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Home >  Interviews > interview with Gilles Peterson & Bluey (STR4TA) - なぜいまブリット・ファンクなのか

interview with Gilles Peterson & Bluey (STR4TA)

interview with Gilles Peterson & Bluey (STR4TA)

なぜいまブリット・ファンクなのか

──ジャイルス・ピーターソン&ブルーイ(ストラータ)、インタヴュー

質問・序文:小川充    通訳:青木絵美 Photo by Alex Kurunis   Nov 10,2022 UP

80年代初期のレコードが再び人気を博している。ストリート・ソウルと言われる音楽をいまかけている若い世代の人たちがいるということなんだ。だからいま、リイシュー盤が出ているんだよ。(ジャイルス)

計画なんて全くなかった。ファーストでもなかったし、今回もなかった。これが私たちのコミュニティであり、私たちの世界なんだ。周りの環境なんだ。近所に住んでいる仲間もいるし、仕事仲間もいる。みんな私たちの知り合いであり、私たちの世界の人間なんだ。(ブルーイ)

『ストラータスフィア』というタイトルは、ブリット・ファンクの代表的アーティストであるアトモスフィアからインスパイアされているのでしょうか? ストラータに参加するピーター・ハインズもアトモスフィアのメンバーでしたし、ブルーイも近い位置にいてライト・オブ・ザ・ワールドなどで活動していました。もちろんジャイルスにとっても、かつてアトモスフィアは大好きなバンドでしたし、ストラータとアトモスフィアはいろいろ関係が深いのかなと。

GP:そのとおりだよ。『ストラータスフィア』の綴り(STR4TASFEAR)はアトモスフィア(ATMOSFEAR)と同じで最後が「FEAR」となっているだろう? それがひとつのヒントだよ(笑)。

B:当時はライバル関係にあったバンドもいて、セントラル・ラインやハイ・テンションなどはインコグニートのライバルだった。だがアトモスフィアは違って、私たちにインスピレーションを与えてくれる存在だった。そのおかげで、アトモスフィアに対してはいまでも親愛なる感情を抱き続けている。

GP:ブリット・ファンクについて語るとき、忘れてはならないのは最近亡くなってしまったアンディー・ソイカだ。彼がDJとしての僕に初めてタダでレコードを送ってくれたんだ。僕が15か16歳のころ、いろいろなレコード会社に手紙を書いていたんだ。「自分はDJで、大勢の前で音楽をかけている」って嘘をついてね(笑)。そしたら(レーベルもやっていた)アンディーはプロモ用の12インチを僕に送ってくれたんだ。レヴェル42の “サンドストーム” とパワー・ラインの “ダブル・ジャーニー” という曲が入った両A面のシングルで、とても良いレコードだった。レーベルは〈エリート・レコーズ〉。僕にとっては嬉しくも、懐かしい思い出がある。それに、彼とはサッカーをやる機会もあったんだ。アンディーはミュージシャンたちが作るアマチュア・サッカー・リーグの審判を務めていたから、そのときに彼と初めて会った。僕は当時、自分のレーベル〈トーキン・ラウド〉のチームでサッカーをしていたんだ。とにかくアンディー・ソイカのレガシーは素晴らしいもので、彼はアトモスフィアのバンド・リーダーだっただけでなく、〈エリート・レコーズ〉を運営していたから、レヴェル42とレコード契約をして、彼らのファースト・アルバムのプロデューサーも担当していたと思う。それから、エキサイティングなストリート・ソウル系のレコードも数多く出していた。実はちょうど昨日、ストリート・ソウルのリイシュー盤が届いたところなんだ。ビヴァリー・スキートの7インチだよ。

B:彼女はインコグニートでもヴォーカルを務めてくれた。

GP:このような80年代初期のレコードが再び人気を博している。ストリート・ソウルと言われる音楽をいまかけている若い世代の人たちがいるということなんだ。だからいま、リイシュー盤が出ているんだよ。そういう形でアンディー・ソイカの輝かしいレガシーが受け継がれている。アトモスフィアは、フリーズと同様に普通という枠からはみ出ていたという印象があったね。アトモスフィアは比較的エレクトロニックで、実験的で、ダークで、それはそれで面白かった。その一方でフリーズはニュー・ウェイヴ色が強かった。アトモスフィアとフリーズは、従来のブリット・ファンクとは少し違う感じがあって、そういうところが僕には魅力だった。もちろん従来のブリット・ファンクも大好きだけどね。

B:アトモスフィアはピーター・ハインズがメンバーだったし、フリーズは私も結成に関わったバンドだよ。初期のメンバーだったんだ。そして今は、ピーターも私もストラータにいる。

GP:ハインズが一緒にステージで演奏してくれたら最高なんだけどな。彼はやってくれそうかい?

