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Khruangbin

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Khruangbin

Con Todo El Mundo

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野田努   Jun 20,2018 UP

 W杯はあいかわらずクソ面白い。まだまだグループ・リーグの途中だが、すでに大番狂わせがあり、名勝負があり、議論があり、波乱がある。日本が10人とはいえ南米の強豪相手に戦前の予想を覆したこともそうだ。しかしそれ以上に、当たり前にして当たり前のことだが、世界にはいろいろな国があるんだということをあらためて思い知ることの喜びというか。エジプトの健闘ぶりを見ながら(そして、サラーの悔しそうな表情を見ながら)、ぼくはリアーナの“Phresh Out the Runway”を聴かずにはいられなかった。これはエジプトのダンスのスタイル、通称マラガンを取り入れた曲である。もっともスウェーデンが勝ったからといってカリ・レケブシュを聴こうとは思わなかったけれど。
 紙エレキングの最新号でぼくは「ドイツをどこが倒すか」などと得意げに書いているが、スキなしと思われたこの優勝候補は初戦でメキシコに敗れた。この試合を観た人ならわかることだが、とにかく、メキシコが素晴らしかった。メディアではアイスランドの現実的で割り切った戦いが賞賛されているけれど、あれはメッシを神格化したアルゼンチンの自滅ともいえる試合だったし、ごめん、ぼくはフットボールは身長でやるものではないという考えなので、メキシコのような戦い方のほうが好きだ。本当に良いものを見せてもらったな。あとは、ドイツとブラジルがトーナメントの初戦で当たるようなことがないことを祈るばかりだ。
 音楽の世界はある意味では不公平かもしれない。ウルグアイのボサノヴァなんてよほどの物好きでなければ聴かないだろうけれど、フットボールの世界ではウルグアイは古豪として一目置かれている。しかし、いや、サウジアラビアやイランにも良い音楽シーンがあるのだから、一泡吹かして欲しい。もちろんポルトガルにもスペインにも紹介したいアンダーグラウンドな音楽はある。日本も国際的に評価されているミュージシャンは少なくないんだけどね。

 なんだかフットボールと音楽がごっちゃになっているけれど、W杯開催中に何を聴けばいいのかというテーマは、この両方が好きな人ならそのときそのときいつも考えることなんじゃないだろうか。じつは今年は、それに相応しいアルバムがある。クルアンビンというタイ語の名前を持つテキサスのバンドのセカンドは、基本はギターのインストをフィーチャーした、良い感じでゆるめのファンクだが、W杯のようにいろいろな国──イラン、タイ、キューバ、アフロなどなど──の音楽のミクスチャーでもある。インターネット時代にありがちな退屈なハイブリッドではない。さながら極上の煙をくゆらせながらの陶酔におけるミキシングであり、演奏である。こんな音楽を聴きながら感動の余韻に浸るのは最高だよ。血の気の多い人も平和な気持ちになれるだろう。アルバムのタイトルはスペイン語で、「全世界で」という意味。

野田努