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Feist

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Metals

Polydor/ユニバーサル・インターナショナル

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野田 努   Dec 15,2011 UP

 MOR(middle of the road)というのは、欧米のロック系のメディアではときに軽蔑的に使われるタームだが、僕はMORが嫌いではない。以前、チルウェイヴはMORすれすれだと書いたことがあるが、MORになるならとことんなるべきだと思っている。トロ・イ・モワはなりそうで、まだなりきれていない。MORに必要とされる最低限のプロデュースがまだ行き届いていない。商品としての完成度が足りていないのだ。
 MORとは、たとえばアバ、たとえばバート・バカラック、たとえばカーペンターズ、たとえばイージー・リスニング、たとえば多くのディスコ・クラシック......と、まあ、トゲのない大人向けのポップス全般を指す。ロックだろがジャズだろうが、まずは商業音楽として求められる要素を満たし、そして適度な心地良さを誘うポップスでなければいけない。マンチェスターの中年がオアシスの歌に夢を託すのとは、ある意味正反対のニュアンスだ。
 が、DJカルチャー以降はこうした通俗性も使い方次第では思いも寄らなかった輝きを見せることが実証されている。むしろMORをジョン・レノン級のメッセージに転換してしまってこそ、真のハイブローと言えるだろう(たとえばレイヴの明け方にカーリー・サイモンをかけて、それが大受けするとか)。そういえばチルウェイヴを聴いている子たちがいまAORを探しているなんて話も聞くが、それも理にかなっている。MORはAORのもとだ。

 ファイストは、現代における、いわばMORの女王だった。歌がうまいわけではないが魅力的な声を持ち、容貌も悪くない。ジェーン・バーキンのように長髪の彼女は、スタイリッシュでエレガントなポップスを歌う。多少の捻りはあるものの、10代の頃にピーチーズとパンク・バンドをやっていたというのが信じられないほど彼女の音楽は無害で、プロデュースが行き届いていた。"マッシャブーム"や"アイ・フィール・イット・オール"や"1234"のような曲は、ふわふわの布団が似合うお上品なポップスで、人生に引っ掻き傷を残すようなものではない(だから売れたし、だからMORなのだ)。
 そういえば前作『ザ・リマインダー』が出たとき、「完全試合を果たしたピッチャーを観ているようだ」とまで『ヴィレッジ・ヴォイス』は絶賛しているのだが、まったくいい加減なものだ。良くも悪くも、そして前向きに言って、ファイストは軽い。彼女のチームメイトのゴンザレスもモッキーも、そして前作まで参加していたジェイミー・リデルも軽いほうが得意そうだし。それにファイストを聴いて、「それじゃあ」とブロークン・ソーシャル・シーン(彼女も参加しているトロントのアート・ロック・コミュニティ)に手が伸ばしているリスナーが多くいるとは思えない。

 『メタルズ』は「川とダムと湖の景色」にインスパイアされたというが、アートワークにも荒涼とした自然が描かれているし、クローザー・トラックがその情景描写となっている。彼女は、『レット・イット・ダイ』や『ザ・リマインダー』までとはまったく違った方角を向いている。100万枚以上も売れたという商業的な成功がいかに空しいことだったかを訴えているかのように、4年ぶりの4枚目のアルバムとなる『メタルズ』はアートワークが暗示するように孤独なアルバムなのだ。その点においては、ビョークにおける『ホモジェニック』に位置づけられる。が、このアルバムには流行の音への気配りはまったくないし、そのことが『メタルズ』を強いものにしている。
 アルバムの真価は6曲目の"The Circle Married The Line(円は線と結婚した)"から最後の"Get It Wrong, Get It Right(間違えて、正して)"までの7曲にある。たとえばクリスマス前の感傷的なこの季節にお似合いなのは......、"The Circle Married The Line"もそうだが、"Bittersweet Melodies(苦甘いメロディ)"も心温まるメロディを持っている。この2曲には商業音楽に求められる要素すべてを持っている上に、さらに何かを訴えているようだ。とくに"The Circle Married The Line"などは、険しい山道を登り切って360度見渡せるような場所にたどり着いたかのような、胸の透くような感動がある。目の前に地平線が見えるようなワクワクした感覚があるのだ。『NME』が彼女のことを「ミステリー作家」と形容しているように、説明をはぶいた歌詞も『メタルズ』を特徴づけているが、しかしヴォーカルには感情がともなっているので気持ちはなんとか伝わる。
 最後の3曲の流れも印象的だ。フォーキーな"Cicadas and Gulls(セミとカモメ)"で彼女は、孤独を楽しんでいる。同じようにフォーキーな"Comfort Me(慰めて)"で彼女は、他人を微妙に拒んでいる。そしてクローザー・トラックの"Get It Wrong, Get It Right"では、あたかも日本の短歌のような象徴的な言葉が繰り返され、自然と心の描写が美しいメロディとともに展開される。
 そんなわけで35歳のレスリー・ファイストはMOR王国から脱したと僕は思っている。もっとも『ザ・リマインダー』を「パーフェクト・ゲーム」だと評価した人を落胆させるレヴェルにまでは至っていないのは、結局のところ彼女の音楽はあまりにも上品なのだ。これ、貧乏人のひがみじゃないよ。前向きな意味で、クリスマス前の素敵な夜にどうぞと言っている。

野田 努