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interview with NIIA

interview with NIIA

今宵は、“ジャンル横断”ジャズ・シンガーをどうぞ

──ナイア、インタヴュー

質問・序文:小川充    通訳:安江幸子
Photo by Szilveszter Mako
Dec 09,2025 UP

みんな同じ曲を歌っているのに全然聞こえ方が違っていた。ジャズでは自分自身のオーセンティックなサウンドが求められることにすごく惹かれた。

 昨今のジャズにおいて新世代のミュージシャンの活躍が目覚ましいところがある。そのなかでジャズ・ヴォーカルという分野に関して、アメリカの女性ジャズ・シンガーに限ってみると、2000年代半ばから2010年代にかけてエスペランサ・スポルディング、グレッチェン・パーラト、チャイナ・モーゼス、ベッカ・スティーヴンス、サラ・ガザレク、サラ・エリザベス・チャールズ、セシル・マクロリン・サルヴァントなどが登場し、新たな時代を築いてきた。近年でもグラミー賞を受賞したサマラ・ジョイのような新星が話題となっているが、この度インタヴューを通して紹介するナイアは、サマラのような伝統的なジャズ・シンガーとは異なるタイプのシンガーである。ナイアの本名はナイア・ベルティーノで、1988年にマサチューセッツ州で生まれた。母親はイタリア出身のピアニスト、祖母はオペラ歌手という音楽一家出身で、ニューヨークのニュー・スクール大学でジャズ・ヴォーカルを専攻している(学歴的には中退)。

 しかし、彼女は一般的なジャズ・シンガーの道を進まなかった。2017年のファ-スト・アルバムと2019年のセカンド・アルバムは、クアドロンやライで活躍してきたロビン・ハンニバルがプロデュースし、どちらかと言えばオルタナティヴR&B的な内容だった。もちろん下地としてジャズ・ヴォーカルもあるのだが、それよりももっとコンテンポラリーでポップ寄りのアルバムだったと言える。その後、2022年の3枚目のアルバム『OFFAIR:Mouthful of Salt』はアンビエントな作品集で、2023年の『Bobby Deerfield』はR&B、ポップス、フォーク、ロックなどが融合したシンガー・ソングライター的なアルバムと、作品ごとに表情を変えてきた。いずれにしても、過去の4枚のアルバムはジャズ・ヴォーカルと括るには難しいものだった。


NIIA
V

Candid / Silent Trade

JazzPopR&B

Amazon Tower HMV disk union

 そんなナイアが通算5枚目となるニュー・アルバム『V』をリリースした。驚くべきことは、リリース元が1960年創設のジャズの老舗レーベルである〈キャンディッド〉からということだ。これまでのナイアのイメージと〈キャンディッド〉は全く結びつかないのだが、ナイア自身は決して〈キャンディッド〉のレーベル・カラーに寄せているわけではない。今回のアルバムはいままでに増してジャズの要素が強くなってはいるが、これまで彼女がキャリアのなかで培ったいろいろな音楽的要素も結びつけられたオルタナティヴなものだ。ジャズのスタンダード・ナンバーである “Angel Eyes” も歌っているが、ナイアによればこれは「パンク/ゴス・ジャズ」とのこと。一般的なジャズのイメージを破壊し、新たなジャズの世界を創造する気概に溢れたアルバムである。

みんな「彼女はR&Bだ」「ジャズだ」と言いがちだけど、最高のアーティストというのは、ジャンルの間を変化しながら渡り歩いていける人だと思う。

まずプロフィールから伺います。アメリカ生まれのあなたの母親はイタリア出身で、祖母はオペラ歌手をしていたそうですね。ニュー・スクール大学ではジャズ・ヴォーカルを専攻していたそうですが、お祖母様に倣ってオペラやクラシックの声楽からの影響もあるのでしょうか?

ナイア(以下N):ええ、母がクラシックのピアニストだったから、クラシックやオペラをたくさん聴いて育った。おばもみんなピアノかオペラをやっていたから、私も子どもの頃にオペラをやってみたけど、ものすごく難しかった!(苦笑)……声はなかなか良かったからオペラも歌えるんじゃないかと思っていたけど、できなかった。求められるスキルの種類がまったく違うからね。でも子どもの頃から音楽は大好きだったし、オペラやクラシックから影響を受けていたのは間違いない。その感情表現の仕方にね。歌手たちの表現の豊かさに心から惹かれていた。クラシック音楽はとてもムーディでドラマティックだからね。ジャズに恋に落ちたときも同じで、ジャズの歌唱の何かが、特にスタンダードのときは感じさせるものがある。それもあってジャズに転向したんだけど、オペラとクラシックは私が聴いて育ってきた音楽。初めて好きになった音楽ね。

音楽一家らしいいきさつですね。そのオペラとクラシックの感情表現をジャズに活かしているのだと思いますが、ジャズ・シンガーではどんな人から影響を受けましたか?