B:いや……

GP:スタジオでの演奏を好むほうか。

B:そうだな。ステージだと疲れるかもな。

ブルーイを軸に、ピーター・ハインズ、マット・クーパー、スキ・オークンフル、フランセスコ・メンドリア、リチャード・ブル、フランシス・ハイルトンなど、ファースト・アルバムの面々がそのまま参加していますが、今回はゲスト・ミュージシャンが多くフィーチャーされている点が特徴です。まず、オマー、ロブ・ギャラガー、ヴァレリー・エティエンヌと、アシッド・ジャズ時代から長い付き合いの友人たちが参加していますが、彼らにはどのように声をかけたのですか?

GP:最初から計画されたものではなかったよ。

B:計画なんて全くなかった。ファーストでもなかったし、今回もなかった。これが私たちのコミュニティであり、私たちの世界なんだ。周りの環境なんだ。近所に住んでいる仲間もいるし、仕事仲間もいる。みんな私たちの知り合いであり、私たちの世界の人間なんだ。だからさまざまなミュージシャンが自然に思いつく。このプロジェクトの話をしているときだけでなく、日常生活でも彼らの名前が出てくるからね。たとえばクラブに遊びに行ったときや、フェンダー・ローズのプレゼンテーションを「ロニー・スコッツ」でやったときでも、私が例として名前を挙げたミュージシャンが実際に5、6人くらいクラウドのなかにいるとか……そんなことがしょっちゅうあって、彼らと現場で話したりする。それがロンドンの素晴らしいところなんだ。このレコードは、さまざまなミュージシャンたちのハブであるロンドンで作られたものなんだ。ロンドンはいまでも才能ある人たちが世界各地から集まる坩堝なんだよ。シオ・クローカーが今回のアルバムに参加することになったのは、シオがロンドンでギグをやったときに観に行ったことがきっかけだった。ジャイルスにそのライヴに誘われるまで、そんな会場がロンドンにあることさえ知らなかったよ。あのころはコロナの真っ最中だったけど、私たちはライヴに行ってパーティーを楽しんだのさ。

GP:今回はアヌーシュカも参加していて、彼らは当時のフリーズを彷彿とさせるから面白い。僕は彼らのアルバムを〈ブラウンズウッド〉からリリースしたことがあるし、彼らの最近のアルバムは〈トゥルー・ソウツ〉から出ている。そのアルバムにお気に入りの曲があって、僕はその曲をラジオでかけていたから、曲のリミックスをしてくれないかとアヌーシュカに頼まれたんだ。そこでブルーイと僕でリミックスを作った。良いリミックスができたから、ストラータのアルバム用のヴァージョンをもうひとつ作ろうということになった。そこでアヌーシュカの曲のストラータによるリミックスではなく、ストラータがアヌーシュカをフィーチャリングする曲を作ったんだ。違うヴァージョンなんだけど、アヌーシュカの曲を使っている。それも自然な流れで思いついたことだけど、今回のアルバムに入れたらいいと思った。アヌーシュカはブライトンを拠点にしているミュージシャンなんだけど、とてもクールで、感じのいい人たちなんだ。
 ヴァレリー・エティエンヌが参加してくれたのも素敵だった。彼女はブルーイのシトラス・サンというユニットでヴォーカルを務めていたし、いまではジャミロクワイのシンガーのひとりとして活躍しているなど、素晴らしいキャリアの持ち主だ。彼女も……

B:すぐそこに住んでるんだよ。

GP:そうなんだ、ご近所さんなんだよ。そして、ロブ・ギャラガーと結婚している。ロブはストラータのアルバムのアートワークもやっているんだ。“ファインド・ユア・ヘヴンズ” という曲では、彼は歌詞も担当している。非常に素晴らしい詩人であり作詞家だからね。ロブは作詞家としても幅広く活躍していて、エヂ・モッタなどにも歌詞を提供している。

