ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. R.I.P. 鷲巣功
  2. 鷲巣功
  3. Cornelius - Refractions | コーネリアス
  4. Kim Doeon - SLAPSTICK | キム・ドオン
  5. 別冊ele-king パンク50周年記念号──それは何だったのか、何でありえるのか
  6. YUKINO INAMINE + AKIO NAGASE ──琉球ダブ・ダンス・サウンドに注目
  7. This Is Lorelei - The Singer in My Band | ディス・イズ・ローレライ
  8. interview with Wendell Harrison 音楽の楽園=デトロイトから、ウェンデル・ハリソンがファラオ・サンダースとサン・ラーの思い出を語る
  9. Columns P-VINE 50th Anniversary Interview Pヴァイン50周年対談
  10. interview with Toshimaru Nakamura 世界を魅了する、類い稀なる電子音響 | ──中村としまる、待望の初期ベスト盤リリースと超ロング・インタヴュー
  11. Dusty - Dusty & Friends / Commodo - Deep Harbour ft. Alfa Mist / Untold - False Vacuum
  12. Smany ──エスメニーのアルバムが〈Virgin Babylon〉よりリリース
  13. RYUICHI SAKAMOTO + SHIRO TAKATANI AMBIENT KYOTO - TOKYO -
  14. 対談 半世紀を経て蘇る静岡ロックンロール組合
  15. Columns 内田裕也さんへ──その功績と悲劇と
  16. Rough Trade ──50周年イベント開催を祝し、恵比寿KATAにポップアップが出現
  17. sibasi kyoto ──京都のレコード喫茶/カルチャー・スペース「しばし」が展覧会シリーズを始動、初開催はテリー・ライリーのオーディオ・インスタレーション
  18. interview with Kinnara : Desi La 「アートによって、私は世界に満足できるようになりました。アートが、私の孤独の多くを壊してくれたのです」 | ──緊那羅:デジ・ラ、インタヴュー
  19. 河内音頭
  20. ele-king vol.37 ボーズ・オブ・カナダ大研究/サイケ&ドリーミー特集

Home >  Reviews >  Album Reviews > Various Artists- We Out Here

Various Artists

AfrobeatFunkFusionSpirtual Jazz

Various Artists

We Out Here

Brownswood Recordings/ビート

Tower HMV Amazon

小川充野田 努   Feb 09,2018 UP
E王
12

小川充

 いまから20年ほど前のロンドンでは、北西部のラドブローク・グローヴを中心にブロークンビーツのムーヴメントが盛り上がりはじめ、俗にウェスト・ロンドン・シーンと呼ばれていた。ジャズ、ヒップホップ、ハウス、テクノ、ドラムンベース、レゲエ、アフロ、ファンクなどを立体的に融合したブレイクビーツというのがブロークンビーツだが、それはロンドンの折衷的で雑食的な音楽文化を象徴するものでもあった。そしてここ1、2年、今度は南ロンドンで新たなジャズ・ムーヴメントが注目を集めている。かつてのウェスト・ロンドン・シーンを思い起こさせる動きで、このムーヴメントは南ロンドンにあるペッカムという街を中心としている。もともと治安が悪かったこの地区だが、近年はレコード・ショップやインターネット・ラジオ局、ギャラリーやバーなどが生まれ、アーティストや若者が集まり始めているという状況だ。このペッカムを拠点とするレーベルに〈リズム・セクション・インターナショナル〉があり、ディープ・ハウスを軸にブロークンビーツやジャズなどクロスオーヴァーな音楽性を志向する作品を紹介している。〈リズム・セクション・インターナショナル〉からは鍵盤奏者のヘンリー・ウーことカマール・ウィリアムズが作品を出しているが、彼とユナイテッド・ヴァイブレーションズというバンドのドラマー、ユセフ・デイズの組んだユゼフ・カマールが登場したのが2016年。この頃から南ロンドンのジャズ・シーンがクローズアップされるようになっていく。

