Home > Interviews > interview with Overmono - UKダンス・カルチャーの申し子たち
なんだかんだと今年もまた、いや、今年になってようやく(と言うべきか)、ま、なんにせよ、ダンス・ミュージックの季節到来である。良かった良かった。
UKはセカンド・サマー・オブ・ラヴを契機として、アメリカのブラック・コミュニティと同じように、ダンスフロアのための音楽のもうひとつの産地となって、この30年のあいだ、大量かつ多彩なダンス・ミュージックを生産し続けている。1969年のUSのR&B曲、ザ・ウィンストンズの “アーメン・ブラザー” におけるドラムブレイクが1990年代のUKに渡ってルーピングされたときには、もう、すでに準備オッケー。DJ、クラブ、レイヴ、レーベル、12インチ、ラジオに音楽メディア——それ以来、UKからは絶えることなくこの音楽はアンダーグラウンドにおいてもオーヴァーグラウンドにおいても動き続け、まったく飽きられることもなく、世代から世代へと、多くの人たちに享受され続けているのである。で、最近の成果が、日本で知られたところで言えばジョイ・オービソン、ディスクロージャー、バイセップであって、いまオーヴァーモノがその最前線に躍り出るというわけだ。
オーヴァーモノとはトム・ラッセル&エド・ラッセル兄弟によるユニットで、彼らにはすでにアンダーグラウンドでのキャリアがあり、多くの賞賛がある。たとえば初期の代表作、10年前にエドがテスラ名義でリリースした「Hackney Parrot」と「Nancy’s Pantry」のような12インチは、「踊らせたるぜ」という気迫が生んだみごとな創造物の一例で、ぼくのような元クラバーにもそのヴァイナルを買わせるほどパワフルで、若々しいグルーヴを有している。
オーヴァーモノは、ジョイ・オービソンやディスクロジャーのように、USの影響を受けながらもじつにUKらしいハイブリッド性、つまりなんでもアリ感があるのだが、そのまとめ方がいかにもUKらしくスタイリッシュだ。また、この10年のあいだに登場してきたプロデューサーの多くにUKガラージからの影響が色濃くあることも、クールだと思う。シングル・カットされた “So U Kno” はその典型だ。ピッチを速めにループさせたヴォーカル・サンプルとブレイクビートの組み合わせは、初期ジャングルから続いているUKのお家芸なのだが、ラッセル兄弟にはその魅力を最高にモダンなものとして際立たせる特別なスキルがあるようだ。要するに、明らかにこれはいまイケているダンス・ミュージックで、それが好きなら聴け、である。
もちろんUKガラージからの影響もあるけれど、それ以前のスタイルの影響もある。それがUKガラージと融合して、どう発展していまのスタイルになったのかはよくわからないけど、俺たちはとにかく永遠とヴォーカルを切り刻んでいるんだよ(笑)。
■オーヴァーモノはどのようにはじまって、制作に入ったのでしょうか?
トム(写真の右):とくに考えというものはなかった。オーヴァーモノは俺たちにとって長期的なプロジェクトとして捉えていた。俺たちだけのやり方で進めていたら、もっと早いタイミングでアルバムをリリースしていたと思う。
オーヴァーモノのプロジェクトをはじめたとき、俺たちはふたりとも自分たちのソロ・プロジェクトに窮屈さを感じていたんだ。エドも自分のプロジェクトをやっていたし、俺もやっていたんだけど、各自がやっていることの境界線が狭いと感じていた。そこで、俺たちが育ったウェールズの近くにある、田舎のコテージを借りて、機材をたくさん持って行って、5日間くらいそこに篭って、ふたりでたくさんの音楽を作った。14曲くらいできたと思う。その楽曲ができた時点で、これらの音楽には一貫性があり、自分たちでも一緒に制作をしていてすごく楽しかったと気づいた。そこでオーヴァーモノというプロジェクトをやろうということになり、〈XL Recordings〉と契約を結んだ。
当初はアルバムをすぐにリリースしようと俺たちは考えていたんだけど、いろんな人たちと話し合った結果、まずはシングルとして出していく方がいいということになった。いま、振り返ってみるとそういうリリースの仕方をして本当に良かったと思う。ある一定の期間を経て、楽曲を発表していったことで、オーヴァーモノのサウンドの枠組みがどんなものかというイメージが受け取る側のなかで形成されていったと思うからね。そしてオーヴァーモノのサウンドがどういうものかというブループリント(設計図)を人びとに対して提示できたと感じられた時点でアルバムを発表した。だが、俺たちは「よし、いまからアルバム制作に入ろう」と言って作りはじめたわけではなかった。アルバムの核となる曲が1、2曲ができてから、そのまわりが肉付けされてアルバムという形になっていった。
通訳:そのとき、おふたりともソロ・プロジェクトをやっていたと思うのですが?