B:スキ・オークンフルにも歌詞を提供していたよ。

GP:そうだったね。それからエマ・ジーンが参加してくれたことも良かった。彼女はアーティストとしても特異な存在だからね。彼女がどのように貢献してくれるのかわからなかったけど、僕たちが用意した音源にヴォーカルだけでなく、トランペットなどを加えたりして素晴らしい曲を作り上げてくれた。

B:私たちの音楽に花とキャンドルと紅茶を加えてくれたのさ(笑)。

GP:とても素敵だったよね。オマーの参加も良かった。周りの人は「オマーには何を歌ってもらうんだい?」と聞いてきたけど、オマーにはヴォーカルじゃなくて、シンセを弾いてもらいたかった。

通訳:ちょうど次の質問がオマーについてです。

“ホワイ・マスト・ユー・フライ” でのオマーはてっきりリード・ヴォーカルをとると思ったのですが、そうではなくシンセサイザーを演奏していて驚きました。どうしてこの起用になったのですか?

B:この曲を作っているときに、何か要素を加えたいと思っていて、私たちで「ファン・ファン・ファーン♪」みたいな変な音を口から出していたんだ(笑)。それでお互いを見て、「なんでこんなことやってるんだ!? オマーにやってもらおう!」と言って、変な音を出すことが得意な彼に連絡を取ったんだ。

GP:オマーの全体的な音楽性は賞賛に値するし、〈トーキン・ラウド〉からリリースした作品も最高だ。その後はアメリカのシーンでも活躍して、エリカ・バドゥやコモンなどと共演したりして、素晴らしいキャリアを築いている。アメリカでも大人気だ。スティーヴィー・ワンダーとも共演したよね。しかもオマーはものすごく優れたプロデューサーでもあるんだ。

B:ミュージシャンとしても卓越している。腕の良いミュージシャンという枠を超えている。私が知っているなかで最も才能のあるミュージシャンのひとりだと思っているくらいだ。作曲も譜面に起こしてできるし、ストリングス向けの作曲もできるし、ブラスのアレンジもできる。彼のアレンジ能力はまるでチャールス・ステップニーのようなんだ。彼は真の逸材だよ。

GP:いまはイギリスのテレビ番組にも出演しているよ。「イースト・エンダーズ」という有名なテレビ番組に出ているんだ。

通訳:それは知りませんでした!

GP:イギリスでいちばん有名なソープ・オペラだよ。僕はまだ観ていないんだけど、出ているらしい。ブルーイは見たかい?

B:ああ、知ってるよ。オマーが殺されたかどうかまでは知らないが。ソープ・オペラは酷い結末じゃないと意味がないからな(笑)。

一方で “トゥ・ビー・アズ・ワン” ではあなたがヴォーカルを披露していますね。これも意外でしたが、どんなアイデアから歌おうと思ったのですか?

GP:僕は強制的に歌わされたんだ(笑)。

B:バック・ヴォーカルに、「作業中の男」の荒っぽい声を入れたくてね(笑)。

GP:とても楽しい経験だったよ。歌が下手な人でも、まあまあ上手いように聴こえさせることのできるとても良いツールがエンジニアのためにあるなんて、いままで知らなかったよ! だから僕の声も悪くなかった。でもライヴではできない。絶対に失敗する(笑)! でもレコードを聴くと、自分の声だと認識できるよ。

通訳:私もあなたの声だとわかりましたよ!

GP:そうかい、なら良かった。エンジニアの人たちはいい仕事をしてくれたよ。あれが最初で最後の機会だね。いや、じつは以前にも一度ある。これはジャーナリストの人がディグったら面白がるかもしれない。僕の別名のひとつにアンジェロ・へクティックというのがあるんだが、その名義で “フォー・オール・ザ・ガールズ・アイヴ・ラヴド” という名の曲を7インチで出している。(ロブ・ギャラガーが運営する)〈レッド・エジプシャン・レコーズ〉からのリリースとして入手可能だよ。最近ではかなり値が上がってるみたいだけどね(笑)。

通訳:それは貴重な情報ですね。ありがとうございます!

オマーらヴェテランの一方で、エマ・ジーン・サックレイ、シオ・クローカー、アヌーシュカといった若いアーティストも参加しています。特にエマとシオはジャズの新しい世代を牽引するアーティストとして注目を集めているのですが、彼らをゲストに迎えた意図はどんなものですか?

