ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. Robert Johnson ──オリジナルSP盤から起こしたロバ―ト・ジョンスンの12作が10インチでリイシュー
  2. interview with Adrian Sherwood 愛とソウルと、そしてメロウなダブ・アルバム | エイドリアン・シャーウッド、インタヴュー
  3. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある
  4. interview with Cameron Picton (My New Band Believe) 元ブラック・ミディのキャメロン・ピクトン、新バンドにかける想い | ──初のアルバムを送り出したマイ・ニュー・バンド・ビリーヴ
  5. Stones Throw ──設立30周年記念日本ツアー開催、ピーナッツ・バター・ウルフ、ノレッジ、マインドデザイン、ミチが来日
  6. Laurel Halo - Midnight Zone (Original Soundtrack to the Film by Julian Charrière) | ローレル・ヘイロー
  7. There are many many alternatives. 道なら腐るほどある 第1回 現象になりたい
  8. ボカロが世界に与えた衝撃 一億回再生の意外な背景
  9. Columns Thundercat 来日を控えるサンダーキャット、その新作が醸し出すチルなフィーリングについて
  10. interview with Ego Ella May ジャズとネオ・ソウルの邂逅 | エゴ・エラ・メイ、インタヴュー
  11. 別冊ele-king 音楽が世界を変える──プロテスト・ミュージック・スペシャル
  12. DADDY G(MASSIVE ATTACK) & DON LETTS ——パンキー・レゲエ・パーティのレジェンド、ドン・レッツとマッシヴ・アタックのダディ・Gが揃って来日ツアー
  13. Mamas Gun - Dig! | ママズ・ガン
  14. 別冊ele-king J-PUNK/NEW WAVE-革命の記憶
  15. Columns 3月のジャズ Jazz in March 2026
  16. KENNY DOPE JAPAN TOUR 2026 ——ケニー・ドープ、9年ぶりの来日決定です
  17. 菊地雅章 - 六大(地・水・火・風・空・識)
  18. Ethel Cain - Perverts | エセル・ケイン
  19. Squarepusher ──スクエアプッシャーのニュー・アルバムがリリース
  20. Moemiki - Amaharashi

Home >  Reviews >  Album Reviews > Moonchild- Voyager

Moonchild

JazzSoul

Moonchild

Voyager

Tru Thoughts / ビート

Tower HMV Amazon iTunes

小川充   Jun 23,2017 UP

 2010年代に入ってロサンゼルスのジャズ・シーンが注目を集める一方、同地が輩出するR&B~ソウル・アーティストの活躍も目覚ましいものがある。日本でもよく知られるところでは、ジ・インターネット、ライ、インク、キングなどの名前が思い浮かぶし、マックス・ブリック、アンドリス・マットソン、アンバー・ナヴランによる男女3名グループのムーンチャイルドもまたそのひとつだ。ムーンチャイルドの場合は新世代のネオ・ソウル・グループと評されることが多い。紅一点のアンバーのソフトで温かみのある歌声は、ジル・スコット、インディア・アリー、コリーヌ・ベイリー・レイなどネオ・ソウル系の名シンガーたちにも引けをとらず、かつてのミニー・リパートンのようにナチュラルな美しさを持っている。ただし、単純にネオ・ソウルの枠に収まらない音楽的な複合性、多様性もあるのがムーンチャイルドである。彼らの特徴のひとつにオーガニックなジャズ・マナーを持ち込んだ作風が多く、また室内楽風とも言える優美なホーン・アンサンブルをはじめとした器楽演奏がフィーチャーされている点も挙げられる。メンバー3人は南カリフォルニア大学のジャズ・サークル出身で、それぞれテナー&アルト・サックス、トランペット、フリューゲルホーン、クラリネット、フルートなどを演奏する。このようにグループの下地にはジャズがあるので、一般的なR&Bやネオ・ソウルのグループと言うより、ジャズとソウルの中間のようなサウンドとなっている。ローバト・グラスパーからスティーヴィー・ワンダーまで、いろいろなアーティストたちから高い評価を集めるゆえんだろう。

