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interview with Genevieve Artadi

interview with Genevieve Artadi

〈ブレインフィーダー〉イチ押しのシンガー・ソングライター

──ジェネヴィーヴ・アルターディ、インタヴュー

質問・序文:大塚広子    通訳:長谷川友美 Photo by B+   Mar 16,2023 UP

なるべくヴィーガンの食生活を貫くようにしていて。あとは1日2回、毎日瞑想する時間を持つようにしている。

前作からあなたの声の質感も変化しているように感じます。あなたは技術的にどうやって声をコントロールしていますか?

GA:それについては意識的にかなり自分でも努力してコントロールしている。今回のアルバムに関して言えば、曲作りとスタジオでのレコーディングの間にかなり時間があったから、何度も何度も歌を練習した。いくつかの曲はライヴで演奏したりもした。それで、実際にスタジオに入ったときには、ほぼワンテイクでレコーディングするようにしたかった。家で録音してみて歌い方を考えたりして、スタジオでは完璧に歌いこなすことで、歌に集中できるようにして。

私は前作の『Dizzy Strange Summer』を聞いて、愛の複雑さや自由への欲求を感じました。これを聞いた後に新作『Forever Forever』を聞くと、気持ちが洗われるような美しさや秩序を感じました。このアルバムを作るまでにどんな気持ちの変化がありましたか?

GA:いくつか大きな出来事があったけれど、いちばん大きかったのはペドロとの出会い。彼と付き合うようになったのは、私にとって本当に大きな変化だった。自分自身と向き合うようになったというのかな。自分の問題に向き合えるようになった。彼との関係を深めていく中で、瞑想を始めたり、本を読むようになったり、ティク・ナット・ハンやラム・ダスのビデオを観たり……自分を見つめ直したり、より健康な生活を意識するようになった。ちょうど彼と出会った頃は自分をもっと解放すべき時期に来ていたんだと思う。それまでの私は働きづめで、自分の時間を楽しむ余裕がなかった。余裕がないから、自分勝手に生きていたと思う。それは自由とは違う。いまは「気が狂っていた時期はもう終わり」という感じ(笑)。

(笑)どんなことを毎日の習慣にしているんですか? いまお話にも出ましたが、健康的な食事生活や、瞑想など何かルーティーンにしているものがあれば教えてください。

GA:可能な限りヴェジタリアンを選択している。充分なプロテインが摂れないときは卵を食べたりするけど、なるべくヴィーガンの食生活を貫くようにしていて。あとは1日2回、毎日瞑想する時間を持つようにしている。本当は瞑想する日もあればしない日もあるというようにしていきたいんだけど、瞑想するのとしないのでは私の心身の状態が全然違うの。

以前に比べて、精神的に落ち着いたり穏やかになったりしたと感じますか?

GA:そうね、前ほど感情的な起伏もないし、周囲の人たちに対してとても忍耐強くなったと感じる。自分の心の中に余裕が生まれたというか。家でひとりでいるときは前から心に余裕があったんだけど、逆にだらしなく過ごしてしまっていたし(笑)。でもいったん外に出ると、自分の社会での立ち位置というか、役割をつねに考えてしまっていた。なるべく聞き役に徹して、相手に緊張感を感じさせないようにしたり。私と話した人はみんな「君と話していると自分らしくいられる気がする」というようなことを言ってくれるんだけど、私自身は気を使いすぎてクタクタになってしまっていた。でもいまは人付き合いを円滑にできるだけのエネルギーを得た感じ。

先ほどお話しに出たティク・ナット・ハンのことをもう少し聞きたいです。

GA:私は何かの問題にぶつかると、すぐにグーグルに訊いちゃうよくないクセがあるの(笑)。でもそんな問題の答えをググってみても「そんなやつ追い出しちまえ」「あなたはそんな目に合うべき人間じゃない」みたいな、怒りに満ちた答えしか見つからなくて。でも、その自分の問題と仏教、ってググると、もっと根本的な解決方法が見つかることに気づいた。そこからティク・ナット・ハンのような名前に行き着いて、彼の本を読んだりビデオを観たりした。彼の言葉には本当に助けられた。

