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Wiley

Grime

Wiley

Godfather

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米澤慎太朗   Feb 08,2017 UP

 Wileyが〈CTA Records〉から通算11枚目のスタジオ・アルバムをリリースした。このアルバムをレヴューする前に、彼がなぜグライムの「ゴッドファーザー」と自らを呼ぶに至ったか紹介したい。
 Wileyがのちにグライムと呼ばれる音楽の原型となるサウンド「エスキービーツ」を作りあげたのは、その語源となった「Eskimo」のリリースから数えれば15年前のことである。ファースト・アルバム『Treddin’ On Thin Ice』に収録されている“Wot Do U Call It?(なんと呼ぶ?)”では、彼のサウンドがガラージ、2ステップ、アーバンと呼ばれることを否定し、まだ名もなきこの音楽と「ともに行こう」とラップした。2001年頃からチャラいUKガラージが突然変異したようなサウンドを、自身のレーベルでリリースし続け、2005年に〈Boy Better Know(BBK)〉に加入した。〈BBK〉には昨年マーキュリー賞を受賞したSkepta、JME、Jammerなど今のグライムを牽引するMCが所属している。Wileyはエスキービート、そして「グライム」と呼称される重たく凍えるような、チープでメロディックなサウンドを作り上げた。

 しかし、Wileyのキャリアはそのあと順風満帆ではなかった。

これが俺たちが今いるところだ
クルーの皆はまるで、トンネルの中みたいだ。
ファミリー、それこそが俺たちの気にかけることだ。
文字通り、レーベルがくれる金なんて無い、クソだ。
全く意味がない。
[“Speaker Box”冒頭のSkeptaの言葉]

 このSkeptaの言葉は、メジャー・レーベルから支持されない音を作ろうとするWileyの苦悩とも重なる。
 2011年に表現を取り戻すべくメジャーを離れ、「Stepフリースタイル」シリーズを開始、Twitterでフリー・ダウンロードで20曲を公開した(*1)。
 今回のアルバムはこの「Stepフリースタイル」シリーズを思い出させる。レーベルと関係なく「やっていく」インディペンデントな姿勢を感じるとともに、「Stepフリースタイル」にトラックを提供した若き才能あるプロデューサー、Preditahや盟友Dot Rottenは今作にも参加し存在感を放っている。
 トラックは全体的にトラップらしいラウドなビートとグライムの定番ホーンやベースラインが重なり、時折無国籍なメロディが顔をのぞかせる。

俺の顔を覗き込むなら、ボスを目にするだろう
クラウドの側を見るなら、モッシュを目にするだろう
ボブ・マーリーとピーター・トッシュのようにやる
これがスピーカーボックスのエスキーボーイ
[“Speaker Box”]

 Rap Geniusで歌詞を読んでみると、全体的にギャルやブリンブリンのアクセサリーといったテーマは控えめで、代わってどのように他のMCより優れているか、そして音楽を作り、成り上がったかについてラップしている。
 前者はグライムのクラッシュ(レゲエから影響を受けたMCバトル)にあるような、MC同士が切磋琢磨する文化から来ているだろう。後者は純粋にWiley自身の真面目さからきているように思える。アルバムの後半、TR.15“Lucid”やTR.16“Laptop”では、彼自身が10代の頃からノートパソコンで曲を作り、フリー・ダウンロードで公開することなど、インターネットを用いてファンに音楽を届けることを大切にする真摯さが伺える(*2)。
 MCの客演では、TR.11“On This”でフィーチャーされたIce Kidが良い。彼は十代の頃からWileyにフックアップされているが、フローのテクニカルさが客演陣の中でも際立っており、140というスピードの奥深さを感じさせる。また、TR.07“Pattern Up Properly”でフィーチャーされたJamakabiのパトワ混じりのMCも一周して今っぽくて好きだ。

Wiley、Chip、Ice Kidが出演するWestwood TVのビデオ(2007年)

 同世代、後続のMCやプロデューサーを刺激し、シリアスに音楽をやり続けるワイリー。
 「この音楽をやっていこう」、彼が2004年に発したメッセージとアクションがこのアルバムに結実した。

(セールスの)数字を俺たちに言ったって意味ない
俺たちは彼らを見ているからだ
俺たちが経験してきたことなんて
今のキッズは経験する必要のないやり方で
このことに没頭しているんだ。
[“Speaker Box”最後のSkeptaの言葉]

*1 ちなみに、このシリーズの“Step 20”はZombyが近年リメイクし、「Step 2001」として〈XL Recording〉からリリースされた。
*2 ちなみにWileyは以前インタヴューで、“Eskimo 2 (Devils Mix)”が収録されたレコードのヒットで車を買ったと話している。ブリティッシュ・ドリーム!

米澤慎太朗