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三田 格   Mar 13,2013 UP

 僕の頭や体のなかではいつのまにかダンス・ミュージックと実験音楽は別々なものに分かれていた。ダンス・ミュージックに実験的なことを期待しても高が知れてるし、このところノイズ・ドローンからテクノへ鞍替えしはじめた流れを聴いていても笑っちゃうようなものが多いし......くらのすけ。アシッド・ハウスが初めてダンスフロアに注入された頃、それらはまさに実験的なものであり、ダンス・ミュージックそのものであった。どちらかではなく、不可分のものとして結びついていた。もっと以前、アート・オブ・ノイズが初めてツバキハウスに轟いたときもそうだったし、リキッド・ルームでプラスティックマンが鳴り響いたときもそれらはそのようであり続けた。アルヴァ・ノトもヤン・イエリネクもけしてベッドルームだけのものではなかった。それがいつのまにか場所と用途に応じて聴き分けるようなものになっていた。フォルダーがひとつでは済まなくなっていた。

 ......それはもっと早くからはじまっていたのかもしれないけれど、僕が「あれ」と思ったのは、昨年、シアトルの〈ファーサー〉やベルリンの〈パン〉といったレーベルを知ってからだった(後者はフリーダー・ブッツマンからNHKまで出している)。細かくいえばハード・ワックスが新設した〈ヒドゥン・ハワイ〉だったり、ダブステップから逸脱した流れもそれなりにぐちゃぐちゃとはあったものの、ミニマルやテクノといった確固たる分類のなかから一見「使えなさそー」なものが現れたという感触は(僕にとっては)久しぶりだった。なかでもリー・ギャンブルには頭を悩ませた。質感はアンディ・ストットと共通しているものの、音圧を上げる要素はほとんどなく、それこそアンディ・ストットから骨格だけを取り出してプラスティックマン仕様にしたようなものだったからである。

 元々はダンス畑ではなかったらしきギャンブルはドラムン・ベースからのサンプリングだけでつくった......にもかかわらず、どこにもその面影は残っていなかった『ディヴァージョンズ(娯楽) 1994-1996 』で話題を集め、そのコンセプトが消化されたとは言えないうちにサード・アルバム『ダッチ・トゥヴァッシャー・プルームス』へと辿り着く。テクノが勢いを持っていた時期のリッチー・ホウティンと違ってミュージック・コンクレートがグルーヴを持ったように聴こえる同作は、その通り、最初に思っていたよりもグルーヴはかなりしっかりとしていて、まるでリュック・フェラーリやフランシス・ドモンで踊っているかのような錯覚にも陥ってくる。オウテカがトッド・ドックステイダーを呼び寄せ、〈モダン・ラヴ〉がダフニー・オーラムを再発してしまうなら、なるほどこういうのもありだろう。モノレイクやポーター・リックスを輩出した〈チェイン・リアクション〉が第2章に突入したという印象もなくはない。

 ギャンブルが(このところミニマル・テクノへの参入が相次ぐ)イギリスからだとすれば、NYからはマテオ・ルツォンがヨーロッパ各地のレーベルを転々とし、4年ぶりとなるセカンド・アルバムは(なんと)ミカ・ファイニオの〈サーコ〉(電気!)からとなった。マイク・インクやフリースタイル・マンをリリースしていたこともあるとはいえ、もはやノイズ・レーベルと化していた〈サーコ〉がダンス・レコードに関心を持っていたこともそれなりに驚かされるけれど、スパークスのロン・メールみたいな風貌のマテオが『我々じゃない』と題したアルバムで解き放っているのはやはりダンス・ミュージックと実験音楽の境界に横たわる「あの一線」である。これまでにいわゆるダブ・テクノや、ときにはクールでソリッドなブレイクビーツを聴かせていたマテオはオープニングで「ドローン以後のジェフ・ミルズ」を構想し、続いてホラーじみたベーシック・チャンネルへと突入、以後、ダンス・ビートにノったり外れたりしながら、ヴォイス・サンプルを縦横に駆使し、それこそアンディ・ストット"ナム"を悪夢で包み込んだような展開へともつれ込んでいく。こんな曲でも使いこなしてしまうDJはもちろんいるんだろうけれど、そうなったらそうなったで、世界の果てで踊っているような気分になれるに違いない。「ガザ地区で盗聴された」という曲ではなるほど追い詰められたような気分は満点である。

 手法という観点を離れてもマテオの曲は不思議な安らぎを伴っていて、どちらかというと耳はまずそっちに囚われてしまう。建徳理論を確立したといわれるウィトルウィウスにちなんだらしき"ヴィトルヴィアン・ナイトメア"のような、終わりの来ない鬱屈でさえどこか心地よく、それが前衛的な手法と同居していることにはあらためて驚かされる。『我々じゃない』とはどういう意味なんだろうか。

三田 格