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aus

ElectronicaModern Classical

aus

Everis

Lo Recordings / FLAU

デンシノオト May 16,2023 UP
E王

 アウス(aus)、約14年ぶりの新作がリリースされた。

 いや、そんな軽いひと言で済ませていい年月ではないだろう。14年はとても長い年月だし、アウスことヤスヒコ・フクゾノにとって辛い出来事を乗り越えていく時間だったのかもしれないのだから。
 だが何にせよ、「ゼロ年代以降のエレクトロニカ」を振り返るときに欠かすことのできない重要なアーティストが復活したのだ。困難を乗り越えてふたたび動き出したのだ。まずはそのことを心から祝福したい。

 そして何より新作アルバム『Everis』が普遍的な音楽性を持った作品だったことを心から喜びたい。どの曲も瑞々しさと音楽的成熟が同居している、そんなアルバムなのだ。
 モダン・クラシカル、ジャズ、フォーク、エレクトロニクスなどが交錯する新作『Everis』は美しくて、魅惑的で、しかし不可思議で多様な「音楽」の結晶体だ。もっと限定的にいうならば、エレクトロニカとモダン・クラシカルの融合、その洗練の極みとでもいうべきかもしれない。

 私が彼の音楽を最初に知ったのはご多聞にもれず2006年にリリースされた『Lang』だった。東京のエレクトロニカ・レーベル〈Preco〉からリリースされたアルバムだ。
 彼は『Lang』以前にも、ベルギーの〈U-Cover〉のサブレーベル〈U-Cover CDr Limited〉から『Kangaroo Note』(2004)と『Crowding』(2005)をリリースしている。加えて『Lang』と同年の2006年にもUSの〈Music Related〉から『Sonorapid』もリリースされている。
 だが、2006年の『Lang』には、「ゼロ年代エレクトロニカ」を象徴するような特別なアウラがあった。透明な電子音、繊細なサウンドスケープ、細やかなリズムの心地良さに惹きつけられたことを記憶している。海辺の陽光と捉えたアートワークも、「あの時代」のエレクトロニカの本質(自分はそれを電子音による日常のサウンドトラックだと思っている)をうまく表現していた。
 翌2007年にはイギリスの〈Moteer〉からコキユがヴォーカルで参加した『Curveland』をリリースする。2008年には〈Preco〉から『Lang』のリミックス盤『Lang Remixed』を発表した。
 そして2009年、ローレンス・イングリッシュの〈room40〉のサブレーベル〈Someone Good〉からザ・ボーツやグリムらと作り上げた『Light In August, Later』と、自身のレーベル〈flau〉からアルバム『After All』をリリースした。
 特に『After All』は重要作だ。シルヴァン・ショヴォー、コキユ、ゲスキア、リミックスにモトロ・ファームらが参加したこのアルバムはさながら00年代末期のエレクトロニカの総括のようなアルバムなのである。
 リリース当時は、どこか悲しみすら感じさせる音楽性に、私は『Lang』の作風との違いを感じて、最初こそ戸惑いはしたものの、これまでにない音楽的な広がりに驚き、結局は愛聴することになったことを覚えている。2013年に〈Plop〉からリミックス・アルバム『ReCollected - aus Selected Remixes』をリリースをして、リリースはいったん途切れることになる。むろん〈FLAU〉のレーベル・オーナーとして継続的に活動を続けていたので「沈黙」していたというわけではまったくない。

 アウスが動き出したのは、2023年に入ってからだ。まず、シングル「Until Then」をリリースし、次いでアルバムとしては約15年ぶりの新作『Everis』を送り出した。『Everis』を聴いてみると、『After All』と対になるような音楽を展開していたことに驚いてしまった。彼は、エレクトロニカを経由した「総合音楽」をずっと追求していたのだ。その間に、あの「空き巣事件」があり、音源データが盗まれるという悲劇に見舞われながらも、彼は彼の音楽をついに完成させた。
 新しいアウスの音楽もまた、これまでと同様に、モダン・クラシカル、ジャズ、フォーク、エレクトロニカなどの音楽が交錯し、聴くものを優しく、しかしエモーショナルな音楽世界へと連れていってくれる。同時に、彼の音楽性はより成熟し、より深みを増していた。
 前作『After All』が「夜」のアルバムとすれば、新作『Everis』は「昼」のアルバムとすべきだろうか。
 「昼」といっても何かと忙しいオンタイムの「昼」ではない。日々の雑事から解放され、ほんのひとときで暖かい陽光の中で日常の美しさを感じるような「昼」だ。その感覚は『Lang』から一貫している。
 じっさい、ストリングス、ピアノ、クラリネット、フルート、ドラム、声、エレクトロニクスが交錯する極上のアンサンブルは、まさに「光」としか言いようがない感覚を発している。もちろん単に明るいだけというわけではない。日常のなかに不意に現れる不思議な感覚のようなものも感じられるのだ(まさにアートワークのように!)。
 ゲストも多彩だ。ヘニング・シュミート、高原久実、ノア(Noah)、ダニー・ノーベリー、エマ・ガトリルなどの〈FLAU〉と縁の深いアーティストが多数参加し、加えてあのグーテフォルク、横手ありさなどの日本人(電子)音楽家、ハルダンゲル・フィドル奏者のベネディクト・モーセス、オーストリアの音響作家グリムというエレクトロニカ、モダン・クラシカルの音楽家たちが多数が参加している点も重要だ(個人的に驚いたのは、英国の即興音楽パトリック・ファーマーがドラムとハーモニウムで参加している点である)。

