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Melt Yourself Down

Melt Yourself Down

Last Evenings on Earth

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AfrobeatJazzPost-Punk

The Comet is Coming

The Comet is Coming

Channel the Spirits

Leaf/Pヴァイン

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Sun RaPsychedelic RockJazz Rock

文:岩佐浩樹   Jul 22,2016 UP

 6月は丸々ベルリンに行っていたのですが行きの飛行機が途中で欠航してしまい、結局成田~アブダビ~ローマ~ベルリンと4つの空港を経由してドイツにたどり着いたところ当時フランスで開催中だったユーロ(サッカー)2016に当たり、首都ベルリンでは随所に各国のナショナル・フラッグがはためいておりました。自分はトルコ対クロアチア戦があった日にうっかりクーダムという目抜き通りに行ってしまい、どちらかの国旗をたなびかせてクラクションを鳴らしながら暴走する車が果てしなく続く(どこにもドイツが含まれていないのに何だこの盛り上がりは)という頭がおかしくなりそうな光景のなかで、英国でMelt Yourself Downがデビューしたときの「57年のカイロ、72年のケルン、78年のニューヨーク、そして2013年のロンドン」というキーワードと、彼らの音を思い出していた。

 2013年に自身のバンド名を冠したデビュー盤『Melt Yourself Down』を初めて聴いたとき、メキシコのテクノ音楽集団、Nortec Collectiveとも共通する妙な高揚感が沸き上がってきた。音はたしかに間近で鳴っているのに若干ずれてやって来るというか、例えば不意にどこかから聞こえてきた祭囃子が意味不明に格好いいぞ、といった類の感覚に近く、音の出所を探しながら耳から体が動いてしまうような音楽である。耳を塞いでも入って来てしまう騒音や、興奮して旗を振り回す人と警察が小競り合いをしているような喧騒を目の前にしたりすると対抗して自然と脳内再生されてしまう音楽、というものからはどこかしら似た匂いがする。

 最近発表された彼らの新作『Last Evenings on Earth』では前作に引き続き、それぞれ独特な「声」を持ったヴォーカル・サックス・パーカッション・ドラム・ベースが世のなかのあらゆる喧騒に拮抗している。踊りだしたくなる、というよりは脚が独りでに歩きはじめてしまいそうになるビートが痛快な1曲目“Dot to Dot”で始まるこのアルバムにおける楽隊のなかでもとくにサックスの雄弁さは甚だしく、8曲目の“Body Parts”などは吹くのを止めて喋ったほうが早いのでは、というくらいの人語ぶりであるし(何を言ってるのかはわからないけれど何となく言いたいことはわかる、とでも言いますか)、5曲目の“Jump the Fire”に至ってはまるで超アグレッシヴな電子チンドン屋のようである。

 そのMelt Yourself Downと在籍メンバーが重複するThe Comet is Comingのデビューアルバム『Channel the Spirits』の曲名や公式サイトの文章を見たりすると(たしかにMelt Yourself Downとも違ったヴァーチャルな空間で鳴っているかのような音ではあるけれど)、こういう「スピリチュアルなコンセプト」みたいなのはサン・ラーやアリス・コルトレーンの頃から大して変わってないのか? と思いそうになりますが、実際に音を聴けばこれが紛れもなくその後の数十年を経過した現在の音楽である事がわかる。例えば3曲目の“Journey through the Asteroid Belt”の、ほとんど手癖で仕上げたのではないかとすら思える進行の素晴らしさは、先行する楽曲の系譜を抜きにしては捉えられない(自分が真っ先に思い出したのはラテン・プレイボーイズ)。

 マット・デイモンが(不承不承ながら)火星ひとりぼっちで80年代ディスコ・ミュージックを聴き倒していた映画『オデッセイ』を思い起こしてみても、宇宙船の外に投げ出された人間は音を聴いている場合ではないし(そもそも空気が無い)、アクシデントで音楽が不意に止んでしまったとき、そこに静寂を感じている余裕があるのかどうかも怪しい。にも拘らずそんなギリギリ緊急事態発生中の境界線(の隣)をすっとぼけた顔をして横切って行く楽隊が居るとすれば、それは彼らのようなバンドなのかも知れない。ベルリン滞在中「英国、EUを離脱」などというニュースが入ってくるなか、そんなことはお構いなしにドイツが得点するたび住んでいたアパート(ベルリンのゲイエリアど真ん中)の至近距離で花火が炸裂するので自分らは怯えていたものでしたが、和むかどうかは兎も角として各人がやりたいことをやりたいようにやっているだけである。

 さて日本人としてはこの音を夏の盆踊り会場で聴きたい。ライヴ会場でステージに正対して拝聴、という感じではないし、かと言ってクラブで踊る音としてはスペースが足らないかもしれず(何と言うか、聴いている場所からふらふらどこかへ移動したくなる音なのだ)、何より櫓の上で生演奏をしている周りをぐるぐると廻りながらいつでも離脱可能な気楽さが欲しい。そんな盆踊りをやってくれる自治会も無いでしょうが、こういうのでも喜んでくれるご先祖様(溶解人間たち)が何処かに隠れているかも知れません。

文:岩佐浩樹