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Fuck What You Think

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大前至   Apr 10,2019 UP

 カナダ・トロント出身のK・カットとサー・スクラッチによって結成され、その後、ニューヨーク出身のプロデューサー/ラッパーのラージ・プロフェッサーが加入するという形でグループができ上がったヒップホップ・グループ、メイン・ソースによる1stアルバム『Breaking Atoms』と、ラージ・プロフェッサー脱退後にリリースされた2ndアルバム『Fuck What You Think』が、日本国内盤として再リリースされた。
 ピート・ロックやDJプレミアと並び称される、90年代のヒップホップ・ゴールデンエイジ(=黄金時代)のサウンドを作ったプロデューサーのひとりであるラージ・プロフェッサーだが、彼にとってもデビュー作となった1991年リリースの『Breaking Atoms』はプロデューサーとしての彼の名前を知らしめただけではなく、それ以降のヒップホップの流れを決定づけた一枚と言っても過言ではない。ジェームス・ブラウンなどに代表されるファンクのサンプリングを主体としていたヒップホップのサウンドプロダクションは、90年前後のデ・ラ・ソウルやア・トライブ・コールド・クウェストらの登場によって、サンプリングソースの多様化が進み、音楽的な表現がより豊かなものとなっていく。80年代後半に数々のヒップホップ・クラシックに携わりながら、89年に銃で撃たれ亡くなった伝説的なエンジニア/プロデューサーであるポール・Cの手ほどきを受け、十代からサウンドプロダクションのテクニックを一から学んだというラージ・プロフェッサーは、バラエティ豊かなサンプリングネタを、さらに複雑に組み合わせることで、もうひとランク上の音作りを実現する。『Breaking Atoms』からの先行シングルでもある“Looking At the Front Door”や“Just Hangin' Out”はこのアルバムを代表する曲でもあり、彼のプロダクション・スキルが特に際立った作品とも言えるが、当時感じた新鮮な輝きは、いま聴いても全く色褪せることはない。さらに“Just Hangin' Out”のカップリング曲でもあるポッセカットの“Live At The Barbeque”は、あのナズが世の中に出た最初の曲としても知られ、この曲がきっかけとなって、あの『Illmatic』が生まれたわけだが、この曲も含め、全体に充満したあの時代のニューヨークの熱気もまた、このアルバムの大きな魅力である。
 前述のようにメイン・ソースのメイン・メンバーであったはずのラージ・プロフェッサーの脱退後、80年代半ばからニューヨークのヒップホップ・シーンで活躍していたラッパーのマイキー・Dが新たに加入し、制作された『Fuck What You Think』。実はこの作品は当初はシングルのみリリースされただけで、アルバムとしてはお蔵入りとなったという、曰く付きの作品だ(1994年リリース予定がお蔵入りになり、その4年後に晴れて正規リリース)。その先行シングルである“What You Need”やおそらく日本限定でのシングル・リリースであった“Diary Of A Hitman”などを当時耳にしたとき、1stアルバムとの音楽的な違いに驚かされたことを記憶しているが、今回改めてアルバムを通して聴いてみると、意外なほど実に耳にフィットする。1994年といえば、ウータン・クランなどの登場によってヒップホップがよりハードコアな方向に進んでいた時期でもあり、彼らのこの方向性はある意味、時代にマッチしていたわけで、さらに20年以上越しに聴いてみると、当時、メイン・ソースの作品という先入観を持って接していたときのあの違和感はあまり感じない。ドラムとサンプリングネタがタイトに突き刺してくる先行シングル曲の“What You Need”や“Diary Of A Hitman”はもちろんのこと、ラージ・プロフェッサーの影響も多少感じさせるタイトル・チューンや、“Looking At the Front Door”と同じイントロで始まるポッセカット“Set It Off”など聞きどころも実に多く、「ラージ・プロフェッサー不在」という理由だけでスルーするには実に惜しい作品だ。今回の再リリースを機会に、短い期間の中での激しい時代の移り変わりも感じながら、1st、2ndともに聴いていただきたい。

大前至