 全10曲、作曲・編曲・ミックスなどどれも完璧だ。2017年に起きたあの悲しく辛い事件のあと、楽曲データを喪失したアウスは、自身の心の奥にあるストーリーから音楽を作り上げようとしたという。本作がこれまでの作品以上にエモーショナルなのはそこに理由があるのではないかと思う。携帯電話に残っていたさまざまな環境音を用いつつ、過去と現在をつなぐ「記憶」のような音楽を構築したらしい。以下、各曲をみていこう。
 まず1曲目 “Halsar Weiter” では、声のエレメントと透明なカーテンのような持続音が重なり、少しづつ音に厚みがましてくる。やがて細かな環境音がレイヤーされ、ストリングス的な音も折り重なる。記憶を浄化するようなアルバムの入り口でもある。
 続く2曲目 “Landia” は、子どもたちの声のサンプル、シンセのフレーズ、リズム、環境音、横手ありさのコーラスが重なり、モダン・エレクトロニカとでも形容したいようなエレガントな音を展開する。休日の平和な公園のような「微かな多幸感」がたまらない。
 そのままシームレスに3曲目 “Past From” につながる。声のサンプルが流れ、ピアノのリズミカルなリフが奏でられる。やがて浮遊感に満ちたストリングスも鳴りはじめる。まるで「複数の音楽が同時に存在する」ような本作を象徴するようなサウンドだ。曲の終わり近くのストリングスもとても美しい。
 そして4曲目 “Steps” では、Gutevolk(西山豊乃)をヴォーカルに迎えたフォーク/クラシカル/エレクトロニカな楽曲を展開する。透明で澄んだ声とエレクトロニクスなどの音の交錯が素晴らしい。夜道に迷い込んでいくような深淵さもあり、アルバム中、もっともダークなムードを内に秘めている曲といえよう。
 さらに5曲目 “Make Me Me” は、オーストラリアのシンガーのグランド・サルヴォをゲスト・ヴォーカルに迎えたピアノと弦楽器を中心とするヴォーカル・トラック。慈悲深い声が優しく心に染み入る。
 6曲目 “Flo” は、横手ありさの声と静謐なエレクトロニクスが交錯する曲だ。アルバムの「深さ」「深淵さ」「夜」のムードを象徴するような曲ともいえよう。
 アルバムのクライマックスといえる7曲目 “Swim”、8曲目 “Memories”、9曲目 “Further” は、あえて解説を省略したのは、ぜひとも無心に聴いて頂きたいパートだからである。モダン・クラシカルとエレクトロニクスが交錯する圧倒的な音世界がここにはある。
 ラストの10曲目 “Neanic” は、柔らかく静謐なピアノに、ベネディクト・モーセスが奏でるハルダンゲル・フィドルのミニマルなアンサンブルが祈りのように重なっていく。アルバムのラストを飾るのにふさわしい曲だ。
 どの曲も繰り返しの聴取に耐える質の高い曲ばかりである。『Everis』は、リリース直後のみ話題になり、その後は忘れられるというような「消費される音楽」ではない。今後10年、ずっと聴き続けられるアルバムではないかと思う。
 ちなみにリリース・レーベルは英国の老舗レーベル〈Lo Recordings〉とアウス自身が主宰する優良レーベル〈FLAU〉からである。

 『Everis』、この美しい音楽が多くの人の耳に届き、それぞれの暮らしを彩ることを切に願う。それほどまでのアルバムだ。ゼロ年代エレクトロニカ以降の優しい音世界がここにある。

デンシノオト