彼の教えであるマインドフルネスについて、あなたはどんな風に考えていますか。

GA:とても美しい考え方で……すべての人に彼の教えを実行してほしいと願っている。例えば、彼はイスラエルやパレスチナの人たちをひとつに結ぶことができると語っている。どんな人間同士でもコミュニケーションは可能であるということ、互いをコントロールすることは可能であるということ。それは戦いで相手を屈服させるという意味ではなくて、互いを尊重し合うということ。自分自身を大切にすることができれば他人を大切にすることもできる。自分の愛する人を大切にすることができるということ。私はほとんどの場面ではかなり忍耐強い人間だとは思うけど、いくつかの地雷があって、それを踏まれると怒りをコントロールできなくなるところがあった。でも、彼の教えを実行していく中で、かなり自分を律することができるようになってきたと思うし、これからも続けていきたいと思っている。

ティク・ナット・ハンのそんな考えは、あなたの今の音楽にも影響していますよね?

GA:そうね、そう思う。歌に対するアプローチに影響を与えていると思うし、音楽づくりのプロセスの中で、自分自身を律して根気強く向き合うことを教えてくれたと思う。自分の頭の中で考えすぎずに、人の意見もよく聞くようになったと思う。それに、自分の音楽をよく聴いて、いま自分がやるべきことや置かれている状況をよく理解することで、すべてのことがうまくいくようになったと思う。

できあがったものに完全に満足することはほとんどない。大体いつも、自分が表現したいことの半分くらいしか表現できない。でも、私はすべてを完璧に表現したい。

では今回のアルバムは、具体的にはどのような順番で作られたのですか?

GA:曲を書くときはいつもできるだけ自分の頭の中にあるアイデアを明確にしてから書くようにしている。ジャム・セッションは緊張するというか、得意ではないからそこから曲を作ることはほとんどない。2019年にスウェーデンのノーボッテン・ビッグ・バンドから、専属の作曲家にならないかというオファーがあって。それでコンサート用の曲をいくつか書いてデモを作った。コンサートが終わったあと、書き下ろした曲の半分を自分のソロ・ルバムに入れたいと思って。だからこのアルバムの曲のいくつかはふたつのヴァージョンが存在することになる。それからアルバム用に曲を書き足していって、スタジオでバンド・メンバーと相談しながら「ここにこれを入れよう」「このソロは誰が弾く?」という調子で作っていった。ああ、中にはそれより前に書いた曲もあるね。いちばん古いものは2017年頃に書いたんじゃなかったかな。とにかく、スタジオでみんなでアイデアを出し合って作ったものだけど、全体的なヴィジョンはすでに私の中にあって、それを明確にしてからレコーディングに入るというプロセスが私のやり方。

参加したミュージシャンからどんなアイディアや個性を引き出しましたか?

GA:ルイス・コールは全体に魔法を使ってくれた。それにピアノのクリス・フィッシュマン、ダニエル・サンシャインはドラムを何曲かと、ミックスとマスターを担当してくれたし、ヘンリー・ハリウェルがエレクトロニックな部分をやってくれた。彼は、私が作ったデモの何曲かのドラムをもっとクールなものにしてくれたりした。それと何曲かではダリル・ジョンズがベースを弾いてくれている。

Knower でのデビュー時からあなたの作曲の才能はとても評価されているし、今回特にあなたのプロデュース能力も発揮された内容だと思います。プロデューサーという立場で、この作品をどのように解釈し作ったか教えてください。