N:そうね……私はクラシック・ピアノをやっていて、母が最初の先生だったんだけど、あまりうまくいかなかった。というのも、いつも楽譜に載っていないものばかり弾いていたから。それで母がジャズ・ピアノを習わせてくれた。ジャズ・ピアノだったらインプロヴァイズできるし、もっと自由に弾いていいからね。ジャズ・ピアノの先生は弾きながら歌わせる人で、こう言われた。「ナイアはなかなかいいピアノ・プレイヤーだけど、シンガーとしてはものすごくいい」って。それで歌いはじめたんだけど、小さい頃の私はとてもシャイだったから、独りのときに歌っていた。母がサラ・ヴォーンのレコードをくれてね。サラ・ヴォーンは低音でメロウな美しい声の持ち主で、私もダークで低い声だから、彼女の声が大好きになった。そこからいろんなヴォーカリストに夢中になった。エラ・フィッツジェラルド、ビリー・ホリデイ、ニーナ・シモン……何が私にとってクレイジーだったかって、みんな同じ曲を歌っているのに……みんないわゆる「アメリカン・ソングブック」って呼ばれるアメリカで親しまれている曲の数々を歌っているのに、全然聞こえ方が違っていたことだった。ジャズでは自分自身のオーセンティックなサウンドが求められることにすごく惹かれた。ジャズにのめり込むきっかけになったのはサラ・ヴォーンの声だったと言える。

ニュー・スクールに学ぶためにニューヨークに来て、その後ワイクレフ・ジーンと一緒に仕事をするなど、ヒップホップやR&Bなどの影響もあり、ジャズというよりも一般的なポップ・ミュージックの分野でキャリアを積んでいきます。それからいまも住んでいるロサンゼルスに移り、2017年に発表したファースト・アルバムは、クアドロンやライで活躍してきたロビン・ハンニバルのプロデュースによるオルタナティヴR&B的な内容でした。セカンド・アルバムも彼がプロデュースしていますが、この頃の活動を振り返ってみていかがですか? ジャズとはかなりかけ離れた活動だったと思うのですが。

N:ジャズについてみんなが忘れがちなのは、それがブルースやソウル、それから本当にたくさんのものに由来しているってことだと思う。私が若かった頃は若者の間でいまほどジャズの人気が高くなくてね。ワイクリフに出会って……ほら、ジャズとヒップホップってずっとペアだったでしょう? ジャズのレコードをサンプリングするヒップホップ・アーティストも多いし。私はジャズを知っていたから、それで気に入ってもらえたんだと思う。音楽業界ではトレンドを把握しておくことが大事だって言われるけど、私は純粋主義者たちが気に入るような音楽をやりたいっていう確信があったのね。R&Bもソウル・ミュージックも大好きだし、私の声はR&Bのプロダクションに合っている感じだからね。ただ、あの頃の私の音楽はR&Bやポップ寄りだったかもしれないけど、音は昔から何となくジャズっぽかった。そんな私がR&Bのアーティストたちと比較されるのは興味深いものがあった。だってSZAとか、ほかの女の子たちみたいな音作りをしたことがなかったから。音楽は同じような感じだったけどね。自分の昔の音楽はとても気に入っている。自分のスタート地点や、当時周りから受けていた影響が見えるからね。ロビンは私がちゃんと自分に正直な音作りをできるようにするのがとても巧かった。
 アルバムの枚数を重ねるにつれて、私はより多くの要素を忍び込ませるようになっていった。必ずしもジャズではなかったけど、音楽性という意味でね。生楽器を増やしたり、ストリングスのアレンジだったり。いつも「私の目標は音楽を忍び込ませること」と言っている。いまはジャズもエクスペリメンタルになったし、アンビエント・ジャズの人気も上がっているし、ハッピー。素晴らしいこと。伝統的なジャズからエクスペリメンタルなジャズまで追求できるんだなって。R&Bやブルースは勉強したものという感じね。まだ20代前半と若かったし、たくさんの人が聴いているものにより傾いていたんだと思う。

