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Damon Albarn

PopRock

Damon Albarn

Everyday Robots

Parlophone/ワーナーミュージック・ジャパン

Tower HMV Amazon

ブレイディみかこ   May 09,2014 UP

 このCDのジャケットを見て、「サッド・キアヌ」(邦訳:ぼっちキアヌ)を連想したのはわたしだけだろうか。ここでわたしが言及しているのは、元祖の、フィギュアにもなったあの有名なキアヌ・リーヴスのぼっち姿である。
 さらに、背景の色がまたふるっている。英国の空の色は、一般に「灰色」と表現されるし、わたしも頻繁にその表現を使うが、実際には違う。「濡れた脱脂綿の色」と表現したのは詩人でも作家でもなくダンプ運転手のうちの連れ合いだが、たしかに英国の空はいつも白々としている。
 しかし、なんでデーモンが英国の空の片隅でぼっちキアヌになってんだろう。
 ということが気になり、どうしても気になってつい買ってしまった。

                ******

 ブラー、ゴリラズ、The Good、the Bad & the Queen、Rocket Juice & the Moonなどでの活動の加え、2本の映画音楽と2作のオペラ音楽を手がけ、アフリカで現地のミュージシャンたちとセッションし、現代音楽の作曲家とも積極的にコラボして……という彼のキャリアを見ていると、プロリフィックという言葉はこの人のためにあるようだ。昔はオアシスVSブラーなんて構図がタブロイドを騒がせた時代もあったのだが、ショービズ界のご意見番になったノエル・ギャラガーとは対照的に、デーモンはひたすら音楽を探究して来た印象がある。様々な分野の音楽を交合させるデーモンはハイブリッド・フェチでもあるが、それもそのはず、ブリットポップと“パークライフ”のデーモンは、実はこのパンクばばあと同世代だ。ポストパンク期に思春期を送った人間がハイブリッドに拘泥するのはよくわかる。

 にわかには信じがたいが、本作は彼が本人名義で出す初めてのソロ・アルバムだという。いったいどんな斬新な音が聞けることやら。と思っていると、ジャケットのヴィジュアル同様、サウンドも余白が多かった。花火が見れるかと思ってたら、アロマキャンドルが窓辺に立っていた。という感じ。メランコリックでミニマルでスリーピーだが、この眠気は夜の闇の中で襲われる睡魔ではない。白い朝の空の下でまどろんでいるような音だ。The XXがブライアン・イーノの『ラヴリー・ボーンズ』のサウンドトラックをアレンジして演奏していたら、「いや、それ僕らのほうがうまくやれるかも」とAlt-J(http://www.ele-king.net/review/album/002624/)が出て来たような感じ。と言えばいいのか。コンテンポラリーといえばコンテンポラリーだが、意図的に力を抜いたムードで先鋭的ではない。

 デーモン本人はこのアルバムの音について、「空っぽのクラブで聞こえる音」と語っている。自伝的な作品だと発言していることを鑑みれば、それは開店前のクラブのことなんだろうか。「ソロというのは、あまりに孤独」と本人は言っているが、しかしこのクラブは完全に空っぽというわけではない。Bat For Lashesのナターシャ・カーンやブライアン・イーノも彼と一緒に踊っている。そこら辺も、ハイブリッド・フェチであると同時にコラボ・フェチでもあるデーモンらしいところだ。彼はいろんな意味でソロにはなり切れないアーティストなんだろう。

              ******

 「ぼっちキアヌ」は、ハリウッド俳優が浮浪者風の気の抜けたファッションで公園に座っていたことで話題になったが、「ぼっちデーモン」はいかにもミドルクラスの中年らしい恰好をして座っている。先日、ブライトンで毎年行われているチルドレンズ・パレードという催しを見ていると、子供たちと一緒に歩いていたお父さんたちはみんなデーモンみたいな恰好をしていた(こういう行事に参加するイクメンは、だいたいミドルクラスの人だ)。アルバム中、1曲だけ全然曲調が違う“Mr Tembo”という曲があり、それは娘のために書いた歌だそうで、こういうエコほのぼのとした象さんの歌を子供のために書くというのもいかにもミドルクラスの洒落たダディがやりそうなことだ。
 そういう私生活の部分も垣間見せるので、「これまででもっとも素のデーモンが出ている」とか「もっともパーソナルでしみじみとしたアルバム」とかいうことが、だいたいこのアルバムの定評のようだ。が、わたしは全然そうは思わない。
 
 これはれっきとしたコンセプト・アルバムだろう。
 そうとしか思えないのは、わたしがこのアルバムのジャケットを初めて見た時に、サッド・キアヌのパロディーだと思って大笑いしたせいだが、アルバムの冒頭が、コメディアンのロード・バックリーのギャグのサンプリングだと知ると、いよいよこのアルバムは「ソロ」という分野のパロディ・アルバムなんじゃないかと思えて来る。
 というのも、ポストパンクで育った世代は、物寂しくてメロウな自伝的アルバムを作って、うなだれている自分の写真をジャケットに使うなどということは絶対にできない体質だからだ。
 ぼっち。というジャンルとその一般的な在り様を、ぼっち。を演じてみながら考察したアルバム。とでも言えばいいだろうか。
 いずれにせよ、そういうことを感じさせる自分自身への距離の取り方がデーモン・アルバーンという人の持ち味であり、聡明さである。
 この人は次は全然違うことをやるに違いない。

ブレイディみかこ