エド(写真の左):もうソロ・プロジェクトはやっていないよ。すべてはオーヴァーモノとしてやっている。最初もオーヴァーモノとして作曲しようと決めたわけではないけれど、俺もトムもソロとして表現したいことはやり切ったと感じていた。だからそれ以降はすべてがオーヴァーモノとしての楽曲になっている。俺はオーヴァーモノをはじめて以来、1曲もテスラ名義の曲を作っていない。自然にそうなったんだ。だから(ソロ作品は)無理して作る必要はないと思っている。トムも同じように感じていると思うよ。
トム:そうだな。
エド:だからアルバムの楽曲はすべ、自然な流れで、無理なく出来たものばかりなんだ。
■アルバムは、ここ最近のUKのアンダーグラウンド・シーンで起きていることからの影響が反映されたものなのでしょうか? それとも完全に自分たちのなかから生まれたものなのでしょうか?
トム:どうだろうな。俺たちの音楽は、自分たちがUKで育ち、いままで聴いてきた音楽などの影響が大きな基盤となっているのは当然のことだからね。アルバムはここ2年間くらいかけて書かれたものなんだけど、その期間中、俺たちはあまり最近の音楽——とくに俺たちの背景にあるシーンの音楽——をあまり聴いていなかったんだ。最近聴いている音楽と言えばアメリカの音楽で、R&Bやポップを聴いている。だからアルバム制作中は、俺たちがいままでいた世界(UKのアンダーグラウンド・シーン)から自分たちを大きく切り離していたという自覚はあるね。
エド:UKのアンダーグラウンド・シーンの影響はもちろん昔からあったし、いまでもあるよ。
トム:もちろんある。
エド:俺たちのなかに刻まれているようなものだから。
トム:俺たちは、例えば、アメリカの音楽などを聴いて新鮮な刺激を取り入れたいと思っている。でもそれを俺たちの音楽に反映させるとき、それは俺たちの基盤にあるUKのダンス・ミュージックやエレクトロニック・ミュージックという俺たち特有のプリズムを通してアウトプットされる。
■ちなみに、今日のUKのアンダーグラウンド・ダンス・シーンで、おふたりが注目しているのは何でしょうか? ジャングルが面白いという話は耳にしているのですが。
エド:面白いものはたくさんあるよ。俺たちはアルバム制作プロセスというトンネルの終盤をようやく通り抜けて、浮上しはじめてきている状態なんだ。2年間、自分たちをそういったシーンから遮断して、再びシーンに目を向けた時、面白いことが起きていると気づいた。とても良い感触だよ。俺が住んでいるブリストルでは、多くの若手が出てきていて、面白いことがたくさんあるけど、具体的なことはあまり知らない。でもUKは常にエキサイティングなことが起こっているし、新しいシーンが生まれていると思う。
■去年のハイライトのひとつはジョイ・オービソンの『still slipping vol.1』だと個人的に思っています。しかし、これはアルバムと呼ばれることを忌避し、ミックステープと呼びました。それに対して、オーヴァーモノの『Good Lies』は思い切りアルバムになっていると思います。
エド:ピート(ジョイ・オービソン)も『still slipping vol.1』をアルバムと呼んでも全然良かったと思うよ(笑)!
トム:ハハハハ!