GA:そう言ってもらえて嬉しい。ありがとう。今回は、当初はビッグ・バンドのために作曲したから、いままでのようなプロセスは踏めなかった。いつもはデスクに向かって自分のアイデアをクリアにしていく作業なんだけど、どんな音を実際に入れるかというのはそれほど選り好みしないで曲を作っていった。でも、今回はここでサックスを入れる、ここで自分のヴォーカルをレイヤーで重ねる、というそれぞれのパートを曲作りの段階で細かく決めていく必要があった。もちろんどうしても隙間ができるから、それを少しずつ埋めていく感じの作業だった。ビッグ・バンドとレコーディングするわけだから、全てのパートにおいて私が指示を出せなければ曲を作ることは不可能でしょう? だから作曲と同時にプロデュースもすべておこなうというプロセスだった。演奏する人たちが興味を持ち続けられるように、その上で私がどんな曲にしたいか、そのヴィジョンを明確にするということに集中した。このアルバムはその延長上にあるものだと解釈している。

歌うことだけではなくプロデュースをすることや曲を作ることのやりがいはなんですか? 挫折しそうになったときは、どうやって乗り越えましたか?

GA:私はけっこう選り好みするタイプ。歌を歌うときは、その曲が「良いもの」(笑)でなければイヤなの。私はつねに自分がどんなものを求めているのか、明確なヴィジョンがあるけれど、それをどうやって実現すればいいかはわからない。とてもフラストレーションを感じる。自分が信頼している人と曲作りをするときはスムーズにやりたいことに近づけることができるけど、そうでない場合はまずは意思表示して、私の描いているものを理解してもらう必要があるでしょ? それがなかなか伝わらなくて、相手も「結局何がやりたいの? 自分にどうして欲しいの?」って戸惑うことになってしまう。すごく時間が掛かるし、できあがったものに完全に満足することはほとんどない。大体いつも、自分が表現したいことの半分くらいしか表現できない。でも、私はすべてを完璧に表現したい。だから、私は信頼する人たちと一緒に音楽を作るべきだという風に考えるようになった。もちろん誰かと一緒に作品を作るときは、それぞれのスケジュールを合わせなければいけないから、途中で長いこと待つ時間が必要になることもあるし、スケジューリングは本当に大変な作業。それでも、スタジオでコラボレーションをするのはとても好き。音楽づくりはそもそも共同作業だと思っているし。だから、私はプロデュースをするときも、みんなの意見にとてもオープンであるようにしている。それも、ただイエス・ノーを言うだけの存在ではなくて、いろいろな意見やアイデアを交わしながら一緒に作っていくことに積極的だと思う。でも最終的な判断を下すのは自分。自分の作品をプロデュースするということは、自分に決定権があって、最終的には自分の満足のいく作品にできるということ。とてもやりがいを感じる。

とても興味深いですね。スタジオでの作業を見てみたいです。今後コラボレーションしたいアーティストや、これからの予定を教えてください。

GA:そうね……ライアン・パワーとぜひ何か一緒にやりたい。ステレオラブレティシア・サディエールともぜひコラボレーションしてみたい。とにかく自分の好きな人たちと何か一緒にやれたらいい。ビョークともやってみたいけど……彼女がオファーを引き受けてくれるとは思えないけど(笑)。それと、すでに次のアルバムの構想ができあがっている。アニメを大量に観ていた時期だから、それに影響を受けたロックっぽい内容になるかもしれない(笑)。今回のアルバムとはかなり違ったものになりそうだけど、それでも変なコードを使ったりというところは変わらないと思う(笑)。

質問・序文:大塚広子(2023年3月16日)

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Profile

大塚広子/Hiroko Otsuka大塚広子/Hiroko Otsuka
アナログレコードにこだわった'60年代以降のブラックミュージックから現代ジャズまで繋ぐスタイルで、東京JAZZ、フジロック、ブルーノート・ジャズ・フェスティバル・イン・ジャパン他、日本中のパーティーに出演する一方、音楽ライターとして活動。老舗のジャズ喫茶やライブハウスPIT INNといった日本独自のジャズシーンや、国内外の新世代ミュージシャンとのコラボレーションを積極的に行い、インタビュー記事やライナーノーツ等の執筆、選曲監修の他、自身のレーベルKey of LIfe+を主宰。

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