ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. TechnoByobu ──「攻殻機動隊」テクノ屏風、特典は士郎正宗書き下ろしステッカー
  2. Nondi_ - Nondi... | ノンディ
  3. 真舟とわ - 海を抱いて眠る | Towa Mafune
  4. 別冊ele-king J-PUNK/NEW WAVE-革命の記憶
  5. Leila Bordreuil + Kali Malone - Music for Intersecting Planes | レイラ・ボルドルイユ、カリ・マローン
  6. Interview with Tomoro Taguchi パンクって……何をやったらいいかわからない人、若い人たちにヒントと引き金を与えてくれた音楽であり、考えさせる音でしたね。
  7. Jane-B ──METAFIVEなどで知られるゴンドウトモヒコ、その“別人格”ジェンビーがアルバムを発表
  8. 別冊ele-king 音楽が世界を変える──プロテスト・ミュージック・スペシャル
  9. MODE ——来る6月、Moinが初来日ライヴを披露することが決定
  10. Laraaji × Oneohtrix Point Never ──ララージがワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの来日公演に出演
  11. DADDY G(MASSIVE ATTACK) & DON LETTS ——パンキー・レゲエ・パーティのレジェンド、ドン・レッツとマッシヴ・アタックのダディ・Gが揃って来日ツアー
  12. Columns Introduction to P-VINE CLASSICS 50
  13. heykazma ──主催パーティ〈yuu.ten〉と月見ル君想フによる企画「もぎゅるんぱ!」が開催
  14. Ego Ella May - Good Intentions | エゴ・エラ・メイ
  15. Columns 3月のジャズ Jazz in March 2026
  16. Lee "Scratch" Perry & Mouse on Mars ──リー・スクラッチ・ペリーとマウス・オン・マーズによる共作が登場
  17. butaji - Thoughts of You
  18. Columns 「ハウスは、ディスコの復讐なんだよ」 ──フランキー・ナックルズの功績、そしてハウス・ミュージックは文化をいかに変えたか  | R.I.P. Frankie Knuckles
  19. interview with Autechre 来日したオウテカ──カラオケと日本、ハイパーポップとリイシュー作品、AI等々について話す
  20. interview with Kelly Lee Owens ケリー・リー・オーウェンスがダンスフロアの多幸感を追求する理由

Home >  Reviews >  Album Reviews > Ellen Arkbro- Chords

Ellen Arkbro

DroneMinimal

Ellen Arkbro

Chords

Subtext

Bandcamp Tower HMV Amazon iTunes

デンシノオト   Sep 02,2019 UP

 これはドローンのハードコアとでもいうべきアルバムだ。静謐だが硬質。しかしまったく軟弱ではない。サウンドのコアというべき音が選び抜かれ、そして持続する。いわば21世紀的なミニマリズムの追求とでもいうべき楽曲たち。そう、エレン・アークブロの2年ぶりのアルバムのことである。

 エレン・アークブロ(Ellen Arkbro)は、スウェーデンはストックホルム出身のサウンドアーティスト/作曲家/パフォーマーである。彼女は主に楽器のドローンを基調とする音楽作品・楽曲を制作し、エンプティセットのアルバムなどで知られる〈Subtext〉からアルバム『For Organ And Brass』(2017)をリリースしている。パイプオルガン、コンピューター、ギターなどを演奏するマルチプレイヤーでもある。

 2017年のアルバム『For Organ And Brass』は名前のとおりオルガンと管楽器によるドローン作品だった。ミニマルな音階の変化も作曲され、牧歌的な雰囲気を醸し出していた。しかし決して軟弱な楽曲ではない。一切の余剰と雑味を排除したような音響は、楽器の特性の本質を抽出したような響きを放っており、聴覚の遠近法が拡張するような感覚を得ることができたのだ。ラ・モンテ・ヤングから影響を受けているということも納得の出来であった。

 前作から2年の歳月をかけてリリースされた新作アルバム『CHORDS』は、音楽の痕跡をさらに極限までミニマルに削ぎ落とした長尺のドローン/ミニマルな楽曲が2曲収録されている。今回、用いられた楽器はオルガンとギターのみで、それぞれの楽曲を聴くことができる。おそらくアルバム名どおり「コード」をテーマにしているのだろうが、2曲とも単に和音を演奏しているだけのような安易な真似はしていない。そうではなくて「コード」そのものを解体するような音響を作曲/構築していた。
 選び抜かれたトーンで構築されたドローン/楽曲は、前作に微かに残存していたモダン・クラシカルなムードも消し去られ、オルガンとギターの音響のコアを抽出したようなミニマルアート的な音響作品に仕上がっていた。

 1曲め“CHORDS for organ ”はオルガンをノイズ生成装置のように用いる。倍音も控えめであり、あらゆる感傷を排したオルガンが発するハードコアな持続音が鳴らされていく。聴き込んでいくにつれ響きのテクスチャーに耳が敏感になる。それゆえ不意に音が変化するときの響きの変化が耳に鮮烈な驚きを与えてくれもするのだ。
 2曲め“CHORDS for guitar”はギターのための楽曲だが、ここでもコードは分散和音的に解体される。“CHORDS for organ”とは異なり、ギター特有の豊かな倍音も鳴り響いており、その結果、分解されたコードのむこうに、透明なカーテンのような別の音の集合体が聴き取ることができた。この曲はそんなギターの音が17分弱ほど持続し反復する。時間の融解、分解、拡張。反復の極限としての持続とでもいうべきか。

 現代のドローン/エクスペリメンタル・シーンの重要作家カリ・マローン、サラ・ダヴァチー(Sarah Davachi)、エミリー・A・スプレイグ(Emily A. Sprague)、カテリーナ・バルビエリ(Caterina Barbieri)、フェリシア・アトキンソン(Felicia Atkinson)らは今年、揃って傑作アルバムをリリースしたが、どれも「時が溶けるような持続を持ちながらも、それでいて音じたいは明晰でもある」という極めて現代的な音響作品であった。
 この『CHORDS』も同様である。しかも彼女の音はそのなかでも、もっともミニマルな仕上がりだ。あまりにミニマルなドローンは苦手という方も、ぜひいちど雑念を払いのけるように、これらのサウンドに耳を全開にして、いわば無になって本作を聴いて(摂取?)してほしい。音の快楽が拡張するような新しい聴取体験が生まれるのではないかと思う。

デンシノオト