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interview with Mars89

interview with Mars89

未来のための音楽

——Mars89、インタヴュー

取材・文:野田努    写真:小原泰広   Jul 07,2022 UP

ダークなものとか、憂鬱なものに対して、それをそのまま発散させたいというか。ポジティヴに変換するということ自体が嘘臭く感じてしまった。なので、閉じの感じがそのまま出ています。

■作るときはどんな感じで作ってるの?

Mars89:作るときは、最初は簡単なリズムから打ちはじめて、ずっと座ってるよりは途中で動き回ったりして。その動きをまた曲に落としこんで、という感じです。

■あと、今回は違うけど、バスドラの音をパーカッションのように使うじゃない? あれはなんで?

Mars89:なんなんでしょうね。システム(・カルチャー)の音楽って低音域のヴァリエーションがすごいじゃないですか? あれに憧れがあって、ジャングルみたいにブレイクスの下で伸びるサブ(ベース)もやってみたいし、ダブステップみたいなサブが伸びてその隙間で他のパーカッションが鳴って、みたいなのも好きだし、もっとインダストリアル・テクノみたいにゴリッとした低音が響くのも好きだし、ニューウェイヴみたいなもっと乱雑に打ったものも好きだし、というところで、いろいろ良いとこどりして組み合わせを探ってる感じですかね。

■その自分のインダストリアルなところってどこからきてるんだと思う?

Mars89:元を辿ると、幼稚園くらいの頃に『AKIRA』にめちゃくちゃハマったことが大きいんじゃないかと思います。

■幼稚園! 

Mars89:最初は映画で、そのあと親が芸能山城組のサントラを持っていたので、それをよく聴いてました。あれはガムランとか使ったバリ島の音ですけど。

■幼稚園で、ディストピアを知って(笑)。

Mars89:そうですね(笑)。映画のイメージがやっぱり強かったんです。乾いた瓦礫だったりとか、そういう世界観が。もう少し大きくなってからは『パトレイバー』や『攻殻機動隊』も好きでしたけど。

■ぼくの世代は幼稚園でウルトラマンやウルトラセブンだったけど、ある程度大人になってから、作品の意味を理解したりするものだよね。

Mars89: そうですね。ぼく、関西出身なんですけど、小さい頃に阪神淡路大震災があって、そこらじゅう瓦礫だらけだったというのもあります。

■どの辺りに住んでたの?

Mars89:兵庫県の伊丹市です。

■じゃあ思い切り直撃したんだ。それ、何歳の頃?

Mars89:小学校入る直前とかで、『AKIRA』を観ていた時期ですね。『AKIRA』のなかで都市が瓦礫だらけになるじゃないですか。現実でも高速道路とか落ちて瓦礫だらけだし、というので、あんまり遠い話じゃなくてけっこう身近な話として見ていたのかもしれない。実家は崩れはしなかったんですけど、家のなかはめちゃくちゃになって、しばらく知り合いの家に避難したりしてました。おじいちゃんおばあちゃんがやっていた商店が潰れたりとか。そういう世紀末感がある時代ではありましたね。テレビつけたらノストラダムスやってたりとか。「酒鬼薔薇事件」もあったし。

■あれも神戸だっけ?

Mars89:はい。あとはサリン事件もあったりとか。だから、なんか常に世紀末感があったのは覚えてます。

■そういう瓦礫の世界への郷愁がある?

Mars89:郷愁というよりは恐れに近いと思うんですが、自分のなかには瓦礫の世界が常にある感じはしています。視覚的なものだと、例えば、いま笹塚で中村屋の工場を崩して半分瓦礫になってるんですけど、その後にショッピング・モールとタワマンが建つことになっています。でも、そんなタワマンよりも、いまの瓦礫のほうが美しく感じます。新宿のNEWoManができるときも、建設途中の鉄骨剥き出しのほうがいまの状態より美しいと思ったりしたんで。そういうコントロールされ切ってない状態へのフェティシズムはある気がします。それとは別にある意味、いまも瓦礫の世界を生き抜こうとしているというような意識もあって。この瓦礫を共有する者たちで支え合って、新しい世界を想像したいと言うような気持ちと言うか。コミックのほう『AKIRA』でも最後に市民の力で瓦礫のなかから新しいものが生まれようとしてましたし。

■街の再開発に対する嫌悪感というか、違和感があると。それは『Visions』のテーマでもあるよね。でも、アルバムにはいろいろなテーマが詰まってるでしょ?

Mars89:いままでの人生で考えたことをギュッと詰め込んでいますね。

■アルバムには、「カラスやネズミと暮らしている都市の生活者に捧げる」というようなことも書いてあって、それはどういうことなの?