通訳:おっしゃるとおり、ジャズやR&Bやブルースはきょうだいみたいなものなのかもしれませんね。ヒップホップもそうですし、あなたがR&Bやブルースに溶け込んでいったのも自然な流れだったのかも。

N:そうね。自分が何らかのジャンルに当てはまっている気はまったくしないんだけどね。それはいいことでもあり、悪いことでもある。みんな「彼女はR&Bだ」「ジャズだ」と言いがちだけど、最高のアーティストというのは、ジャンルの間を変化しながら渡り歩いていける人だと思う。いろんな要素を引っ張ってきて。

その後、2022年に発表した3枚目のアルバム『OFFAIR:Mouthful of Salt』はアンビエントな作品集で、新たな世界へ挑戦しています。また、ハープ奏者のブランディ・ヤンガーとコラボして、いままでになくジャズへ接近したアルバムと言えます。一方、2023年の『Bobby Deerfield』は、R&B、ポップス、フォーク、ロックなどが融合したシンガー・ソングライター的なアルバムで、ジョニ・ミッチェルやファイストなどに近い印象でした。このアルバムはロック畑のジョナサン・ウィルソンのプロデュースでしたが、あなたの音楽は作品ごとにいろいろな変化が感じられます。こうした変遷について振り返ってみていかがですか?

N:私が初期に学んだことは……私は家族に音楽家が多くて、しかもその多くは自分がすべてを知り尽くしているような気になっていたのね。でも音楽のすべてを知り尽くしている気になってしまったら最後、そこでキャリアがストップしてしまうと思う。私はつねに成長し、学ぼうとしている。コラボすることは私にとってとても大切なこと。例えばジョナサン・ウィルソンは間違いなくもっとアメリカーナ寄りで、エンジェル・オルセンやファーザー・ジョン・ミスティを手がけてきたけど、つまるところは信じられないくらい素晴らしいソングライターよ。私にとってはそれこそが私の音楽に純粋に合う点。いろんな人と組んで、そこから何かを得ようとするのは大切なことだと思っている。『Bobby Deerfield』にしても、私はジョニ・ミッチェルもフォーク・ギターも大好きだけど、そのまま取り入れたんじゃいい音にはならなかったと思う。私の声はジャズ・ギターほどアコースティック・ギターには合わない。ときには違う楽器編成を試してみたり、いろんな人と仕事してみたりするのもいいことだと思う。何が自分にとってうまくいって何がうまくいかないかがわかるし。そうやって模索していくのはすごく楽しいことだと思う。
『Bobby Deerfield』の頃に、ハリウッドのローレル・キャニオンに引っ越した。ジョニ・ミッチェルが住んでいたことがある場所。ジャジーなフォーク・アーティストになりきりたかったんだと思う。まぁ、ベストの音ではないかもしれないけど(笑)、学ぶのはいいこと。アーティストとしてはいろんなスタイルやものにトライし続けることが大事だしね。そんななかで、変わらずコアなものがいくつかある点は気に入っている。それは私の声とソングライティング。

私はヴィジュアル的にもジャズが大胆不敵でイケてるって感じにして境界線を押し広げたかった。安全で伝統的なだけじゃなくて、ある意味ちょっとハードコアにもなれるものだってね。

最新作『V』は1960年創設のジャズの老舗レーベルである〈キャンディッド〉からのリリースです。ただ1964年の経営危機以降は新録がなく、昔のカタログをライセンスして再発するなどしていたのですが、2024年頃からようやく新録がはじまりました。これまでのあなたのキャリアからすると意外な結びつきですが、どのようにして〈キャンディッド〉からリリースすることになったのでしょう?

N:私は昔から、最終的には伝統的なジャズを歌う人になりたいっていう気持ちが強い。〈ヴァーヴ〉や〈ブルーノート〉といったレーベルもあるし、〈キャンディッド〉はレガシー的な老舗レーベルだけど、若手アーティストたちがジャズの自分たちなりのヴァージョンを作りはじめていることに気づいたんだと思う。それで、すでに知られているアーティストだけじゃなくて、新しいアーティストで「競争」したいと考えたみたい。いまの音楽業界の情勢のなかで話題に入りたかったというか。それでリスクを冒して私を採ってくれてラッキーだった。今日のジャズの姿を切り拓いていく、新しいメンツのひとりだと思ってくれた。感謝している。彼らにはヴィジョンがある。ジャズはときに悪い意味で言及されてしまうことがあって、すごく伝統的なジャズか、極端にインストゥルメンタルかどっちかという感じで、ヴォーカリストがその間を渡り歩くことができないきらいがある。スタンダードや伝統的なスウィングを歌うか、サンダーキャットやロバート・グラスパー、フライング・ロータスみたいな、すごく現代的で実験的なものをやるかどっちか。そんななかで、私は単なる懐古趣味的なジャズを作るのは嫌だった。モダン・ジャズを作る道を見いだしたいと思って。2025年にジャズ・アーティストでいるということはどんなものなのか。そのリスクをキャンディッドは冒してくれた。信じてくれてハッピー。

