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P/A/D/O MASSACRE

P/A/D/O MASSACRE

@幡ヶ谷forestlimit

2024年1月17日(水)

文・写真:松島広人 Feb 08,2024 UP

 オンライン上でもオフライン上でも陰惨な出来事ばかりが否応なしに目に入り込む日々が続く2020年代、僕はせめてもの救いを求めて毎週のようにクラブの扉に手をかけるようになった。
 パンデミック期──具体的には感染者が日本で最初に確認された2020年1月16日から2023年5月8日(偶然にも自分の誕生日だった)まで──に、どうやって「密かに営業していた場所」を発見したかについてはまた別の機会にいつか記すとして、僕はこの時期に人生そのものがグリッチする不思議な体験を通過し、いまはDJとライターの二足のわらじを履くワーキング・プアとして生活を続けている。
 といっても、別にそんなことは特別な話でもなんでもなく、この世界で暮らすあらゆる人がウイルスの流行を機に自身の生活や価値観を見直さざるを得なかったのがここ数年のこと。音楽とはすなわち人の血の通った、生きることと密に結びついている営みだから、シーンを取り巻く環境や価値観、それらを包括する景色も社会不安とともに一変したのが「アーリー・2020s」の混乱期だったのではないかなと思う。

 もちろん、そのなかで出会った物事のすべてが絶望的だったわけではなく、パンドラの箱の底に希望が残されていたように、鬱屈とした日々を支えてくれる出来事や人びとに何度も邂逅した。僕は希望を、幡ヶ谷の〈FORESTLIMIT〉(フォレストリミット)というクラブと、そこで毎週水曜日に開かれる〈K/A/T/O MASSACRE〉(カトーマサカー)というデイ・パーティで見つけた。2010年にディープで暖かみのある実験的なサウンドが鳴らされる場として立ち上げられたこの小箱は、インディペンデントな美学とともに粛々と営業を重ねながらつねに進化を続ける稀有な空間だ。風営法にまつわる事情でナイトライフが窮地に立たされれば深夜営業をいち早く取りやめ、コロナ禍で追い詰められれば配信スタジオにその姿を切り替え、音楽と人の営みを信じ抜き、どうにか今日も存続し続けている。

 〈K/A/T/O MASSACRE〉は、そんなフォレストリミットで2014年ごろからほぼ毎週水曜欠かさず開催されているウィークリー・パーティ。今年で10周年を迎え、その開催総数は460回超。ジャンルやシーン、国境をも問わず毎週まったく違った景色を見せてくれる、東京のアンダーグラウンドなクラブ・シーンを活性化し続ける催しだ。このパーティでは、その日デビューを飾る新人とシーンの中枢を担うアーティストがひとりの音楽を愛する人間として並列に交わり、階層のないフラットなフロアがつねに提供され続けている。今回はそんな〈K/A/T/O MASSACRE〉とアナキズムを掲げるポスト・パンク・バンド PADO のコラボレーション企画について記録していく。

 〈P/A/D/O MASSACRE〉と題された本回を主導した PADO は、ロシアン・ドゥーマー・ミュージックやポスト・パンク、ノー・ウェイヴなどの影響下にあるスリーピース・バンド。現在制作中のファースト・アルバムは「資本主義に対する無気力な抵抗」をテーマとしており、鬱屈とした社会へ明確なアゲインストを掲げている。PADOは本回を開催するにあたって掲げたステートメントのなかで、

アナキズムとは詰まるところ、「隣人が私の家の柵を修理してくれている時、隣人のためにカレーを作り、隣人がカレーを作ってくれた時は、隣人の子に本を与え物語を読み聞かせる」ことである。

 と宣言している。人と人との間にあるはずの慈愛による相互扶助を信じてみようよ、というシンプルながら力強い発信で、その意志を実践すべく当日フォレストリミットでは現金だけでなく物々交換によるグッズの取引がおこなわれていた。

 もちろん、言うまでもなくクラブの運営やパーティの開催という営みは、それがどのような形であっても「資本主義の内側」でおこなわれる。本当の意味で(資本主義の)「外側」に達しうる音楽の営みは、フリー・エントランスもしくはドネーションを頼りに無許可でおこなわれるスクワット・レイヴぐらいだろう。それでも、どうにかして資本主義という壁の外側を目指すことはできないのか? という挑戦的な意志が明確に示されていて、僕はその姿勢に賛同を示す意味でも手元のドリンク・チケットを物販のライターと交換してみたりした。エントランスの横にはフリー・物々交換ブースもあり、こちらには最初何冊かの本やアクセサリーが置かれていたが、終わりごろには数枚のレコードなどに変わっていた。それは美しい移ろいだと思う。

