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Andrew Ashong and Kaidi Tatham

Broken BeatJazzSoul

Andrew Ashong and Kaidi Tatham

Sankofa Season

Kitto

小川充   Jan 07,2021 UP

 1990年代後半から2000年代前半のウェスト・ロンドンで巻き起こったブロークンビーツ・ムーヴメント。それを牽引したプロデューサー集団のバグズ・イン・ジ・アティックの一員で、ネオン・フュージョン、DKD、シルエット・ブラウンなど数多くのプロジェクトに関わってきたカイディ・テイサン(日本ではテイタムと表記されることが多いが、正確な発音ではテイサンとなる)。DJやプロデューサーが多い西ロンドン勢の中にあって、カイディはまずキーボードやドラムを操るマルチ・ミュージシャンであり、そこから発展してプログラミングやビートメイキングをマスターしていった口である。その後、ブロークンビーツが下火になってからも地道に活動を続け、西ロンドンのサークルで現在も精力的に作品リリースを行なっているのは、IGカルチャー、ディーゴ、そしてカイディあたりだろう。カイディ自身はミュージシャンということもあり、サウス・ロンドンのジャズ・ミュージシャンたちからも一目置かれ、ときにセッションを行なっている。〈ジャズ・リフレッシュド〉から作品もリリースしており、バンドにシャバカ・ハッチングスが参加していたこともある。

 ソロ名義での最新作は『イッツ・ア・ワールド・ビフォア・ユー』(2018年)となるが、それ以外にここ数年来はディーゴと組んで仕事をすることが多く、彼とのユニットであるディーゴ&カイディ(別名2000ブラック)はじめ、4人組ユニットとなるテイサン、メンサー、ロード&ランクスでアルバムをリリースしている。そのディーゴ&カイディによる『アズ・ソー・ウィ・ゴーウォン』(2017年)はセオ・パリッシュの〈サウンド・シグネチャ〉からのリリースで、セオとカイディやディーゴとの交流が垣間見えるものだった。そして、〈サウンド・シグネチャ〉から2012年に「フラワーズ」というEPでセオ・パリッシュとのコラボによってデビューしたのがアンドリュー・アションである。
 アンドリュー・アションはガーナ系イギリス人で、サウス・ロンドンのフォレスト・ヒルを拠点に活動する。DJやプロデュースも行なうが、主軸はシンガー・ソングライターで、「フラワーズ」で印象に残ったのもその繊細な歌声とギターだった。当時のメディアは、彼のことをシュギー・オーティスやビル・ウィザース、またはルイス・テイラーなどと比較していた。「フラワーズ」は〈サウンド・シグネチャ〉にしてみれば異質の作品だったが、それでも自分のレーベルからリリースしたのは、セオがいかにアンドリューの才能を買っていたかを示している。

 アンドリュー・アションは非常に寡作なアーティストで、その後は2014年に「アンドリュー・アションEP」をリリースしたほかは、セオ・パリッシュとトニー・アレンの共作の “デイズ・ライク・ディス” “フィール・ラヴ” にフィーチャーされたり、ナイトメアズ・オン・ワックスの『シェイプ・ザ・フューチャー』(2018年)に参加した程度のレコーディング状況である。そんなアンドリューが2014年のEPから実に久々の新作をリリースしたのだが、そのコラボ相手がカイディ・テイサンである。ふたりの間にどのような交流があったのかはわからないが、恐らくはセオ・パリッシュも橋渡しに一役買っているのではないだろうか。現在カイディは北アイルランドのベルファストに住んでいて、レコーディングはロンドンとベルファストを結んで(恐らくはリモートで)行なわれた。リリース元の〈キット〉は本作が第1作目となり、ベルファストとロンドンを繋ぐレーベルとのことなので、カイディとアンドリューが共同で設立したのだろう。

 収録曲は全6曲とEPかミニ・アルバムくらいのヴォリュームで、アンドリューとカイディ以外の参加アーティストのクレジットはなし。完全にふたりだけで作った作品集である。演奏楽器などのクレジットもないが、アンドリューが歌とギター(及びベース)、カイディがキーボードとドラムス(及びパーカッション)、フルートなどといった役割分担になっているのだろう。リズム・トラックは基本カイディが作っていて、生ドラムとプログラミングを組み合わせたものとなっている。全体的な雰囲気としてはジャズ/フュージョン調のトラックを軸に、ソウルやファンク、ディスコなどのテイストを織り交ぜたもの。クールなブギー・トラックの “ロウ・セリングズ” のように、カイディのソロ・アルバムの延長線上にあるものだ。
 ストリングスを交えたメロウな空間が広がる “ウォッシュド・イン・ユー” は、AORタッチのアンドリューのヴォーカルにカイディのエレピ・ソロも聴きどころで、リオン・ウェアとマルコス・ヴァーリがコラボしていた1980年頃の空気感を彷彿とさせる。“Eye Mo K(アイム・オー・ケー)” も同系の曲で、ジャズとソウルの最良のエッセンスが見事に融合した上で、さらにディスコやラテンなどいろいろな要素が結びついている。いまの時代ならサンダーキャットの諸作に近い雰囲気だろう。アンドリューのギターが活躍する “サンコファ・ソング” もサンダーキャットが思い浮かぶような曲で、さらに言えばサンダーキャットが影響を受けたジョージ・デュークやハービー・ハンコックが1970年代後半に見せていたような世界だ。このあたりはずばりカイディの音楽性の土台になっている部分でもある。ヴォコーダー風のコーラスが入る “ラーニング・レッセンズ” はアジムスのようなブラジリアン・フュージョン調の曲で、やはりカイディが得意とするところの音楽性が表われている。“トゥ・ユア・ハート” はエレクトロな度合いの高い曲で、ダビーでアンビエントな空間が広がる。
 全体を通して聴くと、カイディのソロ作に比べて総じてソウルフルな度合いが増していて、そこはアンドリューが加わっているからだろう。トム・ミッシュとユセフ・デイズのコラボ・アルバムのように、アンドリューとカイディのこの組み合わせは大成功と言える。

小川充