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いまもっとも旬のプロデューサーと言っていいだろう。ケイトラナダことルイ・ケヴィン・セレスティンが初のアルバムをリリースした。ハイチ生まれで生後間もなくカナダのモントリオールに移り住んだ彼は、現在まだ23歳の若者だ。J・ディラ、マッドリブ、ア・トライブ・コールド・クエストなどの影響を受け、14歳でDJを、15歳で楽曲制作を始め、最初はケイタラダムス名義(シカゴのトラップ・プロデューサーのフラストダムスに憧れて命名している)で作品発表を行っていた。その頃はアンオフィシャルなリミックスものやミックス・テープが中心で、ヒップホップやトラップ、ビート・ミュージック系の作品が多かった。2013年からケイトラナダに名前を変えるのだが、その前後に手掛けたジャネット・ジャクソン、エリカ・バドゥ、ティードラ・モーゼスらのリミックスが話題を集める。姉の影響で幼少の頃からR&Bに慣れ親しんできた彼は、こうしたリミックスでR&Bやヒップホップ方面からの仕事をゲットしていくのだった。彼の手掛けたリミックスは公式、非公式も含めてビヨンセ、ファレル、ディスクロージャー、アルーナジョージ、ロバート・グラスパー、ミッシー・エリオット、アジーリア・バンクス、タキシード、フルームなど多岐に及び、プロダクションでもモブ・ディープ、タリブ・クウェリ、フレディ・ギブス、ミック・ジェンキンス、ジ・インターネットなどの作品制作を行っている。今年に入ってからもアンダーソン・パーク、ケイティ・B、チャンス・ザ・ラッパーと、彼が参加したアルバムには話題作が尽きない。
ここ2、3年の間に大注目のプロデューサーとなってしまった彼は、ヒップホップ、R&B、ハウスなどあらゆるダンス・サウンドに通じ、ジャズ、ファンク、ブラジリアンなど多彩な音楽的モチーフを引き出しの中に持つ。メジャーとアンダーグラウンドの間を行き来できるプロデューサーで、ヒップホップを軸としつつもオールマイティな才能を持っている点では、マッドリブやDJスピナなどヒップホップの枠を超えた活動するプロデューサーを思い起こさせる。『99.9パーセント』では、そんなケイトラナダのプロダクションの魅力を十二分に満喫できるだろう。
参加ゲストも豪華で、フォンテ、クレイグ・デイヴィッド、アルーナジョージ、ゴールドリンク、リトル・ドラゴン、ジ・インターネットのシド・ザ・キッド、同じカナダのバッドバッドナットグッドらがフィーチャーされる。トリッキーなエレクトリック・ブギーの“トラック・ウノ”、ドリーミーなジャズ・ファンクの“バス・ライド”、クレイグ・デイヴィッドのシルキーなヴォーカルが映えるR&Bナンバー“ゴット・イット・グッド”というオープニングからの3曲を聴いても、多彩なサウンドを操りながらもしっかりと自分の世界を構築していく能力が感じられる。アルーナジョージとゴールドリンク参加の“トゥゲザー”、リトル・ドラゴンをフィーチャーした“バレッツ”など、BPM110~120あたりのハウス系の作品が結構多いのだが、それでもヒップホップを出自とするトラックメイカーというのがわかるブレイクビーツのプロダクションだ。フォンテが歌う“ワン・トゥー・メニー”はハウスとヒップホップとR&Bの中間にあるような作品で、こうした全方向に通じるところがケイトラナダのいちばんの魅力ではないだろうか。フットワークにも通じるような“ライト・スポッツ”ではガル・コスタのトロピカリア期の作品を、“デスパイト・ザ・ウェザー”ではアンビエンスのスピリチュアルなボッサをサンプリングするなど、ジャズ系のネタ使いも多く見られる。そうした彼のジャズ・センスが発揮されたのがバッドバッドナットグッドをフィーチャーした“ウェイト・オフ”だろう。なお、ケイトラナダはこれからリリースされるバッドバッドグッドナットのニュー・アルバムにお返しとして客演している。
ちなみに、アルバム発表に先駆けたインタヴューで彼はゲイであることをカミングアウトしている。最初、彼の母親にそのことを受け入れてもらえなかったのだが、だんだんと認めてもらえるようになり、いまは姉や弟とともにサポートしてくれているそうだ。そうしたことを含め、いままではどうしても自身を開放できないところを抱えていたケイトラナダだが、現在の心境はより100パーセントに近いハッピーなものへと変わってきているという。アルバム・タイトルの『99.9パーセント』には、そうした想いも込められているようだ。
小川充