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interview with Bibio

interview with Bibio

思い出の魔法使い、初期フォーク作を振り返る

──ビビオ、インタヴュー

質問・文:小林拓音    通訳:原口美穂   Mar 18,2021 UP

ループは手で操作され、不完全であったということ。でも、ぼくはそれが魅力的だと思ったし、エレクトロニック・ミュージックがどんどん完璧になっていっていたあの当時は、すごく新鮮にも感じた。

■このアルバムのなかだと “Black Country Blue” が、テープ音によってつくられたミニマルなアート作品のようで異色に感じました。これはどのようにしてつくられたトラックなのでしょう?

B:『Hand Cranked』で何度も使ったテクニックのひとつは、レコーディングしたものをカセットに移し、それをまたコンピューターに戻して、それをカセットに戻して、そしてまたそれをコンピューターに戻し、またそれをカセットに……という繰り返し。それを繰り返せば繰り返すほど、よりロウファイになっていったんだ。

■「フォークトロニカ」ということばは、『Hand Cranked』をあらわすのにふさわしいと思いますか?

B:いや、ぼくは「フォークトロニカ」ということばが好きじゃない。この作品はエレクトロニック・アルバムではないと思う。もちろんエレクトロニックなデヴァイスを使ってはいるけど、そういう意味ではビートルズだって使ってるよね。

■あなたを〈Mush〉に紹介したのはボーズ・オブ・カナダのマーカス・オーエンです。なぜ彼はあなたのことを、クラウデッドなどのリリースで知られるアンダーグラウンド・ヒップホップのレーベルに推薦したのだと思いますか?

B:当時ぼくは彼と連絡をとっていて、彼がぼくの音楽を気に入ってくれていたんだ。で、ぼくが「だれにデモを送っていいものかわからない」と彼に話したら、彼がいくつかアメリカのレーベルを勧めてくれた。で、〈Mush〉が興味を持ってくれて、プロモーションのためにマーカスからなにか一言もらえないかとぼくに尋ねてきた。そしたら彼が親切に承諾してくれて、ちょっとした文章を書いてくれたんだ。

■あなたにとってボーズ・オブ・カナダはどういう存在だったのでしょう?

B:1999年にぼくが彼らの音楽と出会ったころは、すごく大きな存在だった。もちろんあのノスタルジックな要素もすごくパワフルだけど、彼らの音楽には隠された参照と意味がある。それが、リスナーの「もっと深くこの音楽を探りたい」という気持ちを駆り立てるんだ。もうひとつ好きだったのは、テープのようなハイファイのギアを使ってサウンドを加工しながら、昔っぽいダメージがかったサウンドをつくる技術。それに、彼らはよく、一度しか姿を見せない小さな要素を曲のなかに加えていた。あれは、彼らの音楽をより中毒的にしている要素のひとつだと思うね。

■2004年、あなたと契約したことを伝える〈Mush〉の文章では、「もしボーズ・オブ・カナダがインクレディブル・ストリング・バンドや初期ティラノザウルス・レックスをプロデュースしたら」と表現されています。それについて、いまどう思いますか?

B:うーん、それはぼく自身が書いたものではないと思う。ぼくはそういった描写があまり好きではないから。でもまあ、変わってるっていう意味ではありがたく思うかな。

■“Ffwrnais” とはウェールズの村で、あなたにとってとてもたいせつな場所だそうですね。“Marram” の鳥の鳴き声もそこに近い砂丘で採ったとか。あなたにとってウェールズとはどのような地域なのでしょうか?

B:ぼくが田舎に魅了された大きなきっかけはウェールズ。ウェールズには、小さな子どものころからずっと通い続けているんだ。とくに中部と西部。子どものころは、ウェールズの田舎で時間を過ごすのが大好きでいつも楽しみにしていた。空気は新鮮だし、芝は青いし、あのカントリーには、あそこでしか得られないヴァイブがある。いくつか似たヴァイブをもった場所に行ったことはあるよ。日本にもそんな場所がある。でも、ウェールズにはあの場所独特のユニークな個性があるんだ。個人的にはとくに渓谷や森のなか、渓流の側なんかにいるのが大好きだね。ああいった場所は、活気と自然のサウンドに満ちているから。ウェールズは湿地だから、ランドスケープが青々としていて、渓谷や森ではコケと地衣類をたくさん見ることができるんだ。あと、ヒツジの鳴き声はウェールズならではのサウンド。朝になると、キャンピングカーのなかで、モリバトやクロウタドリ(blackbird)のさえずり、ヒツジの鳴き声、川が流れる音を聴き、湿った芝生の匂いを感じながら目が覚める。それらは全部ぼくにとってマジカルなもので、すぐさま魂を元気にしてくれるんだ。ファーニス(Ffwrnais)は滝がある小さな村で、友だちと何度かキャンプをしにいって、すばらしい時間を過ごした。あのエリアを参照したトラックタイトルはほかにもある。“Dyfi”(ダビ)もそのひとつで、アイルランド海に続く谷を流れるメインの川の名前なんだ。エイニオン川(river Einion)はクーム・エイニオン(Cwm Einion)を流れる小さな川で、ファーニスの滝をとおりすぎて流れていき、ダビ川(river Dyfi)につながっている。アラスニス・ビーチ(Ynyslas beach)も近くにあって、砂丘、金色の砂、マーラム(植物)が広がるビーチで、春や夏には、砂丘の上で鳴くヒバリのさえずりが聞こえるんだ。