GP:僕はシオのことをけっこう前から知っていて、僕が日本に行くときは上海にも寄って、上海でDJをやっていたことがあったんだけど、そのときに彼と会ったんだ。シオは上海に何年か住んでいたんだよ。不思議な出会いだった。彼は僕がDJしているクラブに来て、一緒にジャムしていたんだ。毎回とても楽しいセッションだったよ。その後、 彼はディー・ディー・ブリッジウォーターと仕事をすることになって、彼女は彼のメンターになった。しかも彼の曾祖父はめちゃくちゃ有名なジャズ・トランペット演奏者なんだよ。名前が……なんだっけなあ。ルイ・アームストロングとかそれクラスの人だよ。そうだ、ドック・チーサムだ! だからシオはすごい血統から来ている。スタジオでの彼を見ても一目瞭然だよ。ワンテイクで済ませたからね。

B:しかも頭も相当キレる。ロサンゼルスのライヴでは、その場でラップもしはじめて……シオというアーティストにはものすごい尊敬の念を抱いているんだ。

GP:シオはJ・コールなどの大御所ラッパーたちとも一緒に仕事をしているよね。エマ・ジーン・サックレイも興味深い人物だ。彼女はこないだ日本でライヴをしていたよね。彼女のアルバムを買おうと、日本人のお客さんが長い列を成している画像を見た。あんな光景は初めてだよ! 彼女は唯一無二の存在で、彼女のようなアーティストはほかにいない。ジャズ・シーンに属してもいない。属してはいるんだけど、属してもいない。独自の道を歩んで、自分でなんでもやってしまう。仕事としてクラシックの室内管弦楽団のストリングスの演奏も引き受けられるし、クラシックの作曲もできる。ポップ・ソングを作ることもできるし、本当にさまざまな領域で才能を発揮できる人だ。それが彼女をとても刺激的なアーティストにしていると思う。

B:自由奔放という印象があるね。それに彼女のキャラクターも大好きなんだ。ずっと一緒にいたいと思うような人なんだよ。ジャズ・アワードに出席したときも、彼女の隣に座ってずっとおしゃべりしたいと思った。

偉大なジャズ・ミュージシャンはルールに従わなかった奴らばかりだ。ファラオ・サンダースが登場したときも、彼はルールに従わなかった。他のミュージシャンが出しているサウンドと同じようなサウンドを出したくなかったんだよ。(ブルーイ)

“ファインド・ユア・ヘヴンズ” はディスコ・ブギー調の曲で、ストラータとしては、多少は新しい領域だと思われるかもしれない。でもそのシーンも当時は人気で、ディスコ・ブギーとブリット・ファンクは密接に関連していたんだ。(ジャイルス)


アヌーシュカをフィーチャーした “(ブリング・オン・ザ)バッド・ウェザー” やエマ・ジーン・サックレイをフィーチャーした “レイジー・デイズ” など、今回のアルバムはヴォーカル面にも重点を置いたメロディアスな楽曲が目立ちます。ある意味でインコグニートにも通じる楽曲だと思いますが、ファーストからセカンドに向かう中で歌について何か意識した点はありますか?

B:俺はまさにそういう理由(インコグニート風になってしまう懸念)から、ヴォーカル面に関してはプロデューサーとして一切関与していないんだよ。ヴォーカルに関しては、ヴォーカルを担当した人自身にプロデュースを任せたんだ。そのほうが、私がプロデューサーやアレンジャーとして、自分のアイデアやヴォーカルやメロディや歌詞の方向性を持ち込んで作り上げるヴォーカルよりも、彼ら自身のヴォーカルが作れると思ったから。彼ら自身にメロディを作曲して歌を歌ってもらい、彼らの考えやサウンドを表現してもらうようにした。だから今回のレコードは特別なものに仕上がっていると思う。

GP:たとえば “ファインド・ユア・ヘヴンズ” はディスコ・ブギー調の曲で、ストラータとしては、多少は新しい領域だと思われるかもしれない。でもそのシーンも当時は人気で、ディスコ・ブギーとブリット・ファンクは密接に関連していたんだ。シェリル・リンなどのレコードは当時のDJがよくかけていたからね。

