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Tomoyoshi Date

Ambient

Tomoyoshi Date

438Hz As It Is, As You Are [あるがまま、あなたのままに]

laaps

小林拓音 Jan 11,2023 UP

 2022年、夏。日本ではブライアン・イーノの存在感が強まっていた。ゴージャスで華々しい大興行というわけではない展覧会「AMBIENT KYOTO」が想像以上の盛り上がりを見せたことは、暴力の吹きすさぶ大変な年にあって、落ち着いて物事を考えたいと願う人びとが多くいたことのあらわれだったのかもしれない。
 あるいは土壌が整っていたからとも言える。海外から眺めたとき、横田進や吉村弘など、日本はアンビエント大国に映るだろう。伊達伯欣(トモヨシ)もまた、盟友ともいえる畠山地平と並び、00年代後半以降の日本のアンビエントを代表するプロデューサーだ。その新作は、イーノ『Music for Airports』を想起させる。12月19日にリリースされた同作は、日本の人びとがあらためてオリジナルの「アンビエント」に向き合うことになった2022年を締めくくるにふさわしく、そして、年始のどこか虚ろなこのムードにも適した音楽に仕上がっている。

『Music for Airports』を継承しようとする意志は、2011年のセカンド『Otoha』にすでによくあらわれていた。ピアノ以外にもギターやヴィブラフォン、アコーディオンなど多くの楽器がフィーチャーされた賑やかなファースト『Human Being』(2008)から一転、思い切ってピアノの旋律とフィールド・レコーディングとの共存に力点を置いた『Otoha』は、現代において『Music for Airports』の復権と更新を宣言するアルバムだったと言える。いかに『Music for Airports』を継承し、発展させていくか──それが音楽家としての伊達の使命だ。単独名義としては3枚目となる『438Hz As It Is, As You Are』もその系譜に連なる、ピアノが印象的な作品である。端的に、すごくいいアンビエント・アルバムだと思う。
 本作は「古いピアノを438Hzに調律して録音し、レコードのピッチを、その時の気分に合わせて自由に調整する」というコンセプトでつくられている。彼史上もっとも音質にこだわった作品でもあるという。『Music for Airports』同様、曲数は4。デジタル版にはそれぞれの45回転と33回転、計8トラックが収録されている。
 かさかさと微細な具体音がピアノを引き立てる “光”。あたたかな音階にベルがさりげない彩りを添える “熱”。じっさいにフィールド・レコーディングされた水音を交えつつも、あくまでピアノでその穏やかさを表現する “水”。小刻みに震える電子音と鳥たちの鳴き声がコントラストをなす “土”。どの曲も穏やかで、やさしい。
 振り返れば、彼の関わる作品のほとんどは明るく平穏で、日だまりのような安らぎに満ちていた。ダークで重々しかったり、寂寥感を漂わせる類のアンビエントとは真逆のアプローチだ。伊達の朗らかなサウンドは、シューゲイズから影響を受け、ときにサイケデリックな表情を見せる畠山とも異なっている。2007年のデビュー作、すなわち畠山とのオピトープ(Opitope)のアルバムは、そんな両者のよい部分がうまく折衷された作品だった。
 現時点で4枚(うち1枚は坂本龍一との共演盤)を残すメイン・プロジェクト、コリー・フラーとのイルハ(Illuha)もそうだし、ベットウィーン(Between)やメロディア(Melodía)といったユニット、近年のスタン・フヴァール(Stijn Hüwels)や Asuna らとのコラボもそうだ。伊達のやさしさはおそらく、医者という職業よりもむしろ、彼の人柄に由来するものなのだろうと思う。それは本作のタイトル、「あるがまま、あなたのままに」ということばにもよくあらわれている。

 近年はクレア・ロウセイやウラ、フェリシア・アトキンソンといった才能が頭角をあらわし高く評価されている。そういった音楽のファンで、すでに20年近くこの国で活躍している伊達の音楽をまだ知らないひとは、ぜひとも彼に注目してほしい。それは、この暗いご時世にひとときのカームダウンを体験させてくれるからという理由だけではない。最初の「アンビエント」がどのような音楽だったのか、思い出させてもくれるから。

小林拓音