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interview with Jockstrap

interview with Jockstrap

UKメタ・ポップ・ミュージックの魅力

──ジョックストラップ、インタヴュー

取材・文:小林拓音    通訳:青木絵美 写真:小原泰広   Sep 08,2022 UP

 男性用下着を名乗る彼らが最初に注目を集めたのは、2018年のEP「Love Is The Key To The City」だった。ストリングスを効かせたラウンジ・ミュージックとグリッチという、ある意味で対極のものを融合させるアイディアは、現在の彼らの音楽性にも通じている。すなわち、ある既存の音楽をもとの文脈から切り離し、自分たちの感性に引きつけて再構築すること。いわばメタ的なポップ・ミュージックである。それを理屈優先ではなく、自然にやってのけているところがジョックストラップの強みだろう。
 ともにギルドホール音楽演劇学校に通っていたふたり、ヴォーカリストでありヴァイオリニストでもあるジョージア・エラリーと、プログラミング担当のテイラー・スカイから成るロンドンのデュオは、その後〈Warp〉と契約。「Wicked City」など2枚のEPを送り出したのち〈Rough Trade〉へと移籍、このたびめでたくファースト・アルバムのリリースとあいなった。
 初のアルバムではほとんどの曲にヴァイオリン隊がフィーチャーされている一方、多くの曲で電子ノイズやパーカッションなどが単調さを遠くに退けている。先行シングル “Concrete Over Water” に顕著なように、展開の読めなさもまた彼らの武器だろう。
 ときにシュールでときにロマンティックなエラリーの詞にも注目しておきたい。そもそもジョックストラップなるバンド名がそうなわけだが、「自分に触れると/いつだってわかる」(“Glasgow”)のマスターベーションのように、通常「(女性がそれを)公言するのは好ましくない」とされるセクシュアルな表現を遠慮することもない。“Greatest Hits” では「想像して 私はマドンナ」と歌われている。飾らずに官能をさらけだすスタンスも、本作の魅力のひとつだ。
 クラシカル、ジャズ、ハウス、ダブステップなどなどの小さな断片が違和感なく調和した、このみずみずしいエレクトロニック・ポップがどのように生み出されたのか、BCNRの一員として来日していたジョージア・エラリーに話を聞いた。

ダブステップはとてもエモーショナルだし、音の幅を広げるというか、どこまで動物的でモンスターみたいな音にできるか、みたいなおもしろさがあると思います。

今回はジョックストラップの取材ですが、先ほどBCNRのチャーリー・ウェインとメイ・カーショウの取材に立ち会ってきました。フジロックはどうでしたか?

ジョージア・エラリー(Georgia Ellery、以下GE):環境もいいし、お客さんもじっくり聴いてくれたし、ステージのセットアップもよくて最高でした。

日本は初めてですか? どこか行かれましたか?

GE:素晴らしいですね。東京大好きです。こんなに熱帯的でトロピカルとは思っていませんでしたけど、暑いのは好きだから。街も刺戟的で、ファッションもとてもすてき。

いまイングランドも熱波到来でめちゃくちゃ暑いですよね。

GE:湿気は向こうのほうが少ないんですが、暑いといろいろ故障しちゃったりするんです。暑すぎて電車が走らないとか。古い線路だと、一定以上の温度になると危ないみたいで。最近はコーティングをして熱対応にしているみたい。すごく不便ですね。

暑さでライヴに支障が出たりはしないんでしょうか? 曲順がトんだりとか。

GE:(フジの)ステージ上はちょっと暑かったけど、それほど大変ではなくて。ちょうどわたしたちの出番のときに曇ってきたから大丈夫でした。虫が楽器に止まったりして良かったです。

ジョックストラップの結成は2017年です。バンド名が一風変わっていますが、どのようなコンセプトではじまったプロジェクトなのですか?

GE:じつはバンド自体よりも先に、名前が決まっていたんです。ヘヴィ・メタルのバンド名が大好きで、「ジョックストラップ」ってどこかアイアン・メイデンみたいにエロティックな感じもあるし、ハードコアな感じもあるから。もともとわたしが考えていたコンセプトがあって、テイラー(・スカイ)に「こういう名前で考えているんだけど、一緒にやらない?」って聞いたら「いいんじゃない?」ってすぐOKしてくれました。おかしな話だけど(笑)。でも母親は「え!?」って。「なんでそんな名前にしたの」みたいな(笑)。でもスポティファイにもそんな名前のひとはいなかったし、いいかなって。

どういう音楽性のバンドにするかも決まっていたんですか?

