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Group Inerane

Group Inerane

Guitars From Agadez Vol. 3

Sublime Frequencies

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野田 努   Oct 18,2010 UP

 グループ・イネラネ......西アフリカのサハラ砂漠南のニジェールの、サハラ砂漠の遊牧民トゥアレグ族のロック・バンドによる最新アルバムである。ターバンを巻いた砂漠のロック・バンドで、彼らがストラトキャスターを抱えているだけでも、まあ、絵になる。ちなみに『ギターズ・フロム・アガデス』の"アガデス"とはこんな光景のところである。
 『ギターズ・フロム・アガデス』の第一作目は2007年にリリースされている(それは現在、1万円を超える高値が付けられている)。レーベルはこの10年、タイのロックからベトナムのフォーク、シリアやマリ、リビアやサヘルの最新の音楽など、東南アジアから西アフリカの音をかき集めては発表している、サン・シティ・ガールのアラン・ビショップとヒシャム・マイェットによる〈サブライム・フリーケンシーズ〉。同レーベルから出ているシリアのカントリー・フォーク集に関しては三田格が本サイトで紹介しているが、そう、USでは〈サブライム・フリーケンシーズ〉、UKでは〈オネスト・ジョン〉や〈ストラト〉とかいろいろ、ゼロ年代以降の欧米ではエチオピアのジャズや南アフリカのハウスやシャンガーン・エレクトロ、バゾンバ族のダンス・ミュージックなど、アフリカ音楽への新たな関心が高まっていて(それもインディ・ロック、クラブ系、ヒップホップ系からだ)、トゥアレグ族による砂漠の音楽シーンも熱心に紹介されている。世界的に有名なのは日本盤も出ているティナリウェンで(とくに2004年の『アマン・イマン〜水こそ生命』はよく知られている)、グループ・イネレンも評価の高いバンドのひとつである。

 さて、そこで......まずは、デトロイトのことを何も知らずに"ストリングス・オブ・ライフ"を聴いたときのことを思い出してみよう。そして彼らの背景を思わず、音だけに集中してみる......というのは、『タイニー・ミックス・テープ』のレヴュワーが「背景に囚われずにこれを聴け」とうるさいからである。
 M.I.A.問題の反動だ。われわれが思っている以上に、USの音楽業界はテロリストを父に持つという神話性に振り回されたのかもしれない。まあ、それを思えば『ニューヨーク・タイムス』のスキャンダルな記事も理解できなくもない。たしかに......、もしマッド・マイクがIT企業の役員の息子だったとしても、"ハイテック・ジャズ"は同じように多くのクラバーを踊らせたに違いないが、しかし背景を気にしすぎるなというのもある意味ナンセンスだ。音楽は環境に磨かれるわけだし、知ることによってわれわれは理解を深めることができる。そしてそれは踊ることとはまた違った喜びになりうる。ともあれ、『タイニー・ミックス・テープ』のレヴュワーは、ある種のたとえ話として、ライナーノーツに頼らなくても、それだけ本作が素晴らしい音楽だと言いたいわけである。たしかに「この音楽はまったく素晴らしくて、生命を主張し、あらゆる方法で祝福する」。異論はない。

 スタジオ・ライヴによるこれは、ラフな録音ながら、彼らの音楽の魅力は伝わる。いわば地球の裏側の砂漠を旅するジミ・ヘンドリックスによるダンス・バンドである。A面の1曲目の"Telalit"がとくに最高で、これは3拍子の曲だが、ビビ・アーメドとコウデデのふたりによるエキゾティックだがどこかブルースなギターのリフが反復し、独特なシンコペーションを生んでいる。トゥアレグ語のヴォーカルが挿入され、欧米で言うところの"サイケデリック・ガレージ・ロック"な様相を見せるが、欧米のそれとは違う独特の響きを有している。B面の1曲目の"Tchigefen"と2曲目の"Ikabkaban "もまた3拍子の曲だが、前者はソウルフルで後者は瞑想的でサイケデリックだ。どの曲に関しても言えるのは、ギターのリフとそのアンサンブルがユニークなことで、音量としてもヴォーカルより大きく、それはこの音楽の魅力のひとつになっている。

 トゥアレグ族はニジェールとマリで反政府武装闘争を展開している。砂漠の遊牧民としての長い歴史を持つ彼らは、欧米化を拒み続け、そして生活に窮している。最初のアルバムでセカンド・ギターを弾いていたアジ・モハメドは活動家のひとりとして頭を撃たれ死んでいるが、ビビ・アーメドは新しいギタリストとしてコウデデをバンドに加入させると、このアルバムを録音した。
 ニジェールは2010年、軍のクーデターにより軍事政権となり、国境の閉鎖と夜間外出の禁止を発令した。トゥアレグの音楽シーンにはややこしくも大きな物語がついてまわる。『タイニー・ミックス・テープ』のレヴュワーはそれを忌避したいのだ。何故ならグループ・イネラネの音楽からは、そうした好戦的で政治的なニオイがまずしないからである。音楽はダンス・ミュージックであり、祝祭性に満ちている。彼らはパーティ・バンドなのだ。

 そして......M.I.A.を知らなければタミル・タイガーのことなど関心も寄せなかったように、グループ・イネラネを聴かなければトゥアレグ族について調べようとする契機を持たなかっただろう。音楽は祝祭だが、より多くを学ぶための入口にもなる。

野田 努