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Likwid Continual Space Motion

Afro JazzBroken BeatExperimentalLatin Jazz

Likwid Continual Space Motion

Earthbound

Super-Sonic Jazz

小川充   Dec 02,2020 UP
E王

 リキッド・コンティニュアル・スペース・モーション(LCSM)という名前は、かつてジョナ・シャープが1990年代にやっていたジャズ+ファンク+テクノ+エレクトロニカ・ユニットのスペースタイム・コンティニュウムを連想させると共に、ジョージ・クリントンやPファンク的なネーミング・センスを感じさせる。
 ちなみにリキッドの綴りがLiquidでなくLikwidとなっていて、ちょっと言葉遊び的な要素もある。そして、リリース元は〈スーパー・ソニック・ジャズ〉というサン・ラーのアルバム名から名づけられたオランダの名門〈キンドレッド・スピリッツ〉傘下のレーベル。すなわちサン・ラー~ファンカデリック/Pファンクというアフロ・フューチャリズムの継承者たちの先に、LCSMはあるということを暗示させる。
 アルバム名の『アースバウンド』はかつてキング・クリムゾンがライヴ・アルバムに用いたタイトルと同じだが、地球や大地に根ざしたとか、宇宙船が地球に帰還することを意味しているそうだ。やはりサン・ラー的なタイトルと言えよう。

 このLCSMはIGカルチャーのユニットで、そもそもは2003年に〈キンドレッド・スピリッツ〉がサン・ラーのトリビュート企画の『サン・ラー・デディケーション』を立ち上げ、IGが代表曲の“スペース・イズ・ザ・プレース”をカヴァーした際に用いたリキッド・コンティニュアル・スペース・モーション・オペラが発端である。
 この『サン・ラー・デディケーション』はセオ・パリシュ、キング・ブリット、カーク・ディジョージオ、リクルース、アレックス・アティアス、ジミ・テナー、ビルド・アン・アーク、マッドリブらと並び、サン・ラー・アーケストラの元ドラマーでカール・クレイグのインナーゾーン・オーケストラにも参加したフランシスコ・モラ・キャトレットも名を連ねるというスペシャルな企画だった。
 これ以後も〈キンドレッド・スピリッツ〉は定期的にサン・ラーのリイシューやリミックス企画を行ってきているのだが、今回のLCSMの『アースバウンド』は直接的にサン・ラーと結びつけてはいないものの、根底では一連のサン・ラー企画と繋がっているところはあるだろう。
 話を2003年に戻すと、当時はブロークンビーツの波が最高潮に達していた頃で、アレックス・アティアス、キング・ブリット、カーク・ディジョージオ、リクルースは軒並みにブロークンビーツ作品を作っていた。マッドリブでさえDJレルスというブロークンビーツ・ユニットをやっていたくらいだ。そうした波の張本人がIGカルチャーであり、フィル・アシャーと共にブロークンビーツのオリジネイターと言える人物だったのである。

 IGカルチャーは本名をイアン・グラントといい、アシッド・ジャズ期の1990年代初頭にドッジ・シティ・プロダクションズというジャズ・ヒップホップ・ユニットでキャリアをスタートさせている。
 ドッジ・シティはロニー・ジョーダンと共演したリ、マンデイ満ちるのアルバム制作に参加した後に解散し、それから時が経過して1990年代後半にIGはニュー・セクター・ムーヴメントというユニットでアフロ・ビートを発展させたようなブロークンビーツを始める。ヒップホップやブレイクビーツを基盤とするIGと、ハウス/テクノを基盤とするフィル・アッシャーのリズム感覚が混ざった上に、ドラムンベースから来た4ヒーローやドム、ジャズやフュージョン感覚に富むカイディ・テイサンらを含むバグズ・イン・ジ・アティックなどが加わり、ウェスト・ロンドンでブロークンビーツ・シーンは開花していく。
 現在のサウス・ロンドンの盛況ぶりに近いものが当時のウェスト・ロンドンにはあって、アレックス・アティアスやマーク・ド・クライヴ・ローなどイギリス以外の国から移住してきた人たちがいた。

