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Zoh Amba

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Sun

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野田努 Sep 04,2025 UP

 ゾー・アンバを意識したのはずいぶん遅い。昨年の紙エレキングで書いたように、Beingsなるプロジェクトで出した『There Is a Garden』からで、ぼくなんかよりも若々しい感性をもったリスナーは、2022年、彼女がジョン・ゾーンのレーベルでデビューしたときからチェックしているのだろう。Beingsから聴いたのもアンバのリスナーとしては非正統的かもしれない。これはスティーヴ・ガン(説明は不要だろう)、シャハザード・イスマイリー(マーク・リボーのバンドで知られる)、ジム・ホワイト(ダーティ・スリー)らと組んだバンドなのだ。
 Beingsの『There Is a Garden』は、ギャラクシー500めいた陶酔のギター・サウンドにヴィブラートの効いたアンバの悲鳴にも近いサックスが叩きつけられる、端的に言えばポスト・パンク的にササクレだったジャズ・アルバムだった(彼女は歌ってもいるし、ギターを弾いてもいる)。いっぱつで引き込まれる音楽とはまさにこれで、ことにアンバの表情豊かなサックスには心揺さぶられ、それからである、このずば抜けて魅力的なアーティストを聴くようになったのは。

 だいたい、グラミーなどと騒がれているプレイヤーの多くがジュリアード音楽院卒だったりしている今日の「ジャズ」という括りのなか、テネシー州の山村の、決して平穏とは言えなかった家庭に生まれ、森のなか独学によってサックスの練習をしたアンバに物語が生まれ、それがひとり歩きしてしまうのも無理からぬことだろう。これは21世紀の話である。12歳だった彼女がサックスを手にしたのは、吹奏楽の授業でチャーリー・パーカーの映像を見たことがきっかだった。それから彼女はYouTubeで、ジョン・コルトレーン、コールマン・ホーキンス、レスター・ヤングの演奏を繰り返し聴き、そして偉大なる幽霊、アルバート・アイラーを心の師と決めた。音楽学校に進学もしたが馴染めず中退している。スピリチュアルなフリー・ジャズに突進するアンバにとってのジャズとは、制度のなかで学ぶモノではなかった。そもそも、10代にしてドイツのフリー・ジャズマン、ペーター・ブロッツマン(彼女にとってのもうひとりの師)に手紙を送るような若者を、教室の椅子に縛り付けることなど昔もいまも不可能なのだ。

 Discogsを見ると彼女には、わずかこの3年ですでに10枚以上のアルバムがある。そのなかにはキューバ出身の打楽器奏者、フランシスコ・メラとの共作も含まれている。主にエレクトロニック・ミュージックとフリー・ジャズで知られるオスロのレーベル〈スモールタウン・スーパーサウンド〉(ブロッツマンの2000年代の作品を同レーベルは出している)からリリースされた本作『Sun』は、ザ・サン・クァルテット——ドラマーのミゲル・マーセル・ラッセル、ピアニストのレックス・コルテン、ベーシストのキャロライン・モートン——としては初のアルバムで、冒頭から〝震え〟をもって賛歌を奏でると、そして現在25歳のサックス奏者の膨大なエネルギーが爆発する。
 アンバの感情の強度は並大抵のものではない。「女版アイラー」とは彼女に付いた安直なレッテルではあるが、この荒々しくも切なくもあるエネルギーの激流があふれ出ると、あながち間違いではないように思えてしまう。クァルテットは、後期コルトレーンのスピリチュアル・ジャズの心のもっとも奥深いところから吐き出すような、あのすさまじい〝説明しようのないうねり〟を招来している。“Champa Flower”という曲ではアメリカの民謡(フォーク)に根ざしたギターを弾き、“At Noon”ではセレナーデを奏でるが、アルバムはまたしても震えるような精神のざわめきへと流れるように向かう。
 アンバは自ら本作をこう解説している。「この音楽があなたの心の奥深くまで届き、そこからもっとも美しい喜びと愛、好奇心の庭を咲かせてくれることを願っている。(略)私の心はいまも、ピーター・ブロッツマンがこの宇宙に投げかけた深い光のなかに座している。私は毎朝、彼の霊を聴いている。この音楽は、絶えず変化しながら太陽の彼方を目指そうとする魂の反映にすぎない」

 たびたび言われていることだが、フリー・ジャズというジャンル用語は、ある時期から「フリー・ジャズという形式の音楽」という、「過去の音楽」なのに「現代音楽」などという矛盾と似たようなジャンル用語になっている。この音楽が、1960年代のように伝統や慣習を脅かすような強烈さを持ち得ているかと言えば、わからない。坂田明のような、なおもその〝炎〟を宿しながら比類なき境地に達しているサックス奏者もいる。そうだ、ぼくはこのアルバムのジャケットを見て、なんだかアリ・アップみたいだと思った。こんなにはつらつとした生命感を感じるアートワークが過去のフリー・ジャズ/スピリチュアル・ジャズにあったのかどうかも、ぼくにはわからない。わかっているのは、自分がこの先も彼女の音楽を聴き続けるということ。奔放にほとばしるゾー・アンバの物語は、まだはじまったばかりなのだ。


野田努