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Swindle

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Swindle

No More Normal

Brownswood / ビート

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小川充   Feb 05,2019 UP

 これまでのスウィンドルの作品には過去と現在のさまざまな音楽が参照されてきた。昔の音ならスイング・ジャズのビッグ・バンドのホーン・セクションとか、1970年代のファンクやジャズ・ファンクなどを参照し、それを自身のバック・ボーンであるグライムやダブステップに落とし込んできた。出世作の“ドゥ・ザ・ジャズ”や“フォレスト・ファンク”を収録した『ロング・リヴ・ザ・ジャズ』(2013年)はそうしたアルバムだ。また世界中のいろいろな国をツアーで訪れ、そこに根づく音楽も参照している。地元のロンドンのほか、ロサンゼルス、グラスゴー、アムステルダム、南アフリカ、フィリピン、中国、日本などの国名や都市名が曲に盛り込まれた『ピース、ラブ&ミュージック』(2015年)や、ロンドン、ロサンゼルス、ブラジルでのセッションからなる3枚のEPをまとめた『トリロジー・イン・ファンク』(2017年)は、旅先でのインスピレーションや現地のアーティストとの交流から生まれたものだ。音楽のジャンルや時代、空間を超えて新しいものを作り出すアーティストと言えるが、それは彼がもっとも影響を受けたアーティストというクインシー・ジョーンズにも共通している。クインシーがかつてビッグ・バンド・スタイルでやったジャズとラテンやブラジル音楽の融合は、確実にスウィンドルにも受け継がれていると思う。クインシーはいろいろなミュージシャンを集めてセッションするのを好み、マイケル・ジャクソンやパティ・オースティンらをヒットさせたプロデューサーでもあるが、いまのジャズ界ではロバート・グラスパーも割と近い部分を持っている。ロバート・グラスパー・エクスペリエンスの『ブラック・レディオ』(2011年)はすべての曲にシンガーやラッパーがフィーチャーされ、彼らとのセッションをラジオ・プログラム風に綴ったものだったが、そこでのグラスパーはプロデューサーとしての側面も持っていた。スウィンドルにもこうしたスタイルは当てはまり、『トリロジー・イン・ファンク』でのD・ダブル・Eやゲッツなど、彼の多くの作品にはグライムのラッパーやシンガーがフィーチャーされ、『ピース、ラヴ&ミュージック』にはラジオ・プログラム風の構成も見られる。

 このたびリリースされた新作『ノー・モア・ノーマル』の制作風景も、グラスパーが『ブラック・レディオ』でやったのとほぼ同じものだ。ピーター・ゲイブリエルのリアル・ワールド・スタジオとレッド・ブルのスタジオを2週間ほど借りて、そこにゲストが入れ替わり立ち代わりやってきて、ジャム・セッション的なものをやっていく中からできたそうだ。データ・ファイルの交換で音を作り、メールで送ってもらったヴォーカル・パートをトラックに乗せるというベッドルーム・プロデューサー的なやり方ではなく、物理的な制約がない限りは実際にミュージシャンと顔を合わせ、コミュニケーションをとりながらレコーディングするという昔ながらの音楽制作のやり方で作られたものだ。ライヴではバンド・スタイルの演奏にこだわる彼らしく、基本的に生の演奏を好むミュージシャンシップに溢れる人なのだろう。グライムやダブステップ系の作品としては珍しく、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロなどのストリングスやホーン・セクションがふんだんに使われ、それらもサンプリングではなく生演奏というゴージャスさ。“ワット・ウィ・ドゥ”や“ドリル・ワーク”などにオーケストラを用いた昔のサントラ的な雰囲気があるのはそのためだ。ゲスト・シンガーにはグライムのレジェンドであるP・マニーとD・ダブル・E、昨秋にニュー・アルバムを発表したばかりのグライム界のカリスマのゲッツなど親交の深い面々に、ブリストルのスポークンワード・アーティストのライダー・シャフィーク、『トリロジー・イン・ファンク』でも共演したR&Bシンガーのデイリー、レゲエ・シンガーのキコ・バンやエヴァ・ラザルス、ブルー・ラブ・ビーツの作品などにフィーチャーされるラッパーのコージェイ・ラディカル、ロンドンのシンガー・ソングライターのエッタ・ボンドなど多彩な面々が参加。レゲエにソウル、グライムにヒップホップと、いろいろな要素が絡み合ったロンドンらしいサウンドということは、このラインナップを見てもわかるだろう。ミックス・エンジニアも旧知のジョーカーが担当するほか、随所でトーク・ボックスを披露するキャメロン・パーマーも“ドゥ・ザ・ジャズ”や“フォレスト・ファンク”の頃からの付き合いだ。

 演奏はスウィンドルがキーボードやアナログ・シンセなどを演奏するほか、ヌビア・ガルシア、マンスール・ブラウン、ユセフ・デイズ(ユナイテッド・ヴァイブレーションズ、ルビー・ラシュトン、元ユセフ・カマール)などのジャズ・ミュージシャンの参加が目につく。またマンチェスターの9人組ブラス・バンドのライオット・ジャズも参加しているが、このトランペット奏者のニック・ウォルターズはルビー・ラシュトンのメンバーで〈22a〉とも親交が深く、そうしたことも含めていまのサウス・ロンドンを中心に起きているUKジャズの新しいムーヴメントと出会ったアルバムでもある。シンガー・ソングライターのアンドリュー・アションも今回はギターとベース演奏で参加している。ユセフのドラムにマンスールのギター・ソロがフィーチャーされた“トーク・ア・ロット”は、そうしたミュージシャンの即興性溢れるプレイを引き出した作品。ヌビアがサックスを吹く“ラン・アップ”、マンスールとライオット・ジャズの参加した“カミング・ホーム”は、これまでの『ロング・リヴ・ザ・ジャズ』や『トリロジー・イン・ファンク』同様、土台のサウンドにあるのはファンクだ。アンドリュー・アションをフィーチャーした“リーチ・ザ・スターズ”もキャメロン・パーマーのトーク・ボックスが印象的なファンクで、昨年〈ブレインフィーダー〉から『レジスタンス』をリリースしたブランドン・コールマンあたりに近い印象。Pファンクからザップあたりの参照が感じられるナンバーであり、UKのダブステップやグライムの文脈にありながら、US西海岸のファンクやソウルの影響を受け、現在ならアンダーソン・パークからルイス・コールなどとの共通項も見いだせる作品と言えよう。エッタ・ボンドとコージェイ・ラディカルが歌う“カルフォルニア”はジ・インターネット的だ。今回はロンドン以外にロサンゼルスのスタジオで録音したものもあるそうで、いろいろな場所の音を体内に取り込むスウィンドルらしい作品と言える。

小川充