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大前至 Jan 28,2019 UP
現在、ハワイを拠点に活動しているシンゴ2が、年末から年始にかけて2枚のアルバムを立て続けに発表した。まず、昨年12月25日にリリースされたのが、ソース81が全曲プロデュースを務め、シンゴ2が全編英語でラップしたコラボレーション・アルバム『S8102』で、この作品のBandcampのページ上にも記載された「キャプテンS81と副操縦士S02によるS8102号は、冒険心に満ちた乗組員達と共に宇宙空間に飛び出した~」で始まるテキストが物語るように、壮大なスペースオペラが全12曲の中でコンセプチュアルに繰り広げられていく。プロデューサー/DJとして活動する一方で、自らのソロ名義やグルーヴマン・スポットとのユニットである77カラット・ゴールドなど多方面で活躍しているソース81だが、本作でも彼特有のエレクトリックかつオーガニックなファンク・サウンドが様々なヴァリエーションで展開している。そして、ソース81のもうひとつの持ち味でもある歌声も絶妙なスパイスとして機能し、さらにギターなどの生音やスクラッチも盛り込みながら構築されたスペーシーな空間のなかで、シンゴ2が縦横無尽にライムで飛び回る様(さま)は実に痛快だ。前半部分の見事にまとまった流れも素晴らしいが、個人的な好みで言えば中盤の“Sponge Monsters”のどこか2000年代のウェストコースト・アンダーグラウンドを彷彿させるグルーヴ感や、“Star Dance”でのPファンクにも通じるヘヴィーなサウンドに強く惹かれる。彼らふたりの相性の良さは疑いようがなく、今回限りのプロジェクトではなく、このコンビネーションでの楽曲をもっと聴いてみたいと思うのは筆者だけではないだろう。
続いて、今年1月11日にリリースされたのが、現在、シンゴ2のライヴDJも務めているスピン・マスターA-1とのコラボレーションによる、日本語ラップのみで構成されたアルバム『246911』(=西向く士(さむらい))だ。アルバムのタイトルおよびジャケット・カヴァーからも分かるように、こちらは完全に“和”で統一されており、スピン・マスターA-1がプロデュースを手がけたトラックにも琴や尺八、鼓など和楽器が大胆にサンプリングされるなど、コンセプチュアルという意味では『S8102』よりもさらに濃い作品に仕上がっている。とは言え、収録されているトラックはただ単に和楽器を取り入れられただけではなく、アンダーグラウンドなテイストのものもあれば、トラップに通じるようなスタイルもあったり、実にバラエティに富んでいる。そんなトラックに乗って、シンゴ2は自らのストーリーテラーとしての才能を遺憾無く発揮しており、なかでも『まんが日本昔ばなし』的なおとぎ話が展開される“Tanuki / 狸”などは、その真骨頂とも言えるだろう。なお、スピン・マスターA-1の“和”ビートおよびターンテーブリストとしての一面も持つ彼のスクラッチをより濃密に堪能したい人には、本作リリースの10日後に発表されたインスト・アルバム『246911 Instrumentals』もお薦め。
ちなみにシンゴ2は《A Tribute To Nujabes US Tour 2019》と題した全米14都市を巡るツアーを今年春に予定しているが、ヌジャベスはJ・ディラとともに Spotify でも注目のジャンルであるローファイ・ヒップホップの生みの親とも言われており、ヌジャベスからの繋がりでシンゴ2を知った若い海外のリスナーも多いという。そんな新たなファンにとっても今回の2作品『S8102』と『246911』は刺激的に響く作品に違いない。
大前至