通訳:子ども時代の経験から伝統的なジャズにも造詣が深いあなたですから、未来的なジャズへの架け橋にもなっているのではないでしょうか。

N:まったくその通りね。歳を重ねたら絶対にジャズ・スタンダード・アルバムを作るつもり。スタンダードを歌うのは大好きだしね。ただ、準備ができていない。だからいまは引き続き、自分にとってのジャズを模索しながら、そう思えるものを作っていくつもり。古いアルバムのような感触を得られるものをね。

〈キャンディッド〉からのリリースですが、『V』は一般的なジャズ・ヴォーカル・アルバムとは大きく異なります。今回のプロデュースはスペンサー・ゾーンとローレンス・ロスマンというこれまでとも異なる人たちが行っていますが、彼らを起用した理由を教えてください。

N:ローレンスとはしばらく前からの知り合いで、彼は何でもできるけど、アメリカーナやロック、ポップス界の色が強いね。彼もまた素晴らしいソングライター。彼が「ナイア、そろそろジャズ・アルバムを作ることを考えるべきだと思うよ」と言ってくれて。それで、いろんなミュージシャンを連れてきてくれた。今回はとにかくプレーヤーありきな作品にしたかったし、みんなでひとつになって何かを作り出したかった。スペンサーと私はある曲に別々に参加したことがあって。その曲がとてもスペシャルなものになって、ローレンスに「君もスペンサーと組むべきかもね」なんて言ってもらえた。スペンサーとはたくさん曲を作って、そのなかからいままでやってきたものとしっくり合うものをピックアップした。スペンサーも素晴らしいアーティストで、ベース・プレーヤーでもあり、強いコネクションを感じた。バンドでありながらも声やアーティストの存在感がちゃんとあるものにするにはどうすればいいか、というヴィジョンを見てくれたんだと思う。ふたりには感謝している。たくさんのことを学んだし、私がやりたかったものを高めてくれたという気がしている。それに自分の作った音楽に自分らしさを感じられるのはいつだっていいこと。自分っぽい音がするし、自分っぽいなって感じられるからね。

そのほかにアンナ・バタース、ニコール・マッケイヴといったロサンゼルスの若く才能溢れる女性ジャズ・ミュージシャンも参加しています。普段からこういったプレーヤーたちとは共演して、女性ジャズ・ミュージシャンのコミュニティ的なものがあるのでしょうか?

N:ふたりともそれぞれ自分たちのことをやっているからね。……みんな独自のキャリアを持っているのが素晴らしいと思う。アンナもニコールもすごくうまくいっているけど、私が彼女たちを必要としているときにはいてくれた。ジャズのなかで小さなコミュニティができつつあるのは素晴らしいことだと思う。あと、私はできるだけ女性プレーヤーを見つけようとしていて。男性が優勢な分野であることは間違いないからね。女性ヴォーカリストがたくさんいるのは確かだけど、楽器をやる女性も続々出てきているって喜んで報告できる。私はラッキー。あんなに素晴らしいプレーヤーたちと、今回のアルバムを作ることができたんだから。

『Bobby Deerfield』にあったエレクトロ・ソウル、テクノ・ポップ的な作品を継承していて、“Throw My Head Out The Window”はハウス・ミュージック的な要素がありますし、“Pianos and Great Danes”はブロークンビーツ調だったりと、クラブ・サウンドをかなり意識した印象です。これら作品はどんなイメージで作られたのですか?

