しかったんじゃないですか?
小山田:うーん。まぁまぁですかね。今年はライヴをやっていましたね。
■去年から。
小山田:まぁ去年から。
■その前に『FANTASMA』のツアーをやっていますが、今回のライヴツアーとは全然違ったと思います。やっていてどうですか?
小山田:楽しかったですね。まだちょっとあるんだけど。
■例えば、US、UK、あるいはソナー、ヨーロッパとか今回の新しいセットで行ってリアクションはどうでしたか?
小山田:うーん。良いんじゃないかな(笑)。いままでのなかでいちばん楽しいツアーですね。
■どんな意味で楽しかったのですか?
小山田:いろいろかな。ちゃんとできるようになってきたというか。日本でやっている感じをそのまま持っていけている感じがします。行程的にもそこまで過酷じゃなく、お客さんもわりと皆喜んでくれて。
■ロンドンにいる知り合いが、仲の良いレコード店から連絡があって、「今日コーネリアスが店に来た!」って言っていたそうです(笑)。
小山田:どこの? シスター・レイかな……。
■どこかわからないけど2カ月くらい前かな。
小山田:ロンドンで結構レコード屋に行きましたね。
■ちょうどそのときその人は、細野晴臣さんのライヴに坂本龍一さんと髙橋幸宏さん。小山田君たちが出たときのライヴを観ているんですよ。
小山田:YMOで出たとき。それはたまたまコーネリアスでヨーロッパに行っていて。細野さんがロンドンでやるというから、ロンドンに残って細野さんを観て帰ろうと思っていたら、じゃあやるよ! みたいな感じになって(笑)。
■急遽でることになったんだ(笑)。
小山田:そうです(笑)。
■UKはブリクストン?
小山田:ブリクストンのフィールド・デイというフェスです。
■ヨーロッパはソナー?
小山田:うん。
(といいながら、電子タバコを吹かしている様子を見ながら)
■小山田君、タバコを止められなくて苦労しているでしょ(笑)。
小山田:いや、いまこれがお気に入りで(笑)。
■宇川(直宏)君がタバコを辞めたのを知ってる?
小山田:そうなんだ! そういえば吸っていなかったような気がする。でもウーロンハイをガボガボに飲んでいましたよ(笑)。
■どこであったの?
小山田:「AUDIO ARCHITECTURE展」という展覧会の関係でこの前ドミューンに出演したときに久しぶりに会いました。
■ドミューンにでたんだ! すごいね。
小山田:いやぁすごいなぁ宇川君……。こっちでスイッチングしながら、こっちでツイートしながら、俺と喋って、ウーロンハイを飲むという(笑)。それでこっちで喋って参加したりしながら。4人分くらいのことをやっていたよ(笑)。全部がハイテンションで。
■すごいよね(笑)。
小山田:聖徳太子みたいだった(笑)。
■たしかに(笑)。このリミックスとか未発表曲とかは、『Mellow Waves』を録音したときに作った曲もあれば、それ以降に作った曲もあって、それをまとめたものだと思うんですけど、本当に良いアルバムだなと思いました。いちいち驚きがあったんだけど、ドレイクの“Passionfruit”のカヴァーに結構驚きました。こんなのいつのまにだしていたんだと思って。
小山田:これはSpotify Singlesという、Spotifyだけのシングルみたいなものがあって。
■ニューヨークで録ったんでしょ?
小山田:そうです。Spotifyの会社のなかにスタジオがあって。
■ドレイクの“Passionfruit”にしたのはなぜ? 好きだからなんだろうけど。
小山田:Spotify Singlesは、1曲オリジナルで1曲カヴァーみたいなことが決まっていて、最初全然違うのを言ったんですけど、そうしたら向こうのマネージャーやレーベルの人にそんな誰も知らないような曲をやっても意味ないとか言われて。それでえぇーと思ってこれを思いついて。逆に皆びっくりして良いかなと思いました。曲が好きだったんですけどね。
■その場で決めたの?
小山田:その場ではなくて、行くちょっと前に決めてこれやりますよと一応言ってから。
■小山田君がドレイクを聴いていることがすごく意外だった。
小山田:そんなにちゃんと聴いていないですけどね(笑)。でもこの曲は好きだった。
■未発表曲が全部CD化されたのもすごくはまっているなと思いました。“夢の奥で”なんかもこうやって聴くと良い曲ですよね。
小山田:曲なのかなんかわからないけど……。
■これはヴェイパーウェイヴを意識したわけではないでしょ?
小山田:うーん、ヴェイパーウェイヴに近いものはありますよね。これはうちのおじいちゃんがしゃべっているんですよ。ヴィデオもあって、MVもあるんですけど自分で作りました。子供の頃の自分がしゃべっている声がこれに入っているんですけど、実はその映像が残っていて、その映像を使って作りました。
■これもすごく良かったな。アルバムの後半はリミックスが続くわけですが、このリミキサーの人選はもちろん小山田君が自分で選んだのですか?
小山田:うん。そうです。
■どうしてこの人選になったんですか?