GE:初めはどういうサウンドになるかぜんぜんわかりませんでした。わたしがつくったデモをもとに、テイラーがプロダクションを加えるかたちで。彼のプロダクションがどういうものか、フェイスブックにクリップみたいなものを上げていたから、だいたいはわかっていたけど、それらが融合したときにどういうものができるかは、そこまでよくわかっていなかった。

エラリーさんが作詞・作曲、スカイさんがプロデュースの担当ですが、作詞・作曲を済ませたあとは彼に任せる流れですか?

GE:最初は個別でつくるんですが、テイラーのつくってきたプロダクションを聴かせてもらって、ふたりとも気に入ったものがあった場合はそれを追求していく。それからふたりでエディットしながらいいものへと仕上げていくんです。互いが互いの作詞・作曲、プロダクションに興味があるから、ふたりでゴールを定めて共同作業していく感じかな。

先にトラックがあって、それに味つけしていくというパターンもあるのですか?

GE:今回のアルバムではそういう順番でつくったものが何曲かあって、“50/50” って曲なんかはテイラーのトラックの上にわたしが重ねていく、という手法をとりました。

いま話に出た “50/50” は「アー、エー、ウー、イー、アー」と母音で歌い上げるのが印象的です。これにはなにか参照元などがあったのでしょうか?

GE:彼が聴かせてくれたサンプルがあったんですが、それにたいするわたしの解釈が母音みたいだなと思ったから。

リリックはどのようなプロセスで書くのでしょうか?

GE:リリックを書くときはいつも、詩みたいに短い感じで書きます。内容としては、自分が個人的に体験したこと……自伝って言うのかな、そこで生まれた感情を受け入れたいときに、詩的に書く。それがリリックのベースになっていますね。

リリックを書くうえで、小説や詩など文学を参照することはありますか?

GE:シルヴィア・プラスというアメリカの詩人。彼女はシュールなイメージの自伝的なものを書いています。あと、おなじくアメリカの作家の、キャシー・アッカー。スリルのある近代的なライティング・スタイルで、散文やストーリーを書くひとです。

今回リリックでもっとも苦労した曲はどれですか?

GE:“Debra”。これも最初にトラックがあって、それにリリックを載せていきました。ビートがかっこよかったから、その要素に合わせていい歌詞を書きたいと頑張っていたんだけど、すごく難しくて。結局、ゲームの『あつまれ どうぶつの森』の内容についての歌詞になりました(笑)。

わたしたちは1曲1曲がヒット曲みたいなものをつくりたい

『あつ森』はふだんからけっこうプレイしているんですか?

GE:かなりね(笑)。

『あつ森』もその一種に数えられることがありますが、最近はメタヴァースが話題です。そういった仮想空間でアヴァターを介してコミュニケイションをとることについては、どう思っていますか?

GE:わたしはあまりほかのひとと一緒にはやらずに、ひとりでやることが多いんですが、やっぱりその空間は完璧なヴァーチャル・ワールドで、とても心地いい。一種の逃避ですね。インスタグラムのヴァージョンでフォロウするのが楽しくて、よくやっています。

もし『マトリックス』の世界のようにテクノロジーが発展したら、そちら側の世界で暮らしてみたいと思いますか?

GE:バランスが重要ですよね。難しいことにも直面するだろうし。

これはスカイさんに訊くべき質問かもしれませんが、ほとんどの曲に変わった音だったりノイズだったりが入っていますし、展開がまったく読めなかったり、実験的であろうと努めているのがわかります。ただ気持ちのいいポップ・ソングをつくるのではなく、実験的であろうとするのはなぜでしょう?

GE:テイラーはつねに新鮮なサウンドを求めていて、そこに刺激を感じるひとなんです。いままで聴いたことのあるものだとつまらないと感じるタイプだから、いつもじぶんの限界に挑戦して、聴いたことのない音を追求していますね。彼は11歳のころからプロダクションをやっていて、自分のスタイルに磨きをかけているひとだから、非常に独特な方法で(サウンドを)追求しているし、そんな彼を尊敬しています。

彼はどういった音楽から影響を受けたのでしょうか?

GE:確実にダブステップだと思う。わたしもそうなんだけど、そこからいちばん影響を受けているかな。ダブステップはとてもエモーショナルだし、音の幅を広げるというか、どこまで動物的でモンスターみたいな音にできるか、みたいなおもしろさがあると思います。あと、ブロステップやハウスからも影響を受けていますね。

取材・文:小林拓音(2022年9月08日)

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