N:私はバラードが大好きだから、いつもスローなものに走る傾向があるのよね。今回自分自身に課したチャレンジとしては、特にその2曲に関しては、能動的なリスニングをすることだった。もっとエネルギーが感じられて、テンポが速くて、ドラムンベースみたいなアグレッシヴな要素があって。“Throw My Head Out The Window” ではドラムを2セット使ったの。それから私はヴィジュアルを思い浮かべるアーティストだから、この曲ではLA中をドライヴしている状態を思い描いた。LAはものすごい車社会だから、よく犬が車の窓から顔を出しているのよ。あの解放感って最高! と思ってね。あのエキサイティングな解放感を表現したいと思った。
 あと “Pianos and Great Danes” は……私の頭のなかはいつもゴチャゴチャで、いろんなことを同時に考えている。ピアノから犬のグレート・デーン、それからセックスまで、あらゆることを同時にね。頭のなかがクレイジーになっている状態を音で表現している感じ。いろんな思いが侵入してくる様子を、カオスな感じのサウンドで表現したかった。それで、トラックが忙しい感じだから、私のヴォーカルはもう少しラウンジ的というか、もっとメロウなものにしようと考えたの。
 そうやって遊んでみるのもいいことだと思うのよね。曲によっては本当に声を張り上げているものもあるし、楽器の一部になっているものもあるし。その2曲はどちらも気に入っている曲。どちらもエネルギーがあるし、作ろうと思えばダンス・リミックスも作れそうだしね。もしかしたら本当に作るかもしれない。そうなったらエキサイティング。
 このアルバムのテーマのひとつが現実逃避とか空想だと思う。クレイジーな考えがいろいろあるこのご時世に、いかに自分の心を静めるか。そのふたつの曲で陰と陽を表現しているようなもの。“Throw My Heads Out The Window” で心の平安を探して、“Pianos and Great Danes” は「何てこと、頭のなかがカオスになっている。頭を鎮めるにはどうしたら?」みたいな感じ。

私はジャズの創造的破壊者であり続けたいと思っている

なるほど。いま「自分の声が楽器の一部になっていることがある」という話でしたが、“Ronny Cammareri” はアンビエントを意識したジャズ・ナンバーで、あなたのワードレスなヴォーカルもハーモナイザー的な役割を果たしています。“Again with Feeling” はダークな雰囲気の作品で、一種のトリップホップに近いというか、ベルギーのメラニー・デ・ビアシオを想起させるようです。

N:そう言ってくれるなんて最高! あとはハイエイタス・カイヨーテとかリトル・ドラゴンみたいに、R&B寄りのことをやっているけど、びっくりするくらい高度で、ジャズの要素を取り入れている音楽もあるよね。“Again with Feeling” にR&Bの要素や、加えたら役立つかもしれないと私が思った要素があるのは間違いない。

通訳:メラニーやハイエイタス・カイヨーテらもジャズの枠にとらわれないオルタナティヴな活動で知られますが、意識するようなところはありますか? 例えばよく聴くとか、交流があるとか。

N:交流はしていない。私はシャイだから畏れ多くて(笑)。聴いてはいるけどね。ただ、模倣はしたくない。でもいろんなジャンルの要素を引っ張ってきているのを聴いていると、とても励まされる。ハイエイタス・カイヨーテなんかは私にとってすべて。ギター1本だけを伴っているときはフォーク・ソングみたいだし、前衛的なジャズ・シンガーみたいに聞こえるときもあるし、シンセを多用しているときもあるし。彼女たちの存在は、私に挑戦をさせてくれる。音楽に境界線なんてないんだって気づかせてくれる。ひとつの世界にしっくりはまりさえすれば何をやってもいいってね。アルバムが本みたいにいろんなチャプター(章)を持っていることが大事だって思う。全部同じに聞こえないためにね。
 本当にたくさんのアーティストに影響をもらっているわ。「私がこれをやっていいのか」「私のヴァージョンだったらどうなるんだろう。どんな歌詞や音色、響き、ハーモニーになるんだろう」って考えさせてくれる。

通訳:自由にジャズの枠を超えて実験してもいいと思わせてくれる存在なのですね。

N:ええ。ジャズはとても純粋主義的なジャンルだけどね。でもジャズを勉強していた当時、私はジャズが怖かった。私にとってはとてもハードコアなものだった。昔のジャズ・アーティストはチンピラだったし、ドラッグ中毒だったし、反逆者だったし……好き勝手にやっていたからね。保守的でもなかったし、お堅い感じでもなかった。いまはジャズというと高尚で伝統的で、温厚でマナーのいいジャンルだなんて思われているけど、私に言わせれば、その昔の彼らはロック・スターみたいなものだからね。ヘロインを打ってクレイジーだったんだから(笑)。パンクみたいな要素があった。尖っていてね。私はヴィジュアル的にもジャズが大胆不敵でイケてるって感じにして境界線を押し広げたかった。安全で伝統的なだけじゃなくて、ある意味ちょっとハードコアにもなれるものだってね。こういう言い方をするのもなんだけど、一般的なジャズのイメージは年配向けの音楽っぽい感じよね。でもジャズは若々しくてとても自由なジャンル。昔の彼らはパンクスだった。