エド:でもそれがピートなんだよなぁ。あのアルバムは最高だよ。
トム:(頷いている)
エド:あれはアルバムと呼んでもおかしくない作品だった。だが俺たちはアルバムを作ろうという姿勢で制作をしていたね。ミックステープを作るときは、アルバムを作るほど焦点が定まっていないことが多いと思う。ピートのミックステープだけはこのルールが適応されないけど。彼のアルバムは、すごく焦点が定まっているし、「ピート」としての表現が完璧になされている。
トム:ひとつの作品としてまとまっているよね。
エド:そう、一貫性があるんだ。俺たちも一貫性のある音楽を作りたいと思っていて、すべての楽曲に同じプロセスに通すから、すべての楽曲が俺たちが表現したいようなサウンドの特質を持った楽曲に仕上がる。そういうことを俺たちは重視していて、アルバムを作るときも、(個々の楽曲の集まりではなく)ひとつの大きなものとして成り立つようにしたいと思っている。
バイセップもディスクロージャーもブリアルも俺たちが大好きなアーティストたちだから、比較対象にされるのは嬉しいよ。UKからはいい音楽がたくさん出てきているし、俺たちはそういうアーティストたちからいろいろな影響を受けて自分たちの音楽に取り入れている。
■作っていて、いちばん難しかったところと、作っていていちばん嬉しかったことは何だったのでしょう?
エド:終わりのタイミングがわからないところ(笑)。
トム:(笑)
エド:いちばん難しいのはそれだな。いちばん嬉しかったのは曲を書いているときだった。本当にいろいろな場所で曲を書いていた。昨年、俺たちはツアーをかなりたくさんやっていて、楽曲の多くは、ヴァンの後部座席やホテルの客室などで書かれたものなんだ。よくあったパターンとしては、ギグが終わると、こうやっていまみたいに、ホテルのベッドにもたれながら、明け方になって、次の公演の出発時間になるまで、ふたりでずっと音楽を作っている。それがいちばん楽しかった。いつでも、どこでも、作曲できる時に作曲する。楽しかったし、楽な作業だったよね。
トム:ああ。スタジオでの時間はいつも楽しい。スタジオというのは、実際のスタジオの場合もあるし、ホテルの部屋でヘッドフォンをお互いにパスしながら曲作りをしている場合もある。作曲が面倒な作業のように感じてしまったら、やる価値はないと思うよ。
■常にUKにおける土着のダンス・ミュージックに根差した音楽。映像的で、ときにメランコリックであることなど……。こうした視点でみるとオーヴァーモノは、バイセップやディスクロージャーよりもブリアルに繋がっているように感じます。
トム&エド:ハハハハ。
エド:それはジャーナリストに決めてもらうのがいいと思う(笑)。どちらの側もすごいと思うから、何と答えていいのかわからないよ。
トム:バイセップもディスクロージャーもブリアルも俺たちが大好きなアーティストだから、比較対象にされるのは嬉しいよ。UKからはいい音楽がたくさん出てきているし、俺たちはそういうアーティストたちからいろいろな影響を受けて自分たちの音楽に取り入れているよ。
エド:(トムに向かって)じつに外交的な答え方をしたね(笑)。
トム:ダハハハ。
■では、ダンス・ミュージックのプロデューサーの作ったアルバムでとくに好きなのがあったら教えてください。
トム:(笑って考えている)
エド:ピートのアルバム……あ、失礼「ミックステープ」だったね、あれは俺たちがふたりとも好きだった。最近聴いたエレクトロニック音楽のアルバムはなんだったけなぁ……?
トム:(考えている)
エド:昔のUKからの音楽の方が黄金時代だったような気もする。エイフェックス・ツインとか。
トム:ソロウ(Sorrow)( https://sorrowgarage.bandcamp.com/)のアルバム が最近聴いたなかで素晴らしいと思った作品かな。つい先日も自宅で聴いていたんだけど、圧倒されたよ。アルバムの中には彼のキャリア史上最高な楽曲がいくつかあった。同じような時期だと、サージョンの『Breaking the Frame』も最高だった。
エド:クラインというプロデューサーがいて、とても素晴らしいレコードを出している。エレクトロニック・ミュージックのようなフリー・ジャズとでも言えばいいのかな、変な説明だけど、すっごくいいんだ。テクスチャーがすごく豊かな音楽で、音楽にルールがまったくない感じに、すごく刺激を受ける。
トム:Skee Maskの『Compro』も大好きなアルバムだな。その前のアルバム『Shred』もよく聴いていたんだ。
序文・質問:野田努/協力:mw(2023年5月11日)
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