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爆風のような強靭なノイズ・リフと地響きのような重厚なベース。このふたつが絡み合うことで生成するサウンドは、聴き手の感覚に、あらゆるものが消失したゼロ地点を想起させる。あらゆる知覚が爆音とともに一瞬の光の最中、消失してしまうような感覚。それは廃墟へと至る直前のフラッシュである。もしかするとこれは死の欲動に近いものかもしれない。
冷たいコンクリートのようなエンプティセットのサウンドには、不思議とそのような光と死の感覚が横溢している。つまり、とてもヘビーで、しかし快楽的なノイズの反復と逸脱が、この新作『ボーダーズ』には横溢しているのだ。
ノイズによる不安定かつ硬質かつ重厚なサウンドのリフによってトラックを構成し、聴き手の聴覚に強靭に刺激を与えること。ラディアンの新作『オン・ダーク・サイレント・オフ』が、音響的に処理されたリフを導入した(ポスト)ロックの現在とするならば、この エンプティセットの新作はノイズ・リフの刺激によって知覚を支配するような電子の(アフター)ロックだ。そのふたつのバンド/ユニットの追及において共通している点は、ノイズ=音響をリフなどのパターン化を通じて、ノイズの意味をもう一度、問い直している点にある。ラディアンは演奏を解体してみせる。エンプティセットは、ノイズ/パターンを一瞬の光のように炸裂してみせる。加えてベースの存在感が、彼らの音楽がベース・ミュージックへと至るブリストルのクラブ・ミュージックをルーツに持っていることを象徴している。
そう考えるとエンプティセットの新作が、ラディアンと同じく〈スリル・ジョッキー〉からリリースされたことは、やはり象徴的な出来事に思える。〈サブテクスト〉、〈ラスター・ノートン〉、そして〈スリル・ジョッキー〉。いっけんブリストルの轟音電子ノイズ・ユニットの行き着く先としては意外のように思えるが、しかし〈スリル・ジョッキー〉は、ザ・ボディのアルバムもリリースしており、いわゆるシカゴ音響派(今さらの名称だが)的な音楽性のみなずらず、パンク以降のロックを追及しているレーベルなのだから必然といえよう。
昨年リリースされたラディアンの『オン・ダーク・サイレント・オフ』が、音響派以降におけるロックの現在を追及した音楽であるとするならば、このエンプティセットの本作は、電子音響以降のロックの現在を追及している。まさしく2010年代的なインダトリーなサウンドを象徴するユニットであり、アルバムだ。前作『リキュア』から足掛け4年、エンプティセットは、確実に進化を遂げている。
デンシノオト