小山田:最初はSpotifyとかそういうサブスクリプション用にリミックスを何曲か作りたいと言われて、何人か名前を出したんですよ。坂本さんと細野さんは『Mellow Waves』が出たときに『サウンド&レコーディング』のリミックスを付けるという企画でお願いしたやつです。ほかの人選に関しては、国とか世代とかジャンルとかがばらける感じで、自分が聴いてみたいと思う人という感じですかね。
■フェルトのローレンス(笑)。これはいちばん笑いました(笑)。
小山田:これはねぇ、いちばんヤバイですね(笑)。
■よくコンタクトが取れましたね。
小山田:コンタクトが取れるという話があって、ローレンスのマネージャーという人と連絡がつきました。高校性ぐらいからずっと大好きで、どういう人かというのも何となく知っていたし、相当な変わり者だという話も聞いていました。リミックスとかやったことが無いと思うのでどうゆうものがでてくるのかなぁっていう。
■たくさんのニューウェイヴ・バンドというか、好きなものがたくさんいるなかでなぜフェルトだったの?
小山田:なんか……、好きなんですよね(笑)。興味があったんですよね。やってくれそうな感じもちょっとしたので。
■フェルトを聴き直していたとかそういうことじゃなくて?
小山田:フェルトは常に聴いていますね。今年ちょうど再発したんですよね。それでまたちょっと気になって。
■再発したこととかよくチェックしてるね。
小山田:チェックはしていますよ。ローレンスのことは気にしています常に(笑)。〈Heavenly〉というレーベルが作った『Lawrence of Belgravia』というローレンスの映画があるらしいんですよ。日本語訳は出ていないんだけど、ローレンスのドキュメンタリーみたいなやつで、それをすごく見てみたいなと思いますね。
■ある種の伝説みたいな人になっているのかな?
小山田:そうじゃないのかなぁ。
■孤高の人だもんね。
小山田:本当に孤高の人だし、フェルトの作品はフェルトというものとしてすごく完成されているし、相当いろんな人に影響を与えていると思うんだけど、評価がだいぶ低い。人としても音楽としても興味がある人ですよね。
■『Mellow Waves』のテイストとフェルトというのは、たしかにあるなとは思ったんだよね。
小山田:ちょっとあるでしょ。
■だから『FANTASMA』のときではないじゃん。
小山田:じゃないですね。なんか曇っていて悲しげみたいな感じはフェルトにすごくありますよね。
■これは歌ったり演奏したりしたわけではないんだね。
小山田:声が入っているんですよね。コ〜ネ〜リア〜ス♪って入っていて、ぼくの名を呼ぶ声が入っている(笑)。自分は暴力温泉芸者とかを思い出したんだけどね。中原君のコラージュとかを思い出したんだけど。ああいうちょっとナンセンスなセンスみたいなものがあるなぁと思って。彼はミュージシャンではないというか、楽器を演奏したりということはあんまりしないから、どういうものになるのかなと思っていたけど、フェルトとかいまやっているゴーカート・モーツァルトとかともまた全然違う感じになっておもしろかった。
■これはコーネリアスの昔からのファンからしてみたらいちばんうけるというか。
小山田:曲は置いといて。
■この組み合わせはなるほどと思いましたよ。ぼくはビーチ・フォシルスを知らなかったんだけど、ニューヨークのインディ・バンド?
小山田:ブルックリンの若手インディ。
■これは若い世代にひとつ託そうみたいな感じ?
小山田:うん(笑)。単純にビーチ・フォッシルズのアルバムが好きだったんです。いまどきの若いインディーのバンドをひとつ入れたいなと思って。いわゆるインディー・ロックっぽい感じでね。
■レジナルド・オマスさんも意外だったね。ぼくもロンドンのこの辺の人たち、〈22a〉周辺の人たちの音がすごく好きで聴いています。
小山田:かっこいいですよね。この前ブリクストンのフィールド・デイというフェスでライヴがあって、近所だから行くと言ってきてくれて会いました。若い人でした。ヒップホップなんだけど、全然オラオラしている感じじゃない。プリンスとかスライとか、あとリズムが独特で好きなんですよ。
■やっぱり聴いて?
小山田:うん。好きで聴いていて。
■ハイエイタス・カイヨーテはメルボルンのバンドだよね? これも知らなかったな。
小山田:この人たちは結構話題になったよね。メジャーだし。
■ヴィジュアルだけみると、ロータリー・コネクションみたいな感じだね(笑)。
小山田:たしかに(笑)。ロータリー・コネクションぽいね(笑)。音楽的にも近いかもね。ちょっとサイケデリックなソウル・ファンクみたいな感じで。めっちゃ演奏が上手くて、プレイやーとしても皆すごくて。ビートの解釈がすごく斬新。
■これも聴いて好きだったからやろうという感じ?
小山田:うん。
■最後は、巨匠ふたりのリミックスで見事に締められるわけですが、ぼくはこれで初めて聴いたんだよね。
小山田:本当にいろいろなメディアで発表していたから、ひとつにするとやっとちゃんと聴ける。
■細野さんはベースを弾いているわけではない?
小山田:たぶん弾いてはいないと思うんだよね。
■普通にリミックス?
小山田:うん。
■坂本さんは『async』に入っていてもおかしくないくらいの曲になっていて。
小山田:うん。『async』の世界ですよね。
取材:野田努(2018年9月14日)
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