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Tyondai Braxton

Experimental

Tyondai Braxton

Oranged Out E.P

Nonesuch/ビート

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小林拓音   Aug 26,2016 UP

 2000年代のバトルズ、すなわちタイヨンダイ・ブラクストンが在籍していた頃のバトルズは、リズムの面でもテクスチャーの面でも、そして何よりバンドであるということの最大の武器であるアンサンブルにおいても、あの時代に唯一、世界に対して戦争を吹っかけていたバンドだったのではないかと思う。当時、グライムやダブステップの強度に太刀打ちできるロック・バンドがどれだけいただろうか。かれらのアイデアにどれほどユーモラスな要素が垣間見られたとしても、リスナーはそれを「いま」という状況のなかでどこまでもシリアスに受け止めざるをえない――バトルズはそういう強制力を持つバンドだった。

 ミニマル・ミュージックを経て、ファンクを経て、パンクやハードコアを経て、クラブ・ミュージックを経て、ポスト・ロックを経た後の世界で、ロックという文脈のなかで何ができるのか。様々なアイデアがほぼすべて出し尽くされてしまった時代に、ロックという文脈のなかで何をすべきなのか。バトルズはそういう「いま」鳴らされるべきサウンドに極めて意識的なバンドだったし、そしてそれを実行する技術があった(いまさらわざわざ言及する必要はないかもしれないが、バトルズは、各々長いキャリアを積んだメンバーが一堂に会したいわゆる「スーパー・バンド」である)。

 そのエクスペリメンタリズムの中核を担っていたのがタイヨンダイ・ブラクストンであったのは間違いない。1作目の『History That Has No Effect』(2002年)やパーツ&レイバーとのスプリット『Rise, Rise, Rise』(2003年)などのタイヨンダイの初期作品を聴くと、まさに彼の音楽的欲動こそがバトルズというバンド全体の「コミュニズム」(と、共同作業のことをあえてそう呼んでみる)を突き動かしていたのだろうと思えてくるし、実際、彼が脱退した後のバトルズはかつて自らが担っていた戦争性・状況性から背を向け、ひたすらジャム・バンドとしての成熟を目指しているように聴こえる。

 バトルズ在籍中に発表された2作目『Central Market』(2009年)はストラヴィンスキーなどに触発され、現代音楽とポップとの共存を見事に達成してみせた意欲作ではあったが、いまだバトルズの昂奮冷めやらぬ時節に鳴らされたそのオーケストラ・サウンドは、聴き手に「なぜいまこれなのか?」という疑問を生じさせるものでもあった。徹底的に作り込まれた細部は確かに耳の肥えたリスナーたちの想像力を強く刺戟するものではあったが、全体としてはロック・ミュージシャンがオーケストラルなクラシックを導入したときの「あちゃー」という感覚の拭えないアルバムでもあった(タイヨンダイ本人は自身がロック・ミュージシャンであるという意識など微塵も持ち合わせていなかっただろうが)。

 だから3作目『HIVE1』(2015年)でのミュジーク・コンクレートへの軌道修正は正解だったと思う。おそらくはフィリップ・グラスとの交流が転換点となったのだろう。打楽器とモジュラー・シンセによって織りなされる最先端のリズムとテクスチャーは、2015年のタイヨンダイ・ブラクストンがソロ・アーティストとして表現しうる、そのすべてがぶち込まれた作品だった。

 そして、本作である。このEPは一言で言ってしまえば、『HIVE1』の延長である。だがそれはアルバムの単なる焼き直しではない。ここには、『HIVE1』の先へ突入しようというタイヨンダイの音楽的欲動が明確に表れ出ている。細かく刻まれたサンプル・ヴォイスに電子音が絡みつく "Oranged Out" は、タイヨンダイ・ブラクストンという音楽家のアイデンティティの更新を宣言しているかのようだし、規則的なビートの上を泳ぐシンセが印象的な "Hooper Delay"、シンセのみで白昼夢を演出してみせる小品 "Fifesine"、日本盤『HIVE1』にボーナス・トラックとして収録されていた "Phono Pastoral"、打楽器の躍動性にそのテクスチャーとしての可能性をもぶち込んだ "Greencrop" と、どの曲も実験的でありながらどこかエロティックでもある。この官能性は『HIVE1』にはなかったものだ。それに、銃規制団体を支援するという本作の制作目的も、いまの合衆国の状況を鑑みると非常にタイムリーである。タイヨンダイはこの2016年に、かつてとは異なる手法で「いま」という時代や状況に応答しようとしている。


 こんなことを言ってもしかたがないのだけれど、本作を聴くとやっぱりどうしても、いまのこのタイヨンダイがまたあの3人とやったらどうなるのだろう、と思わずにはいられない。本作のような官能的エクスペリメンタリズムが、あの圧倒的なバンド・サウンドと共存することができたら……本作はそんな夢想と余韻を与えてくれるEPである。

小林拓音