 今回の出演者は PADO のほか、ライヴに東京で血の匂いとともに独立独歩の活動を続けるハードコア・パンク・バンド moreru を迎え、DJにはコレクティヴ〈XPEED〉のファウンダーを努め、コロナ禍のユース・レイヴ〈PURE2000〉を手掛けるなど2020年代シーンの潮流をいち早く形成した AROW(亜浪)、インドア・クィア・レイヴ〈Ximaira〉や脱構築ネオ・ゴスパーティー〈魑魅魍魎〉などを主催する deadfish eyes、クィアネスに連帯するレイヴ〈SLICK〉を運営する Mari Sakurai、「Trance cult gov-corp」を自称するレイヴ・クルー〈みんなのきもち〉が出演した。「レイヴ」「自主性」「孤立」などのエッセンスを共通項として集った面々の多くはフォレストリミットとも縁深い存在であり、幡ヶ谷の地下室に自然と集まるうちに気づけば自身がDJブースに立っていたという出自を持つ、パンデミック世代の表現者たち。明確な意思表示はなくとも、現状への異をそれぞれが唱えているようなラインナップが集う、記録的な日となった。

 オープンを飾ったのは deadfish eyes の90分セット。BPMこそハイだがつねにダウナーでゴシックな空気感が漂っており、本回への強い想いを感じさせるアクトだった。鬱屈とした怒り、美学、信念がロング・セットのなかに凝縮されたような。
 続く AROW はハイピッチなBPMを引き継ぎつつ、徐々に自身のメイン・フィールドであるダブ・テクノ~ベース・ミュージックへとフロアを引きずりこんでいく。各アクトがコロナ禍以降のユース層からたしかな支持を得ていることもあり、前衛的で粘り気の強いサウンドとダークな雰囲気に反し次から次へと人が押し寄せてくる。

 60分後、moreru のアクトに切り替わったタイミングでは会場のドアが閉まらなくなるほどギャラリーで溢れ返り、もはやライヴを鑑賞するというより熱気の渦に飲まれるしかない状況に達していた(2010年代の中頃、高円寺スタジオドムに200名以上が集っていた GEZAN 主宰のイベント〈セミファイナルジャンキー〉の匂いを思い出すような)。平日のデイタイムにここまでの熱狂が自然と生まれる、という意味でもやはりマサカーは特別な場所だと改めて感じた。
 moreru の出番が終わり、カオティックな熱狂を引き継ぐのは、アンダーグラウンドに軸足を置きつつオーヴァーグラウンドな領域にもその手腕で自由に行き来するDJ・Mari Sakurai。テクノを軸にさまざまなジャンルを横断してきた東京のクラブ・シーンを彩る才人であるが、とくに2020年代以降始動した〈SLICK〉などを入口にユースからの厚い支持も集めている。根底にパンキッシュなマインドを持つ氏はテクノを主軸にゲットーの香りが漂う危険なエレクトロなどを織り交ぜ、一旦人の引いたフロアのムードを巧みに再構築していき PADO のライヴへとバトンを渡す。

 主役である PADO のライヴは硬質なサウンドに怒りや悲哀を忍ばせつつ、あくまでも粛々と演奏を続けることに徹していたことが印象的だった。エンタメ的な仰々しさ、演じることをあえて廃し、それでもなお立ち現れる情感を表現しているように。そもそもドゥーマー・ミュージックとはインターネット・ミームから生まれた概念で、そこにはDOOM=破滅、死、悲運といった抑鬱的なニュアンスが横たわっている。絶望感をもってして、それでも希望を伝えていくために必要なのは虚像ではなく、フロアや日常生活と地続きである、という実像をさらけ出すことなんだろうか。
 そして、ラストを飾ったのは〈みんなのきもち〉によるロング・セット。今回は複数の構成員のなかから、主導者・Ichiro Tanimoto と新鋭・Shu Tamiya の2名によるB2Bが4時間以上にわたって披露された。かつて、僕はさまざまな電子音楽を「トランス美学」的な解釈で届ける彼らにただひとつ欠けているものがあるとすれば、それはユートピアでもディストピアでもない「ただの現実」と向き合うための生々しさだろうな、と密かに思っていたけれど、ユースは加速度的に成長する。〈みんなのきもち〉という集団は、すでにヴァーチャルな世界観に収まりきる存在ではないことを、長尺のなかで自然と証明するような地に足のついたプレイだった。ストロボライトの眩い光のなか、トランシーな音像のテクノを主としたセレクトでフロアの身体性を呼び起こし、最後にはユーフォリック、あるいはエピックなトランス美学へと立ち返っていく。

 と、いう流れで音が止まったのは翌日木曜、午前4時過ぎごろのこと。音楽が止めば後は朝食でも摂りながら始発を待ったりするのが普通のことだろうけど、それでも残った数十人は決して帰ろうとしない。それこそが〈K/A/T/O MASSACRE〉、観客もアーティストも極限まで消耗し、あとに残るのはボロボロになりながらも音楽を笑顔で求める幸せなフロア・ゾンビたち。結局、僕を含めた数名のDJによってパーティは2回戦、3回戦とおこなわれていき、すべてが終わったのは朝7時半ごろだった。ラストこんな夜が人知れず平日にずっと繰り返されていて、数えきれないほど多くの人びとになにかを与え続けている。そして、なにかを与えられた我々も、次に訪れる人びとへバトンを渡し続ける。音楽は人の血が通った営みであり、それはどれだけ巨大であろうと、どれだけ微細であろうと同じなはず。そう信じていたい、という人は、ぜひ一度フォレストリミットへ足を運んでほしい。この場所こそが真にフラットなダンスフロアである、ということは、ドアを開けたらわかるはず。

文・写真:松島広人