■このころはまだヒップホップのビートはとりいれていませんが、『Hand Cranked』の時点でJ・ディラやMFドゥーム、マッドリブの音楽にはもう出会っていたのですか?

B:彼らの音楽にはもう少し後で出会った。『Hand Cranked』の大半は2005年までに仕上がっていたんだけれど、『Fi』のほうが古かったから、先にそっちをリリースしたかったんだ。あと、当時のぼくはまだビートをつくることにじゅうぶんな自信を持っていなかった。そして、その少し後になってぼくはAKAIのサンプラーを買い、それからディラの影響が作品のなかに入ってくるようになったんだ。

■また、このころはまだご自身ではほとんど歌っていません。このアルバムでは唯一 “Aberriw” にだけ歌が入っています。当時この曲だけヴォーカルを入れようと思ったのはなぜ?

B:当時のぼくは、シンガーとしてはものすごくシャイだった。どんなふうに歌いたいかもわかっていなかったし、ほかのひとたちに囲まれて歌うのも嫌だった。自信がつくまでに何年もかかったし、訓練を積む時間を必要だったんだ。いまはスタジオもあるし防音だから、だれかに聴かれてることを気にせずに、その部屋のなかで好きなだけ歌える。だから歌にもっと時間を注げるようになったし、シンガーとしてより自信もついたし、前よりもずっとうまく歌えるようになった。でも、オーディエンスに観られながらステージの上で歌うまでの自信がつく日が来るのは想像できないな。

■今回ボーナスとして5曲が追加されます。なかでも “Cantaloup Carousel” は1999年の録音とのことで、あなたの原点といってもいいトラックのように思いますが、『Fi』収録のものとはだいぶヴァージョンが違いますよね。それぞれのヴァージョンにどういう狙いがあったか、教えてください。

B:“Cantaloup Carousel” ができたのは、ビビオという名前がつくよりも前のこと。大学の寮でレコーディングしたんだよ。なぜ『Fi』の別ヴァージョンをつくろうと思ったのかはわからない。じつは『Fi』のあのヴァージョンは、オリジナルとしてレコーディングで同時につくられたものなんだ。そのオリジナルをテープに録音して、それをスローダウンした。あのオリジナル・ヴァージョンはつねにぼくのお気に入り。だから、いまあの作品を世界にリリースすることができてすごく嬉しく思っているよ。

■『Hand Cranked』は、ぜんまいじかけのおもちゃや回転木馬の模型など、手回しの装置がテーマだそうですね。それらは機械のようでもありますが、こちらでなにかをしないと動きませんし、いつか止まってしまいます。そういった「不完全さ」に惹かれるのはなぜでしょう?

B:あれはどちらかというと音楽がまずできあがって、それがそういった装置を思い出させ、そこに魅力を感じたんだ。ぼくが使用したサンプラーにシーケンサーはついてなかったし、サンプルを量子化する方法はなかった(たとえばタイミングを正すとか)。つまりそれは、ループは手で操作され、不完全であったということ。でも、ぼくはそれが魅力的だと思ったし、エレクトロニック・ミュージックがどんどん完璧になっていっていたあの当時は、すごく新鮮にも感じた。ループする不完全なギター・フェイズがぼくに手回しの装置を思い起こさせる理由は、スピードが不安定であることと、アコースティックのサウンドがぼくにはすごく木の質感を感じさせるから。だから、ヴィクトリア朝の木製の機械仕掛けのおもちゃのイメージが想像されるんだよね。

■15年後、あなたはどんな音楽をつくっていると思いますか?

B:おっと! これは難しい質問だ。検討もつかないよ。そして、だからこそ昂奮する。15年前のぼくは、自分が〈Warp〉からさまざまなアルバムのコレクションをリリースすることになるなんて思ってもみなかった。自分が歌っているとも思っていなかったし、ミュージック・ヴィデオに出たり、ポップ・ソングをつくってるなんて想像もできなかった。だからぼくはただ、これからも川の流れに身を任せ続けるつもり。まだまだ掘りさげたいことがたくさんあるし、それがぼくの関心を保ち続ける。でもぼくは同時に、すでに学んだこと、すでにつくりだしたものをふたたび訪れることも好きなんだ。だから、『Fi』で使った技術や装置はいまだに使われているし、守られている秘密なんだよ。

質問・文:小林拓音(2021年3月18日)

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