 その後ブロークンビーツは下火になっても、IGカルチャーは地道に活動を続けていて、USのラッパーのジョン・ロビンソンとコラボしたり、2008年に『ゼン・バディズム』、2012年に『ソウルフル・シャンハイ』というソロ・アルバムをリースしている。『ゼン・バディズム』ではダグ・カーンの“リヴェレーション”やエディ・ケンドリックスの“ガール・ユー・ニード・チェンジ・オブ・マインド”、『ソウルフル・シャンハイ』ではハリー・ホイテカーの“ブラック・ルネッサンス”といったアンセム的な楽曲をカヴァーしており、ジャズ、ブルース、ソウル、ファンクというブラック・ミュージックのルーツに根ざした姿を見せていた。
 近年はと言うと、2019年にLCSM名義でEPをリリースしていて、ここにはナサニエル・クロス(モーズス・ボイド・エクソダス)、ウェイン・フランシス(ユナイテッド・ヴァイブレーションズ)、ニュー・グラフィック(ニュー・グラフィック・アンサンブル)、エディ・ヒック(ココロコ、サンズ・オブ・ケメット、ルビー・ラシュトン、ユナイティング・オブ・オポジッツ)と、いわゆるサウス・ロンドンのジャズ・シーンで活躍する面々が参加。レコーディングも聖地のトータル・リフレシュメント・センターで、IGとサウス・ロンドン勢の接近を感じさせるものだった。
 ブロークンビーツ全盛期の同志だったカイディ・テイタムやディーゴについても、近年はサウス・ロンドン勢からリスペクトを受けたり、コラボレーションを行う場面もあったりするのだが、親子ほど年齢の離れた彼らが世代を超えた結びつきを見せているのが現在のロンドンである。

 そのEPを発展させたのが今回の『アースバウンド』である。ナサニエル・クロス(トロンボーン)、ウェイン・フランシス(サックス、キーボード)、ニュー・グラフィック(キーボード)、エディ・ヒック(ドラムス)といったメンバーは引き続いており、EPではエンジニアを務めたアレックス・フォンツィがギターを演奏。彼はかつてバグズ・イン・ジ・アティックやネオン・フュージョンのメンバーで、IGと共にウェスト・ロンドンのブロークンビーツ時代を築いたひとりだ。IGはキーボード、パーカッション及び全体のプロダクションやビートメイクを行っている。“モア・ブリリアント・センター”という曲にあるように、今回もトータル・リフレッシュメント・センターで録音は行われた。
 その“モア・ブリリアント・センター”はジャズ・ファンクとアフロが結びついたナンバーで、アプローチとしてはブロークンビーツにジャズの即興演奏を交えたものとなっている。ニュー・グラフィック・アンサンブルやジョー・アーモン・ジョーンズのアルバムに通じるような楽曲である。
 今回のアルバムにはジョン・ロビンソンのようなラッパーは入っていないが、“ザ・ボックス”に見られるようなポエトリー・リーディングが随所に用いられている点も特徴だ。それによって“ザ・ワード”に見られるようなメッセージ性を生んでいる。
 楽曲は全般的にアフロ・ジャズ、スピリチュアル・ジャズをモチーフとした上で、“ワールド・オーダー・イズ・カオス”のようなアーサー・ラッセル的とも言えるアヴァンギャルド~ニュー・ウェイヴの要素も垣間見せる。

 “アースバウンド”“マート・ライフ”“ザ・ウェイ”で見せるソリッドなビート・メイキングはブロークンビーツ時代から見せるIGならではのもので、生ドラムやパーカッションと結びついて有機性や強靭さを増している。“フリークエンシー”はどこかクラフトワークの“トランス・ヨーロッパ・エクスプレス”を思わせるフレーズが出てきて、LCSMの名前らしいコズミック・ジャズとなっている一方、同じコズミックな感覚でも“エイリアン・スフィア”では神秘的な方向性を見せる。
 スピード・ガレージ的なビートの“ピース・オブ・マインド”や、ラテンをモチーフとする“フォー・ザ・ピープル”はプログラミングやサンプリング中心で、IGがDJプロデューサー出身であることを再認識させてくれる。彼の音楽はミュージシャンが作るそれではなく、基本的にはダンス・ビートの上に成り立つものなのだ。ムーディーマンに近い“ソウル・イン・ヨー・マインド”やジャズ・ファンクの“アンリアル・ロック”もそうだし、サン・ラーの世界観を継承するようなコズミック・ジャズの“トウェルヴス・プラネット”にしても、IGの強くバウンシーなビートが軸になっている。
 ブロークンビーツ勢の中でもとりわけビートの探求心が強く、そうした点ではJディラに近いところも感じさせたIGだが(『ゼン・バディズム』のジャケではマルコムX、モハメド・アリ、サン・ラー、マーヴィン・ゲイなどと並んでJディラもオマージュに登場していた)、“アヌンナキ”における変則的だが永続性もあり、生楽器の即興演奏とも見事に融和してしまうビートこそ、IGのビート・サイエンティストぶりを証明するものだろう。

小川充