Mars89:例えば朝の渋谷でクラブから這い出てくると、同じくどこからともなく出てきたネズミやカラスと道で一緒になるじゃないですか。嫌がる人も多いけど、実はそこで一緒に生きているはずなんです。例えばバンクシーもたくさんネズミを使うじゃないですか。あれも、いないことにされているけどそこに一緒に暮らしてる人へのオマージュだったりしますし、そういう感覚です。

■なるほど。音楽の話に戻ると、シングルで出した「Night Call」とアルバムは繋がっている?

Mars89:あれは〈SNEAKER SOCIAL CLUB〉から出したんですけど、やっぱりグライムやダブステップのようなUKの都市の音楽を、自分のローカルな都市に当てはめて作ってみようと思って。

■それで "North Shibuya Local Service" なんだ。

Mars89:そうですね。幡ヶ谷の近辺でずっと生活してたので、ああいうタイトルになりました。あとは、ちょうどコロナ禍に入ってすぐ、自警団みたいなのが夜も開けてる店を叩いてまわっていたり、宮下パークがオープンしたのもその頃だったので。(「Night Call」では)そのローカルな都市の情景を自分なりに描いてみたいな、と。

■で、なぜダブステップをやろうと思ったの?

Mars89:元々別のレーベルからオファーがあって、BPM140のEPを作って欲しいと。そのBPMで自分が面白いと思うものを詰め込んでみた、という感じです。だから、実はダブステップを作ろうという気持ちはなかったんですよ。

■なるほど。でもそれと同じことをアルバムではやらなかった。作ってる時期は重なってるわけでしょ?

Mars89:ほぼ同じですね。でも『Visions』のほうはより自分のプライヴェートな作品という色が強いんじゃないかな。

■自分の生活みたいな?

Mars89:生活とか、自分の好きだったものとかを含めたこれまでの人生から、その先に向けて、という。半分以上は自分に向けて作っているような気持ちです。それに比べて「Night Call」はもっと外に向けて作っているという違いですかね。

■「Night Call」は、やっぱりダンスフロアに向けて作っている感じだよね。『Visions』には内省的な部分もあるし、同時に攻撃的な過剰さがあるんだけど、ただ、全体的にダークで、ただここまで妥協無しでダークサイドを突っ走るのはしんどいんじゃないかと思ったんですけど。

Mars89:あの時期、精神状態的にはどうしてもダークにならざるを得なかったんです。それとダークなものとか、憂鬱なものに対して、それをそのまま発散させたいというか。ポジティヴに変換するということ自体が嘘臭く感じてしまった。なので、閉じの感じがそのまま出ています。

■このダークさは何を反映してるんでしょう?

Mars89:基本的には、コロナ禍に入ったというのが大きいでしょうね。そのなかで自分個人というより、社会と向き合って絶望的な気持ちになった。とはいえ、生きていかなきゃいけないし。自分が生きてかなきゃいけないだけじゃなくて、みんなが生きていかなきゃいけないし。都市生活者に向けて、「けっこうヤバいけど生きていこう」という感じです。

■コロナ禍になって、生きるってどういうことだろうとも考えたよね。

Mars89:そうですね。ただ生命があることが生きるということなのか、という。

■では、アルバムのなかのアグレッシヴな感覚はどこからきてるの?

Mars89:この状態での破滅への願望とか、自滅への願望と、それと正反対の生きていくんだ、という気持ちのせめぎ合いがアグレッシヴな部分に反映されているのかもしれない。

■内面の葛藤みたいな。

Mars89:そうですね。

■曲順というのもこのアルバムでは大切なんでしょう?

Mars89:そうですね。一応ストーリーがあります。

■最後2曲が、激しいカオスから、それとは違うところへ行こうとしてるような印象を受けましたね。

Mars89:そこは野田さんがレヴューに書いてくれた通り、カタストロフィーが訪れている最中ではあるけど、その先にある希望に向かって一歩踏み出したい、という気持ちがあります。

■ドラムンベースぽいフレーズがあるけど、それもストレートに展開するのではなく、断片化して、コラージュ的に使ってるじゃない?

Mars89:今回どの曲でも、けっこういろいろなパーツを細切れにして断片的に使っているんですが、例えば、ドラムンベースのハードなパーティとかウェアハウスでのレイヴとかがYouTubeの画面の向こう側の世界になっている。自分が欲している世界と、自分のいる世界とのあいだに、ディスプレイというどうしようもない物体があって。で、求めているけどなかなか手に入らないというプレッシャーに押し潰されそうな感覚があるんです。距離感が縮まらない感じを表現したかったというのはある。

取材・文:野田努(2022年7月07日)

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