通訳:だからこそあなたは “Angel Eyes” のようなスタンダード中のスタンダードみたいな曲を「パンク/ゴス・ジャズ」と呼んでいるのですね。あなたのファンも、あなたのことを「ゴス・ジャズのプリンセス」と呼んでいますし。

N:そうそう。パンクはアティチュードの話に過ぎないから。パンクの感性だってありだと思う。私はジャズの創造的破壊者であり続けたいと思っている。同じアルバムにスタンダードも “Pianos and Great Danes” みたいな曲も入れていいってね。そしてそれでもジャズと見なされる自分でいたい。ジャズはすべてだからね。ジャズはその解釈の仕方次第というか……ミュージシャンシップとか、必要とされるものはあるけど、好きなものにならせてくれるのがジャズだと思う。歴史と、作られてきたものに敬意を表してさえいればいいと思う。

ちなみにどうして “Angel Eyes” を取り上げたのでしょう? あなたの好きなエラ・フィッツジェラルドも歌ってきた曲ですが。

N:お気に入りのジャズ・ソングが本当にたくさんあってね。ただ、さっきも言ったけど、まだスタンダード・アルバムだけのアルバムを作る準備はできてない。でも同時にジャズ界が純粋主義であることもわかっているから。「きみはジャズじゃない。ジャズだってことを証明してくれ」という感じで。だからジャズ・スタンダードを1、2曲入れたいというのはわかっていた。“Angel Eyes” は私のお気に入りのひとつで、ミステリアスで、あまり自分を見せないというか、人と共有しないような感じがこのアルバムに合うと思った。
 いつも考えると凄すぎると思ってしまうのだけど、フランク・シナトラが最後にライヴで歌ったのもこの曲だったそう。つまり彼が最後に歌ったのは “Excuse me while I disappear(失礼、姿を消すよ)” というフレーズだったってこと。その後、彼は二度と歌うことがなかった。あまりにクールな曲。エラ・フィッツジェラルドも、他の人もみんな歌った曲だけど、私なりのジャズへの敬意を表した曲。フル・バンドと一緒に録音して、その後ピアノとヴォーカルだけで録音してみて、必要なのはピアノとヴォーカルだけだって思った。ただコード進行にだけ耳を傾けて歌いたいと思った。とにかく美しい曲だから。メランコリーで謎めいた雰囲気にも合っていたと思う。

“Angel Eyes” や “I Found The Restaurant” などは丹念に歌い上げていて、あなたのジャズ的な要素がしっかりと現れていますね。そこもすてきな面のひとつだと思いますが、こうして話を聴かせていただいて、ジャズに対する見方が変わりそうです。

N:嬉しい! それが私の目標でもある。いろんなものに耳を傾けて、ジャズ・シンガーが特定の箱にはまらなくてもいいってことを感じてもらえればと思っている。


質問・序文:小川充(2025年12月09日)

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Profile

小川充 小川充/Mitsuru Ogawa
輸入レコード・ショップのバイヤーを経た後、ジャズとクラブ・ミュージックを中心とした音楽ライターとして雑誌のコラムやインタヴュー記事、CDのライナーノート などを執筆。著書に『JAZZ NEXT STANDARD』、同シリーズの『スピリチュアル・ジャズ』『ハード・バップ&モード』『フュージョン/クロスオーヴァー』、『クラブ・ミュージック名盤400』(以上、リットー・ミュージック社刊)がある。『ESSENTIAL BLUE – Modern Luxury』(Blue Note)、『Shapes Japan: Sun』(Tru Thoughts / Beat)、『King of JP Jazz』(Wax Poetics / King)、『Jazz Next Beat / Transition』(Ultra Vybe)などコンピの監修、USENの『I-35 CLUB JAZZ』チャンネルの選曲も手掛ける。2015年5月には1980年代から現代にいたるまでのクラブ・ジャズの軌跡を追った総カタログ、『CLUB JAZZ definitive 1984 - 2015』をele-king booksから刊行。

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