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Kendrick Lamar

Hip HopNew Generation of Black Protest Music

Kendrick Lamar

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Aftermath/Interscope/Top Dawg/ユニバーサル

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野田努   Mar 16,2016 UP
E王

 抗議のための音楽というのは過去のものではない。たったいま起きている音楽だ。それもかなり大きい。

 ポップスターになるべく育てられ、実際メガスターになったビヨンセの、現在のような政治的な姿を、“クレイジー・イン・ラヴ”の時代にいったい誰が予想しえただろうか。スーパー・ボウルというアメリカ最大の祭典に出演した彼女は、BlackLivesMatter(ネットの草の根運動=Netrootsをフル活用した現代の黒人運動)へのシンパシーを表明するかのような、ことPVにおいて政治的かつ扇情的な映像をふくむ新曲“Formation”を披露して話題となった。彼女がフェミニズムを主張して久しいけれど、世界的ポップアイコンの彼女がここまで徹底的にやるとは……。
 2014年末にリリースされたディアンジェロの『ブラック・メサイア』も激しい抗議と祝祭の音楽だった。そしてケンドリック・ラマーはグラミー授賞式において囚人姿でパフォーマンスを見せている。60年代末や70年代にジミ・ヘンドリックスやカーティス・メイフィールド(あるいはマイルス・デイヴィスやスティーヴィー・ワンダーなどなど)が訴えてきものが、21世紀のいま新世代の手で蘇り、たったいま演奏されている。悲しい時代であり、非常事態だとは思うが、まさにその非常事態に突きつけるメッセージと創造性、感情に訴える力、抗議音楽としてのブラック・ミュージックの強度という観点で言えばすごいものがある。

 革命を望んでいるのは音楽だけではない。影響はジェイムズ・ボールドウィンとリチャード・ライトで、最初に読んだ文学はヒップホップだったと答えるノンフィクション作家のタ=ナハシ・コーツのアレックス賞受賞作は、アメリカへの憤怒が込められている(という話だ)。他方では、警察による暴行はエリカ・バドゥやタイラー・ザ・クリエイターらを声優に迎えたアニメ『Black Dynamite』の特別編でも描かれている。
 BlackLivesMatterはクリントンにも、サンダースにも抗議している。オバマという象徴的な人物の時代の末期という今日において、これらブラック・パワー・ムーヴメントが無視できないところにまで顕在化していることは注目に値する。もうリップサーヴィスはいらない。自分たちの政治的主張を訴えるのに黒人を利用するのは止めて欲しい。BlackLivesMatterは、積もり積もった政治不信の噴出とも言えよう。
 ポップと政治を混同させるつもりはないが、しかし、なんだか気がつけば、このポリティカル・ムーヴメントに共振しているように見えてしまっているのがいまのビヨンセであり、ディアンジェロであり、そしてケンドリック・ラマーというヘヴィー級のスターたち……なのだ。

 なかでもケンドリック・ラマーは別格だ。今年の6月で29歳になる彼の2015年の『To Pimp a Butterfly』に収録された“Alright”(ファレル・ウィリアムスが参加した曲)は、(ラマー本人が望んだことではないにせよ)抗議運動のアンセムになっている。
 そしてこんなにも早く新しいアルバムが出た……新しいといっても『To Pimp a Butterfly』セッション時の未発表音源集らしいのだが、そう、それでも素晴らしい。『To Pimp a Butterfly』と同様、ソウルやファンクといった20世紀ブラック・ポップ・ミュージックを吸収しつつも、ヒップホップとジャズと最新エレクトロニクスを折衷させた、じつに優雅な、21世紀の型破りなソウル・ミュージックと呼びうるものだ。人びとの内なるエネルギーを喚起させうる音楽、実験的で、荒々しくも気品を忘れない。
 ラマーの気迫を前面に打ち出した1曲目も良いが、本作からは『To Pimp a Butterfly』とはまた別の、リラックスしたフィーリングを聴くことができる。メロウさはこちらのほうがあるだろう。白眉を挙げれば、フリー・ジャズの断片とファンクを繋げる2曲目とか、5曲目とか、エレクトロ・ファンキーな8曲目とか……いやいや、やっぱ全曲いいね。『To Pimp a Butterfly』より、こちらのほうが好きだと言う人は少なくないかもしれない。
 詩人ラマーの歌詞が読めないのは残念だけれど(本作にはブックレットがない)、音だけでも充分。時代が悪くなれば音楽が輝くというのも皮肉な話ではあるが、我々も彼らも矛盾のなかを生きている。いまこれを聴かずして何を聴けというのか。

野田努