Home > Reviews > Album Reviews > BJ The Chicago Kid- 1123
ソウル/R&Bの名門レーベルである〈モータウン・レコード〉に所属し、現行ソウル・ミュージック・シーンを代表するシンガーである BJ the Chicago Kid が、自らの誕生日(=11月23日)をタイトルに付けた、3rd アルバム『1123』。元々、Kendrick Lamar や Schoolboy Q ら〈TDE〉の関連作や、Dr. Dre 『Compton』などへのゲスト参加によって注目を浴び、シンガーとしての高い実力を知られるようになっていった彼であるが、前作『In My Mind』リリース後の約3年半だけでも、Anderson .Paak、Chance The Rapper、Solange、Common、Talib Kweli、PJ Morton、Rapsody など、実に様々なアーティストの作品に客演しており、音楽業界内でも引く手あまたな存在である。ヒップホップとソウル、両方のシーンとも強い親和性のあるシンガーという意味では、本作にも参加している Anderson .Paak にも共通のものを感じるかもしれないが、お互いの基本的な方向性は異なる。あくまでもヒップホップがルーツである Anderson .Paak に対して、BJ the Chicago Kid の場合は地元シカゴの教会でのゴスペルの経験や、あるいは伝統的なソウル・ミュージックがその根底にあり、彼が〈モータウン〉に所属しているというのも、その証(あかし)とも言えるだろう。
そんなふたりが共演しているオープニング曲“Feel The Vibe”は、本作でもベストな一曲だ。Justin Timberlake のプロデュースなどで知られるヒットメーカー、Danja がプロデュースを手がけているこの曲は、現在進行形なサウンドの中に、スクラッチとホーンによって90年代的なノスタルジックなテイストが加えられており、そこに Anderson .Paak のラップと BJ the Chicago Kid の歌が絶妙に絡まって、極上のハーモーニーを生み出している。続く“Champagne”も Danja のプロデュース曲だが、こちらは Danja が得意とするシンセ・サウンドが全面に押し出され、キラキラとしたアーバン感と、BJ the Chicago Kid の色気のある歌声との相性は完璧だ。プロデューサーとしてもう一組、本作のキーとなっているのが Cool & Dre で、彼らが手がけた“Can't Wait”のほうはトラップの要素が入った R&B チューンでこちらも面白いのだが、注目すべきはもう一曲の“Playa's Ball”だ。60年代、70年代のソウルを強く意識したドライで温かみのあるサウンドに、BJ the Chicago Kid のヴォーカルが実に生っぽくソウルフルに響き、さらに後半に登場する Rick Ross の圧倒的かつ渋い存在感のラップも実に素晴らしい。かと思えば、Offset (Migos) をフィーチャした“Worryin' Bout Me”や、Afrojack がプロデュースを手がけた“Reach”などで、いまっぽく思いっきり派手にキメているのも、それはそれで BJ the Chicago Kid らしい。
一枚のアルバムの中に、実にヴァラエティ豊かなサウンドが揃っており、トラックごとに変化する、BJ the Chicago Kid の多種多様なスタイルを十二分に堪能できる作品と言えるだろう。個人的にはプロデューサーを絞って、“Playa's Ball”のようなスタイルでアルバム一枚作っても、かなり面白いものができるのでは? とも思うが、今後、彼がどのような方向へ進むのかも楽しみだ。
大前至