ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Interview with Tomoro Taguchi パンクって……何をやったらいいかわからない人、若い人たちにヒントと引き金を与えてくれた音楽であり、考えさせる音でしたね。
  2. 別冊ele-king J-PUNK/NEW WAVE-革命の記憶
  3. TechnoByobu ──「攻殻機動隊」テクノ屏風、特典は士郎正宗書き下ろしステッカー
  4. MODE ——来る6月、Moinが初来日ライヴを披露することが決定
  5. Protest Music Special 『別冊ele-king 音楽が世界を変える──プロテスト・ミュージック・スペシャル』刊行のお知らせ
  6. 別冊ele-king 音楽が世界を変える──プロテスト・ミュージック・スペシャル
  7. Columns 「ハウスは、ディスコの復讐なんだよ」 ──フランキー・ナックルズの功績、そしてハウス・ミュージックは文化をいかに変えたか  | R.I.P. Frankie Knuckles
  8. heykazmaの融解日記 Vol.5:弥生˚⟡˖ ࣪ ひとりごつ✌️
  9. Lee "Scratch" Perry & Mouse on Mars ──リー・スクラッチ・ペリーとマウス・オン・マーズによる共作が登場
  10. butaji - Thoughts of You
  11. Leila Bordreuil + Kali Malone - Music for Intersecting Planes | レイラ・ボルドルイユ、カリ・マローン
  12. Ego Ella May - Good Intentions | エゴ・エラ・メイ
  13. Columns Introduction to P-VINE CLASSICS 50
  14. Jane-B ──METAFIVEなどで知られるゴンドウトモヒコ、その“別人格”ジェンビーがアルバムを発表
  15. DADDY G(MASSIVE ATTACK) & DON LETTS ——パンキー・レゲエ・パーティのレジェンド、ドン・レッツとマッシヴ・アタックのダディ・Gが揃って来日ツアー
  16. Mitski - Nothing's About to Happen to Me | ミツキ
  17. interview with Autechre 来日したオウテカ──カラオケと日本、ハイパーポップとリイシュー作品、AI等々について話す
  18. Laraaji × Oneohtrix Point Never ──ララージがワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの来日公演に出演
  19. FESTIVAL FRUEZINHO 2026 ──気軽に行ける音楽フェスが今年も開催、マーク・リーボウ、〈Nyege Nyege〉のアーセナル・ミケベ、岡田拓郎が出演
  20. R.I.P. 横田進  | Susumu Yokota / ススム・ヨコタ

Home >  Reviews >  Album Reviews > yanaco- Leaving / Arriving

yanaco

AmbientDowntempo

yanaco

Leaving / Arriving

Pヴァイン

Bandcamp Amazon P-Vine

土佐有明 Aug 18,2025 UP

 先日、打楽器奏者の高田みどりさんにインタヴューする機会があった。筆者のような若輩者にとってはレジェンドと言える存在である。いや、筆者ならずとも、昨今、日本の環境音楽の大家として世界的に注目され、東京藝術大学音楽学部器楽科で教鞭をとってきた現在73歳の彼女から音楽ファンが学ぶことは多いに違いない。なんせ、今をときめく打楽器奏者の角銅真実や石若駿も藝大で彼女のレッスンを受けているのだ。特に角銅は、彼女の講義がいかに印象深かったかを筆者に熱っぽく語ってくれたことがある。

 当然、含蓄に富む彼女の語りには、筆者自身、背筋を伸ばして聴き入らざるを得なかった。それ以来、83年にRCAからリリースされ、彼女の再評価のきっかけとなったアルバム『鏡の向こう側』を繰り返し聴いていた。アンビエントや環境音楽やミニマル・ミュージックなどと形容されることの多い同作だが、本人はそうしたカテゴライズをした覚えはなく、そのような形容にくすぐったさと違和感を同時に覚えているようだった。

 yanacoという東京の電子音楽家のアルバム『アローン・トゥゲザー』を初めて聴いたのは、ちょうどそんな折だった。アンビエントや環境音楽、ミニマル・ミュージックなどをひとつのスープに溶かし込んだスタティックなサウンドは、そんな筆者の気分に絶妙にフィットした。彼の音楽を構成している要素が、たまたま高田みどりのそれと相通じるところがあったからかもしれない。あるいは、『鏡の向こう側』の虜になっていた筆者のリスナーとしてのモードが、yanacoの感受性とシンクロしたからかもしれない。いずれにせよ、両者は無意識にせよ(というかおそらく無意識だろうが)、同じ海から塩を採っているようにしか思えないのだ。

 カテゴライズを拒む、というのも両者が似ている点だろう。笹久保伸が参加しているんじゃないか?と思った(していなかった)“Raw Circle”。北欧ジャズの雄ジョン・ハッセルがラッパを吹いているのかと思った(吹いていなかった)ら、石若駿のAnswer To Rememberの一員である佐瀬悠輔の演奏だった“Lone Star”。坂本龍一の未発表曲と言われても信じてしまいそうな“Beauty in Imperfection”。アフリカン・パーカッションとダブの融合のような“Boundary”。名は体を表わすじゃないが、曲名が内容を雄弁に物語る“Nagi/凪”など。聴けば聴くほどひとつのジャンルに収斂せず、むしろ拡散してゆくようである。終盤に向かうにつれ、ますますその傾向は強くなってゆく。

 ひとつのジャンルに括れない、というのは、その言い方自体が既に手垢にまみれたクリシェであり、あまり使いたくはない。ないのだが、ポスト・クラシカルもジャズもダブもミニマル・ミュージックもアンビエントも環境音楽も同一線上に捉えたようなモザイク状のサウンドは、最後まで手の内を明かしてくれない。といっても、もちろんそれが不快というわけではなく、心地よい裏切りを途切れることなく与え続けてくれるのだ。まだこんな引き出しもあったのか、今度はこれか?と1曲ごとに驚きと発見がある。だから繰り返し聴いてしまうのだ。

 すでにベルギーのレーベルURBAN WAVESから着目され、EPとアルバム2枚をリリースしているyanacoは、セカンド・アルバム『Leaving/Arriving』収録曲の“Leaving”が、グラミー賞候補になったこともあるカミラ・カベロにサンプリングされたという実績もあるそうだ。だが、そうした前情報はなくてもいい。yanacoは『鏡の向こう側』を聴いたことがあるかもしれないし、ないかもしれない。耽溺していたかもしれないし、高田みどりの名前すら知らないかもしれない。それは問い合わせればすぐわかることであるが、まあ、そんなことはこの際どうでもいいだろう。この静謐でフラジャイルで内省的な音楽を前にしてはどうでも、どちらでも、いい、と思えてきてしまうのだから──。

土佐有明