 本作『ヴォイジャー』は、自主制作で発表したデビュー・アルバム『ビー・フリー』(2012年)、〈トゥルー・ソウツ〉を通じてワールドワイドにリリースされた『プリーズ・リワインド』(2014年)に続く、通算3枚目のアルバムとなる。過去2作同様に本作もセルフ・プロデュースなのだが、今回はエミリー・キングの共同プロデューサーで、ディアンジェロ、アンソニー・ハミルトン、ゴードン・チェンバース、ハイエイタス・カイヨーテ、ジェシー・ボイキンス3世などの作品にも関わってきたプロデューサー/ソングライター/ギタリストのジェレミー・モストが、制作におけるインスピレーションとして重要な役割を果たしているそうだ。サウンドは『ビー・フリー』や『プリーズ・リワインド』からの基軸を継承しつつ、ところどころに新しい試みを入れ、より幅広い音楽性を織り交ぜていることが感じられ、そのあたりがモストの影響なのだろう。ラテン風の開放的なムードを持つ“ショウ・ザ・ウェイ”、シンセ・ベースが印象的な“レット・ユー・ゴー”など、今までのムーンチャイルドにはあまりなかったタイプの作品も見られる。ザラっとした質感のビートの“エヴリー・パート(フォー・リンダ)”も、ムーンチャイルドにしては珍しいタイプの作品。どちらかと言えばディアンジェロやエリカ・バドゥなど、ソウルクエリアンズ絡みのサウンドに近いもので、エレクトリック・サウンドの導入もいつもより多目だ。とは言え、ヒップホップ色がそこまで強く出ていないのは、アンバーのヴォーカルと洗練された器楽演奏やアレンジによるところが大きい。モストからの影響によるヒップホップ~ネオ・ソウル的なラインを、うまく自身のカラーの中で消化していることがわかる1曲だ。

 “キュア”はネオ・ソウル色の濃いナンバーで、アンドリスによるピアノ、ローズ、クラヴィネットにシンセを交えた重層的な鍵盤群、アンバーのヴォーカル&コーラスの多重録音が鍵となる。女性3人組のキングに近いタイプの曲で、ここでもアコースティックな要素とエレクトリックな要素の融合が今までよりも進んでいる印象を与える。アンバーのフルート・ソロがフィーチャーされた“6AM”でも、オーガニックなムードにエレクトロニクスが巧みにブレンドされていることがわかる。“ハイダウェイ”や“ザ・リスト”はロバート・グラスパー・エクスペリメントに通じる、ジャズとソウルの中間的なサウンド。前者ではマックスのアルト・サックス&クラリネットが随所に差しこまれてアクセントとなり、後者ではアンドリスのキーボードとトランペット、マックスのアルトのコンビネーション・センスが抜群である。幻想的な雰囲気を持つ“ナウ・アンド・ゼン”もそうだが、アンバーの歌はいたずらに存在感を主張することなく、むしろ器楽の一種として機能し、演奏をうまくフォローする役割も担う。ムーンチャイルドの魅力は、この3人の力がバランスよく結びついていることを再確認させる曲だ。デビュー時からムーンチャイルドはストリングスの導入にも積極的で、ヴァイオリン、チェロ、ハープなどのプレイヤーをホーン・アンサンブルと結び付けて効果的に用いている。本作では“シンク・バック”や“チェンジ・ユア・マインド”あたりが好例だろう。一方、Jディラ風のズレたビート用いた“ラン・アウェイ”は、彼らとしてはヒップホップ色の強い異色作なのだが、トリッキーなシンセがコズミックな質感を醸し出す一方、アンバーの歌の持つ端正さや可憐さが、ムーンチャイルド特有の優美で格調の高い世界を保っている。今までの彼らからは相反するような要素も、違和感なく自然な形で自分たちの世界に取り込み、よりスケールアップしたのが『ヴォイジャー』と言える。

小川充