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ダニエル・クオン

Indie PopPsychedelic

ダニエル・クオン

ノーツ

Pヴァイン

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増村和彦松村正人   Nov 30,2015 UP
12

呪われたようにポップ 松村正人

 さきほど『ele-king』本誌にジム・オルークの原稿を書き終えた勢いというか熱さめぬままというか惰性というか、そういうもののまま、ジョン・フェイヒィの“Requiem For Molly”を聴いていたとき、それとアイヴズの交響曲4番と異同にあらためて慄然とし、本稿でそれをもちこんだのはそこに書き漏らしたためなのだが、この傾向を、かつて私たちはジムの音楽を述べるにあたりアメリカーナと呼びならわしたものの、ことばの深いところでそのことを考えてはこなかった。不在あるいは架空のルーツといい条、語りの構造を語らないことで片手落ちになっており、これは保坂和志が『遠い触覚』でリンチ(のおもに『インランド・エンパイア』)を語るさいのフィクションがたちあがるときの「遠さ」とも重なるが、このことについては別稿に譲るとして、私たちは音楽にドリームないしドリーミィの単語を被せるときその形容詞を甘くみすぎている。

 もっとも私は夢をほとんど見ないし、見たとしても脈絡のないものばかりなので実感はないが世の中にはどうも楽しい夢もあるらしい。願うだけであるものが手に入る万能感、おしよせる多幸感──それを音楽にこじつけると、いや、音楽はいまや思うことのすべてをだれもがひとりでたやすく実現できる、まさに夢の世界だが、想像できる範疇でできた音楽などとるにたらない。私はなにがいいたいかというと、夢の力学とはガタリがカフカを述べるにあたりもちだした「夢の臍」から来るもので、それはほとんど受動的な万能感といえるほどのある種の恐慌状態を指すとものであり、万能なのは夢そのものであり見る側ではない。というと付け焼き刃のフロイト派のようであり、しかも音楽をふくむフィクション全般を語るにそれをもちいることの、ジジェクめいたあやうさももちろんあるのだけど、なんかしっくり来ないのよ、柳沢慎吾に「いい夢見ろよ」といわれるたびに、うーむとなってしまう私としては。いい夢見たことないし。

 私はシンガー・ソングライター、ダニエル・クオンを知ったのは、このレヴューを引き受けてからという、はずかしながらクオンさんヴァージンの私だが『ノーツ』には巷間のドリーム・ポップに私の抱いてきたどこか食えない感じとは似ても似つかないものをもっている。略歴そのほかは健筆な著者の別稿をご参照いただきたいが、森は生きているの岡田拓郎、増村和彦はじめ、牛山健、小林うてなといった、数年前の日本移住後、東京インディ界隈で培った人脈を投入した『ノーツ』は、私は浅学ぶりをさしひいても確実にポップ度は増した。私が空手形を切っていると思われる方もおられようが断言します、『ノーツ』以上にポップな作品がおいそれとつくれるわけがない。それほどこのアルバムは呪われたようにポップだ。作者ではなく音楽がそうなっている。

 幕開けの“fruit, not apple”の果実(リンゴではない)を囓る音のほのめかすもの、つづく“hop into the love van”でダニエル・クオンは私たちをトリップに誘い出す。飛び乗るのはラヴ・ヴァン。ケン・キージーのバスを思わせるところもあるがあれほどトリッピーではない。行く先々には見知った顔も見える。ある停留所ではポール・マッカートニー卿のまわりをパイロットとエミット・ローズをはじめ、その音楽的遺伝子を受け継いだ無数の子どもたちがとりまき、たがいのポップ・センスの捻れぶりを競い合っている、人垣をかきわけるとジョンストンのほうのダニエルと鉢合わせして意気投合しないともかぎらない。どこを切っても、口ずさめそうなほど耳なじみがいいのに、場面はくるくる展開する。飛躍するというほどではないのに、全体的には断片の集積の印象を残す。『ノーツ』の表題はそこに由来するのかもしれないが、そこにはキース・オルセンやロイ・トーマス・ベイカーといった彼の偏愛の対象だというプロデューサーの手がけた作品名がメモってあるだろう。前者はフリートウッド・マックとかフォリナー、後者となるとクイーンであり、前述のパイロットもサードはロイのプロデュースだった。これだけ見ると音楽性はさておき、先日のレヴューされたジェームス・フェラーロに通じるガジェット感があり、クオンはそれをある種の付随音楽──というと即座に映画音楽を想起される方がいるかもしれないが、私がいいたいのは部分と全体のかかわりであり、クオンの『ノーツ』は全体がすべてに先行する。ところがそれはテーマとかコンセプトとかではない。まっしろなノートがまっさきにあるのである。ソフト・ロックにせよ、ロウファイであれラウンジであれ、そこには自由に書き込む余白がある。ブライアン・メイの亡霊さえ召還可能だろう(まだ死んでないが)。フィールド録音の多様は音楽と外との流通をはかる。そうすると音楽はフェイヒィにかすかに似た歪みをともなうが、特異なソングライティング・センスは埋もれないどころか、ますます際だっていく。このような作品はバンドではなかなか難しい。ゆえに『ノーツ』は東京のアンダーグラウンドの若い住人たちにも新風を吹きこむ作品として歓迎されるにちがいない。お年を召した方のなかにはモンドを想起される御仁もおられよう。しかもメロディが中心にしっかりあるから、訴えかけるのは好事家にとどまらない。肌ざわりから、カセットを出すのもひとつの手だとも思いました。

松村正人

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