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エスキーなストリート・ミュージックが再び鳴り始める米澤慎太朗

 2008年に〈Hyperdub〉からデビューしたZombyが、再び同レーベルからグライム、「エスキー・ビーツ」の影響を強く感じさせる最新アルバム『Ultra』をリリースした。彼はこれまで、常に新しいモードにチャレンジしてきた。ジャングルや90年代レイヴ・ミュージックを強く感じさせる『Where Were U In '92?』〈Werk Discs〉に始まり、〈4AD〉と〈Ramp Recordings〉から4枚のアルバムをリリースしてきた。その後もTwitter上での熱いツイートで話題を常に絶やさなかった彼だが、ビートレスのトラックをWileyのヴォーカルが引っ張る昨年のシングル「Step 2001」〈Big Dada〉が本作『Ultra』を方向づけたように思う。

 収録曲の中でソロで制作されたものは、Wileyが作った(*1)エスキー・ビーツのアイディアを借用し、サウンドを発展させている。例えば、“Burst”の最初の小節に挟まれる一音はWileyの“Ice Rink”に使われていたエスキー・クリックと呼ばれる音である。また、アルバムのオープニング3曲は「Devil Mix」または「Bass Mix」とWileyが名付けたドラムのないインストゥルメンタル・トラックである。しかし、ただエスキー・ビーツをなぞるだけでなく、ハイファイな音作りで現在にアップデートさせた音像を提示している。
 無機質なベース音と、繰り返すビデオ・ゲームの効果音のような音の隙間には、グライムMCの熱のこもったラップが聴こえてきそうだ。DJがセットに時折混ぜるデヴィル・ミックスの淡々としたトラックは、ドラムなしのビートにマイクを握り続けるMCと、「早くマイクをよこせ」と待っているMCの間に生じる緊張感をさらに高めていく。“Burst”からは、そんなロンドンのラジオ局の様子が想像できた。しかし、ZombyはMCと共作する代わりに、ヴォーカルをチョップすることで、ほんの少しだけ緊張感を和らげているようだ。

 なぜ、今エスキー・ビーツなのか? この2~3年の間で、2000年代前半のエスキー・ビーツの再解釈がイギリスのシーンのトレンドになっていることがあるだろう。その背景には、アメリカの「トラップ」と全く異なり、2000年代初期の「エスキー・ビーツ」(*2)のスタイルにイギリス・グライムのオリジナリティを感じ、インスピレーションを求めようとする新世代のプロデューサーがいる。例えば、LogosやRabit、Visionistなどはエスキー・ビーツの影響を受けているし、今年は、2003年リリースのワイリーの曲“Igloo”を下敷きにしたトラックに、人気MC Stormzyが乗っかった“One Take”がクラブ・ヒットした。それに呼応するかのように、〈Local Action〉や〈DVS Recordings〉など名の知れたものからアンダーグラウンドまで、さまざまなレーベルが、2000年代前半シーンの勃興期にDJの間のみで流通していたプロモ盤を再リリース。2000年代前半のローな音への「原点回帰」がトレンドになりつつある。Zomby自身は年齢非公表のため想像にすぎないが、Zombyはおそらくリアルタイムで2000年代初頭のグライムを経験し、このタイミングでグライムの原点の一つであるエスキー・ビーツを自分なりにもう一度消化してアルバムとして提示したのではないか。

 ソロで制作された粗い質感のトラックはアルバムの方向性を決定づけているが、Burial、Rezzett、Darkstar、Bansheeとコラボレーションしたトラックではフロア向けのトラックとは別のベクトルに音楽性を発展させようと挑戦している。特に、Darkstarとのコラボレーションはどのパートをそれぞれが担当したかわかりやすいという意味でも面白い曲。どのコラボレーションもZombyのサービスとして、また息の詰まりそうなエスキー・ビーツの間の休みとして楽しめる。アルバム通してハイファイながら粗いローな感覚に浸れる一枚だ。

(*1)TR.1“Reflection”、TR.2“Burst”、TR.3“Fly 2”、TR.10“Freeze”、TR.11“Yeti”。
(*2)矩形波のベース音やKORGのTritonのプリセット音を使うスタイル。

米澤慎太朗

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