ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Toru Hashimoto 橋本徹がブラジリアン&ブリージンなコンピに込めた渋谷系の哲学 | 『Free Soul』&『Cafe Apres-midi』最新作をめぐって
  2. ele-king vol.37 ボーズ・オブ・カナダ大研究/サイケ&ドリーミー特集
  3. The Durutti Column - Renascent | ザ・ドゥルッティ・コラム
  4. interview with Tyondai Braxton ひさびさの新作を出した実験音楽家タイヨンダイ・ブラクストン
  5. Phew, Danielle De Picciotto - Paper Masks
  6. Juan Atkins ──デトロイト・テクノの創始者、ホアン・アトキンスが日韓ツアー、来日は13年ぶり
  7. Roy Montgomery & Martha Skye Murphy - Nebular | ロイ・モンゴメリー、マーサ・スカイ・マーフィー
  8. 自転車日記 - デヴィッド・バーン 著 / 東辻賢治郎 訳
  9. Columns スクエアプッシャーはいつだってテクノロジーの限界を超えていく ――7月20日(月祝)@昭和音楽大学、特別講義のレポート
  10. Michiro Endo ──遠藤ミチロウの9タイトルが配信解禁、アナログ化も
  11. Columns ジャズ・ピアニスト板橋文夫の代表作「渡良瀬」がたどった物語
  12. Cornelius ——コーネリアスがアルバム『Refractions』のリリースと新曲“Aeons”の配信開始を発表
  13. Yoshio Otani and Takuya Nakamura ──大谷能生と中村拓哉による共著『B2B ジャズ⇄ラップ往復書簡』が刊行
  14. interview with Dennis Harvey and Lars Lovén アイルランドのフォーク・シーンを追った映画『ケルト・ユートピア』
  15. R.I.P. Sensational (Colin Julius Bobb) センセーショナルとの思い出
  16. THE CROWD──ele-king presents HIP HOP JAPAN
  17. Various - Peace Anthems | レッド・フック・レコーズ
  18. Félicia Atkinson - Sans Visage | フェリシア・アトキンソン
  19. AMBIENT KYOTO ──2027年春、レイ・ハラカミの展示が決定
  20. 野田 努

Home >  Reviews >  Album Reviews > Rei Harakami- Red Curb

Rei Harakami

Rei Harakami

Red Curb

Sublime Records

Amazon iTunes

野田 努 Aug 02,2011 UP
E王

 「ケンイシイがデモテープのなかからすごい才能を見つけた」と、〈サブライム・レコード〉の山崎マナブから連絡をもらった。とにかくこんなことは初めてだから聴いて欲しいと言われ、そして聴いた。それから数週間後にレイ・ハラカミと電話で話した。初めての電話にしては長い会話だったことをとてもよく覚えている。あれはたしか1997年のことだったから、彼はあのとき26歳だったのか。
 レイ・ハラカミは、まるで彗星だった。多くの耳がテクノ・シーンに変化を要求していた時代に突然のようにやって来たひとりだった。デビュー当時のハラカミの音楽は紛れもなくダンス・ミュージックのスタイルを用いているが、しかしそれは明け方まで続く快楽主義に限定されたものでもなかった。彼の音楽はダンス・ミュージックと括るには躊躇してしまうほど、魅力たっぷりのメロディやハーモニー、それから少しばかりユーモアの効いた展開というものがあった。初期の頃はデトロイティッシュなテクノ・ミュージックにおける新しい才能として紹介され、あるいはUKのプラッドやなんかともっとも近い感性を持っているという説明をされたものだったが、彼は最初から"ハラカミ音"とでも言うべき彼自身の音色やクセというものを持っていた。それは甘く、儚く、美しいトーンであり、そしてまた子供の玩具が奏でるようなブレイクビートに特徴づけられていた。

 1999年のセカンド・アルバム『オパキュ(Opa*q )』は、あるひとつの時代のこの国のテクノ・シーンにおけるマスターピースだが、その翌年リリースされた「Blind/Swap EP」をふくめて、それはハラカミにとってテクノというひとつのムーヴメントなりスタイルを彼なりに意識していた最後の作品でもあった。2001年にリリースされた3枚目のアルバムとなる『レッド・カーブ』は、やりたいようにやったというか、彼がダンスフロアのムードにとらわれずに作った最初の野心作で、そして結果を言えば、もっとも大衆受けした4年後の『ラスト』への伏線となったアルバムであり、彼の音楽がポップのメインストリームに突き刺さる契機をもたらした作品でもあった。

 レイ・ハラカミは取材でもよく喋る人だったが、酒を飲むとさらによく喋る人だった。彼と最後に会ったのは、取材で向井秀徳との対談をお願いしたときだったが、そのときも笹塚の居酒屋の座敷で、よく飲み、くだらない冗談を交えながらよく言葉を発していた。よく知られるように、彼は彼自身の気構えや反骨精神というものをしっかり持っていた人だったけれど、基本的にはおおらかな人だったというのが僕の印象だ。
 彼の作品すべてに言えることだが、レイ・ハラカミの音楽にはバッド・ヴァイブというものがない。彼の代表作のひとつに"Joy"という曲があるように、レイ・ハラカミにとって喜びこそが音楽の原動力だったのではないかと思っている(それがゆえに彼は実験が目的と化したIDMと同一視されることを強固に拒んだ)。『レッド・カーブ』は彼が愛したロバート・ワイアットのように美しい作品だが、思い詰めた悲しみというものはない。彼の音楽は、いつ聴いても驚くほど澄み渡っている。そして、緻密なアレンジがされているというのに、ほろ酔い加減のアンビエントがあまりにも気持ちよさそうに小躍りしているようでもある。レイ・ハラカミ、レスト・イン・ピース。

野田 努