B:この曲を初めて聴いたときには少し戸惑ったよ。ロブとヴァレリーがまとめていたものだった。ロブが作曲してヴァレリーが歌っていたからね。ジャイルスとスタジオに入るとき、じつは私にはすでに自分でイメージしていたヴォーカルの方向性やメロディの方向性があった。だが、そういう案は彼らに送ったり聴かせたりしないで、彼らのやりたいようにやらせることにした。だから彼らのヴァージョンを聴いたときには、想定外のものができていて、少し驚いた。でも曲を聴いていたら、曲の終盤には「これは特別な作品ができたな」と確信に変わっていたよ。

GP:エマ・ジーンの “レイジー・デイズ” に関しては、デモがすごくエキサイティングで僕は大好きだった。あれはマット・クーパーが主に作曲したものなんだよ。

B:ああ、彼がバック・ヴォーカルの大部分を作曲した。

GP:とても良いデモができたから、これをエマ・ジーンに渡そうということになった。そして彼女がさらに曲を展開して全く違う、素晴らしい曲に仕上げてくれた。あの曲は面白いフェイズを経て完成したよね。

B:そうだったな。

“ヴァージル” はヴォーカル・ヴァージョンとありますが、これはもともとインストのヴァージョンがあったのですか? なお、この曲に見られるようにホーン・セクションの人数が増えて、ファーストよりさらに分厚く、ゴージャスなサウンドになった印象があります。

GP:そうかもしれない、インストのヴァージョンがあるなあ! それは近日リリース予定。まだはっきりとは言えないけど、ボーナス・トラックとしてあるんだよ(笑)。

今後もサード・アルバムなど継続的にストラータは活動していくのでしょうか? 今後の展望や計画などを教えてください。

B:じつを言うと、私はジャイルスとスタジオに行くのが恐ろしいんだ。スタジオに行ったらサード・アルバムの制作がはじまってしまうからな(笑)。

GP:僕はジャパニーズ・ヴァージョンのアルバムを作りたいな!

B:もし私にロサンゼルスで2、3曲作らせてくれるならやってもいいぜ。ロサンゼルスで一緒に仕事をしたいミュージシャンを何人か見つけたんだ。

GP:それはまた別のプロジェクトだよ。

B:本当にすごいミュージシャンたちなんだ。君も絶対に惚れ込む。シオと一緒に演奏しているミュージシャンたちだよ。

GP:それもやろうじゃないか。でも、ジャパニーズ・アルバムも作るべきだよ。

B:ジャパニーズ・アルバムか、よし。

GP:僕は絶対にジャパニーズ・アルバムを作りたい。

通訳:それは素晴らしい企画ですね。日本のファンは大喜びしますよ!

GP:日本にはレジェンドがまだ何人か健在だからね。若手もいるし。

B:でもジャイルスは焼酎を飲みすぎるから、そこだけ気をつけてもらわないと(笑)。

GP:お行儀良くしますよ(笑)。

通訳:その企画が実現したら最高ですね! 今日はおふたりともお時間をありがとうございました。

B:年末にインコグニートで来日するから、そのときに会えるのを楽しみにしているよ。

通訳:そうなんですね。では日本でお待ちしています。ありがとうございました!

質問・序文:小川充(2022年11月10日)

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Profile

小川充 小川充/Mitsuru Ogawa
輸入レコード・ショップのバイヤーを経た後、ジャズとクラブ・ミュージックを中心とした音楽ライターとして雑誌のコラムやインタヴュー記事、CDのライナーノート などを執筆。著書に『JAZZ NEXT STANDARD』、同シリーズの『スピリチュアル・ジャズ』『ハード・バップ&モード』『フュージョン/クロスオーヴァー』、『クラブ・ミュージック名盤400』(以上、リットー・ミュージック社刊)がある。『ESSENTIAL BLUE – Modern Luxury』(Blue Note)、『Shapes Japan: Sun』(Tru Thoughts / Beat)、『King of JP Jazz』(Wax Poetics / King)、『Jazz Next Beat / Transition』(Ultra Vybe)などコンピの監修、USENの『I-35 CLUB JAZZ』チャンネルの選曲も手掛ける。2015年5月には1980年代から現代にいたるまでのクラブ・ジャズの軌跡を追った総カタログ、『CLUB JAZZ definitive 1984 - 2015』をele-king booksから刊行。

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