 このムーヴメントの代表的なミュージシャンには、ヘンリー・ウーやユセフ・デイズ、ユナイテッド・ヴァイブレーションズ以外に、ドラマーのモーゼス・ボイド、サックス奏者のテンダーロニアス、シャバカ・ハッチングス、ヌブヤ・ガルシア、キーボード奏者のジョー・アーモン=ジョーンズ、ベーシストのマックスウェル・オーウィンなどがいる。
 それぞれのソロ作やプロジェクトのほか、横の交流やセッションも盛んで、なかでもモーゼス・ボイドはもっとも早くから注目を集めていたひとりだ。サックス奏者のビンカー・ゴールディングとフリー・ジャズ・スタイルのデュオを組むほか、エクソダスというクラブ・サウンド寄りのプロジェクトでも活動する。このエクソダスのようにドラマー以外にビートメイカーという側面も持ち、昨年リリースしたEPの『アブソリュート・ゼロ』ではフュージョンとフットワークを融合したような世界を見せている。一方でジャズ・シンガーのザラ・マクファーレンのアルバム『アライズ』をプロデュースし、ジャズとジャマイカ音楽を結ぶなど多彩な音楽性を持つ。テンダーロニアスも同様にビートメイカー/プロデューサーでもあり、〈22a〉というレーベルも運営し、ユセフ・デイズらと組んだルビー・ラシュトンというユニットのアルバムも出している。
 シャバカ・ハッチングスはジ・アンセスターズ、サンズ・オブ・ケメット、ザ・コメット・イズ・カミング、メルト・ユアセルフ・ダウンなど様々なユニットで演奏し、前述のザラ・マクファーレンの『アライズ』やユゼフ・カマールの『ブラック・フォーカス』にも参加していた。サンズ・オブ・ケメットとメルト・ユアセルフ・ダウンではトム・スキナー(ハロー・スキニー)と組むなど幅広い音楽交流を持つ。ジョー・アーモン=ジョーンズはファラオ・モンチのヨーロッパ・ツアーでバックを務めたエズラ・コレクティヴというユニットに参加する。このエズラ・コレクティヴはザラ・マクファーレンを交えた作品のほか、昨年は『ファン・パブロ:ザ・フィロソファー』というEPをリリースし、サン・ラーのカヴァーを披露していた(ちなみに、このEPのエンジニアはフローティング・ポインツのサム・シェパードがやっている)。
 また、ジョー・アーモン=ジョーンズはマックスウェル・オーウィンと共同でEP『イディオム』もリリースしているが、この『イディオム』や『ファン・パブロ:ザ・フィロソファー』には女流サックス奏者のヌブヤ・ガルシアも参加する。彼女もレーベル運営とイベント主催を両立させる〈ジャズ・リフレッシュド〉からリーダー作を出し、そこにはジョー・アーモン=ジョーンズとモーゼス・ボイドも参加するという間柄だ。〈ジャズ・リフレッシュド〉は近年のロンドンのジャズ・シーンを支える存在で、リチャード・スペイヴンやカイディ・テイタムなどキャリア豊富な面々から、マイシャ、トライフォース、トループ、ダニエル・カシミールなど新鋭や若手が作品をリリースしている。

 ジャイルス・ピーターソン監修による新しいコンピ『ウィー・アウト・ヒア』は、こうした南ロンドンの新しいジャズ・ムーヴメントを伝えるものだ。音楽ディレクターをシャバカ・ハッチングスが務め、彼のほかにモーゼス・ボイド、エズラ・コレクティヴ、ジョー・アーモン=ジョーンズ、ヌブヤ・ガルシア、マイシャ、トライフォースらが新曲を披露している。
 マイシャの“インサイド・ジ・アクション”はスピリチュアル・ジャズで、エズラ・コレクティヴの“ピュア・シェイド”はアフロ風味のジャズ・ファンク。モーゼス・ボイドの“ザ・バランス”はコズミックなフューチャー・ジャズで、ヌブヤ・ガルシアの“ワンス”はストイックなモーダル・ジャズと、それぞれジャズと言ってもタイプの異なる作品を演奏しており、こうした間口の広い点がロンドンらしさの表れでもある。ジョー・アーモン=ジョーンズの“ゴー・シー”はフュージョン的な作品だが、そこにはダブやUKクラブ・ミュージックのエッセンスも注ぎ込まれている。
 UKのジャズ・シーンはアシッド・ジャズの昔からクラブやDJサウンドと密接な繋がりを持ち、お互いに作用し合ってきた。かつてのウェスト・ロンドン・シーンに登場したカイディ・テイタムもそうした流れに位置するミュージシャンであるし、近年であればリチャード・スペイヴンがその最たる例だろう。そして、このコンピのモーゼス・ボイドやジョー・アーモン=ジョーンズの作品を聴くと、こうしたUKのジャズの歴史や流れがいまも息衝いていることがわかる。

小川充

12