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三田 格 Apr 27,2011 UP

 この快楽。濃厚な音の快楽。昨年末のシゲト『フル・サークル』は予兆に過ぎなかったのか、短い曲の連なりで構成された『アウトマインド』は久々に100%スモーカーズ・デライトを狙った作品であり、追求されるイメージはたったの一種類。その反復強化。どこを取ってもキラビやかな光のなかを歩むバレアリック・ブレイクビーツの波は西海岸で起きているドローンやチルウェイヴの変化とも足並みを揃え、DJシャドウによる翳りあるメランコリーをアーカイヴの一部へと封じ込めかねない。いま、ここには光が溢れている。四方八方から光が降ってくる。
 今年、もっとも注目されているカセット・レーベル、〈リーヴィング〉の主催者がその主役で(やはり〈リーヴィング〉からのリリースとなったサン・アローとのジョイント・ライヴに続き)初のスタジオ・ソロ作はフライング・ロータスのレーベルから。「ホコリと光のすごいごちそう」に溢れかえるオープニング"ロス・アンジェルス・イズ・ビューティフル"から有無を言わせず引きずり込まれ、陽気なフライング・ロータスと陽気なベーシック・チャンネルが交互に、あるいは、混合しあって光のなかを引きずり回される。中盤に入ってフライング・ロータスをフィーチャーした"グループ・ティー"で初めてメランコリックな迂回をしばし経験させられるものの、無限大に与えられるユーフォリアのイメージは最後まで揺るぐことがなく、ひと時も快楽的な音楽であることをやめることはない(サン・エレクトリックからドリームフィッシュに変わった程度というか)。
 これはもう、気持ちEとしか書きたくない。ニキ・ランダをフィーチャーした"フロアー・ミュージック"はタイトルを裏切るようにノン・ビートのアンビエント・ドローンで、マシューデイヴィッドがここ数年のアンダーグラウンド・カレントを総合しながらひとつのイメージにまとめていったことが簡単に推し量れる。すべてはここに向かっていたでしょうといわんばかり。最後にメドレー形式で配置された"ノー・ニード・トゥ・ウォリー/ミーン・トゥ・マッチ"で昇天できなければ、もう一度、再生ボタンを押してしまうだけである(つまり廃人コース)、

 RZAとエイフェックス・ツインに影響を受けたという18歳のインフィニティロックが昼間は学生、夜はグリッチ・ホップのプロデューサーと化してつくり上げたファースト・アルバムも同じ傾向に足を踏み入れようとしているアルバムで、手習いの感はまだ拭えないものも、完成度ということでは申し分ない。なるほど『アンビエント・ワークス』をブレイクビーツで下支えしたような"テンチ・サイティングス(天地目撃?)"や"キルン"、タイトルとは裏腹に天国的なイメージを掻き立てる"ガンス・オブ・キングストン"など、あっという間にどこかに連れ去ってくれる曲は多い。ヒンズー語が理解できないインド系2世か3世にあたるそうだけど、ジュンパ・ラヒリのような屈折もなく、文字通り年齢にあった感性の産物といえる。
 『ミュージック・フォー・プライモーディアル・リコレクション』は、1年ほど前に紹介したスフィアン・スティーヴンスのレーベルからライブラリーの体裁でリリースされたローウェル・ブラームスと同じシリーズの14作目にあたるもので、同時にリリースされたレブ・レイズのセカンド・アルバム『ミュージック・フォー・トラブルド・マシーナリー』も同じくアンダーグラウンド・ヒップホップの変り種。上記2作に比してダイナミックで何をやろうとしているのかすぐにはわからない迷宮性が持ち味といえる(PS 1年前にローウェル・ブラームスってまさかスフィアン・スティーヴンスの変名じゃないだろうなと内心では思いつつ書いていたりしたのだけれど、実は母親の再婚相手で、初めての出会いはスティーヴンスが1歳未満のときだったとか。アスマティック・キティ=喘息猫はふたりが共同で運営するレーベルであり、スティーヴンスの勧めで初めて録音したのが『ミュージック・フォー・インソムニア』だったそうです。ちなみにドミューンやヴィンセントラジオでオン・エアしたなかでは、いまのところもっともリアクションが高く、買いましたよといわれたレコードである)。

 すべてのタイトルに『ミュージック・フォー~』という決まり文句が付けられたライブラリー・カタログ・ミュージック・シリーズはほかにも魅力的なリリースが多い。全作を聴いたわけではないけれど(そんなことするのは岡村詩野だけ!)、最近のものでは12番のB・ラン3『ミュージック・フォー・ハンティング・アンド・マッピング』、少し前のものだとインストゥルメンツ・オブ・サイエンス&テクノロジーが出色の出来で、とくに後者はリチャード・スイフツの名義でふだんは普通にロック・ミュージックを演奏している人なのに、この名義に変わると底が抜けてしまうのか、予想も付かない実験主義に走り出す異才。セカンド・アルバムにあたる『ミュージック・フォー・パラダイス・アーマー』は、前作ではまだ少しは残っていた楽曲性もあらかた砕け散って、部分的には坂本龍一『B2ユニット』を思わせるキッカイな内容に。

三田 格