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ALCI & snuc

DubHip HopReggae

ALCI & snuc

5bitRecords SMELLTHECOFFEEWORKS

二木信 Feb 02,2024 UP

 東海地方を拠点に全国各地を飛び回り活躍するラッパー、ALCIとDJ/ビートメイカー、snucの11曲入りの共作の主題は明確──レゲエ/ダブとヒップホップの融合だ。アフロの要素を散りばめつつ、ルーツ・レゲエあるいはナイヤビンギ、UKのダブを、ある意味では忠実に吸収して表現している。レゲエとヒップホップという組み合わせ自体はいつの時代もつねにいろんな形であるものだが、彼らのルーツとなる音楽へのストレートな向き合い方が本作の最大の魅力で、それがラップの力強さとメッセージを際立たせている。

 1989年にブラジルで生まれ、日本で育ったALCIは、特定のビートメイカーとがっぷり四つで組んだソロ・アルバムをすでに3枚発表している。エレクトリック・ピアノの音を多用しジャズを基調としたISAZとのファースト『365』(2018)、すべての曲でブラジル音楽をサンプリングしたUNIBALANCEとのセカンド『獏-BAKU-』(2020年)、任侠映画めいたサントラ、ハードなジャズ・ドラム、〈モータウン〉の名曲などを用いて物語の起伏を作り出したMr蓮との『TOKAI KENBUNROKU』(2022)だ。また、兄のBRUNOとのラップ・デュオ=日系兄弟として、『ESTA EM CASA』(2015)をはじめ、『くだまく旅の途中』(2015)、『RIVERSIDE GYPSYS』(2016)、『Training Days』(2017)といった作品も残している。

 一方snucは、本作にも客演ラッパーとして参加するRHYDAと『FOODOO』(2021)と『MOGANA』(2023)という2枚の共作を出している。こちらは、ダンスホールやアフロビーツをはじめ世界各地のリズムを貪欲に用いて、RHYDAの縦横無尽に駆け抜けるフリーキーなラップのポテンシャルを引き出す独創的なベース・ミュージックだ。また、後者にはPART2STYLEのMaLによるジャングルのリミックスもある。

 そう考えても、『縁』は音数も抑制されて非常にシンプルだ。“CLEAN HIT” のダブ、硬く鋭いスネアからは〈ON-U〉、たとえばダブ・シンジケートの『Stoned Immaculate』を連想できるだろう。また、土俗的なパーカッションのループとナヴィゲーター役のBLACKJOKERのトークから成る “SKIT” はいわばナイヤビンギで、そのスキットに続く呪術的な雰囲気を醸し出す “JAZZ THING-縁-” はナイヤビンギ・ミーツ・ラップだ。ナイヤビンギとは簡単に説明すれば、ラスタファリアニズムを信奉するひとびとの集会であり、そこで演奏される音楽のこと。録音物となったナイヤビンギの古典といえば、2022年に〈ソウル・ジャズ〉が再発したミスティック・リベレーション・オブ・ラスタファリ『Grounation』が有名だ。

 たしかに『縁』と名付けられ、ナヴィゲーターを配して複数のラッパーやシンガーが次々に登場する本作は集会のようでもある。ALCIがポルトガル語でラップし、ラッパーのSulakとシンガーのカナミaka.Ms.Miiiが参加した “NATURAL BBB” は直球のルーツ・レゲエだ。ALCIのラップからは世俗的欲望を否定しないまでも、世のなかはそれだけじゃつまらないでしょう、と自身の内面を見つめようとする軽やかなスピリチュアリティが感じられる。“我々の世界” という曲で「反骨忘れず爆音の雨」と歌っているように、気持ち良い音楽だが、単なる体制順応的な音楽ではない。

 じっさい、既存の世俗的なゲームのなかで成り上がるストリート叩き上げのラッパーのサクセス・ストーリーや、その熾烈な競争の過程で勃発する小競り合いや罵り合いにときにぐったりしてしまうのは私だけではないだろう。知性と受け取られているものが、じつは論理のすり替えを厭わない世渡り上手の処世術でしかなかったのではないか。その差はあまりにも大きく深刻だが、“バズる” というアテンション・エコノミーの狂騒のなかではその違いにたいして重きは置かれない。そうした価値観がいま最先端という名のエスタブリッシュメントを形成しているようにみえる。生き抜くための努力や意地には何物にも代えがたい尊さがある。金や数字だって重要に決まっている。だから、ゲームの勝利者の栄光を腐したくもない。しかし、ゲームやルールは他にもあるだろうとは思う。

 数字のついてくる最先端や流行と呼ばれるものが、必ずしも時代の突破口となる新しい価値観を提示しているとは限らない。ルーツ・レゲエやダブに向き合ったALCIとsnucの『縁』は、そういうごく真っ当な感覚を持つひとたちに響く音楽にちがいない。ひと呼吸置いて、周りをゆっくり見渡してみれば、この作品のような “我々の世界” がまだまだ広がっているのだ。

二木信